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97話 英雄になんて、なるものじゃない

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軍駐屯地から、生き残った冒険者全員を連れて、皇都に戻ってきた俺達

冒険者ギルド前で勇者(笑)一行を含めた冒険者達と別れる

のだが・・・ここでまたも奴が、来栖がアホなことを言い出す



「俺が城に呼ばれないのは可笑しいだろうが!」



あのね、俺は国とギルドから指名依頼を受けてんの

後、一応、他国の貴族、侯爵家

説明するのも疲れるので



「4人とも、後は任せた!」



「「「「ええ~っ!!」」」」



そして、ダッシュでその場を後にする

来栖がついて来ようとして、八木に足を引っかけられて、顔から地面にダイブ

その上に阿藤が乗り、起き上がりを阻止

更に姫崎の拳が来栖の脳天に直撃し、春宮が追い打ちで杖を振り下ろす

来栖は動かなくなり、阿藤に担がれてギルド内に連れて行かれた

その一部始終を遠目に確認し、皇城へ続く道を歩いて行く



皇城へと続く道の横で、何かチラチラ見られて、ヒソヒソ話をされていた

一体何なんだ?

気にはなったが、早く用事を終わらせて休みたい気持ちの方が勝って、皇城への道を進んで行く

後にこれが、更に疲れる悲劇になるとは、想像していなかった






「クロノアス殿をお連れしました」



皇城門前に着いたら、既に話が通っており、兵士に案内され、応接室へと通される

そこで待っていた人物は、予想通りの人物と予想外の人物達で



「え?何で揃い踏み?」



婚約者含めた、ランシェス組が勢揃い

そして、我が家のメイド統括で完璧超人メイドのナリアまでいた

避難は解除されたのだから、屋敷の方にいると思っていたが

話を聞くと



「皆様のお世話が必要ですから」



そう淡々と答え、席へと案内され、お茶を素早く差し出す

相変わらず、無駄の無い動きだった

ディストとリュミナも素早く俺の後ろへ回る

騎士が後ろに立つように陣取り、残る竜達へ視線を向け



『ふっふっふ、主の警護は我の仕事だ!』



『あなた達は、そこらへんに立ってなさい』



的な視線を流し、5竜達はイラっ!としていた

ちょっと不穏な空気が流れたので



「二人とも、程々にな。それと・・皆、護衛任務ご苦労様。あの二人は、ちょっと高揚してるだけだから、気にしない様に」



ディストとリュミナをちょっとだけディスり、5竜達を労う

それが功を奏してか、ディストとリュミナは少し凹み、5竜達は逆に誇らしげになった

空気を乱したので、甘んじて受け入れてもらおう



一連のボケとツッコミが終わり、皇王陛下が口を開く



「お主は相変わらずだな。・・さて、報告は聞いているが、直接聞かせて欲しいのだが?」



「それは構いませんが、どうしてギルマスがこちらに?」



確か、ギルドで話を聞く予定だったはずじゃ?

その疑問は、ギルマス本人によって語られる



「あっちはサブマスに任せてきた。それに、こっちで話を聞いた方が早いしな。それと・・・」



「よう。相変わらず、無茶してるなぁ」



ランシェスギルマスも何故かいてたりする

またも頭に〝?〟が浮かぶが



「まぁそりゃ、疑問に思うわなぁ・・・俺もなんで呼ばれたのか分かってないし。いきなり軍に拉致られて、ゲートで着いた先がフェリックだったからなぁ」



どこか遠い目をするランシェスギルマス

思わず「ご、ご苦労様です」と言ってしまったほどだ

そこへ、皇王陛下から説明がなされる



「ランシェス側を呼んだのは、情報共有するためだ。クロノアス卿が出発して直ぐに早馬で知らせ、ついたら直ぐに送ってお貰う予定だったんだが・・・」



「ああ、拉致って送り出したら、丁度戻ってきたと」



「そう言う事だな。時間的ロスは無いが、運が良いのか悪いのか・・・ランシェス側の心労、お察しする」



「ははは・・・もう、慣れました・・・」



またも遠い目になるランシェスギルマス

皇王陛下もギルマスも、人をSAN値直葬する化け物みたいに言わないで欲しい

あ、リアフェル王妃も頷いてる

俺、泣いて良いですか?・・・ぴえん



「さて、お喋りはこれくらいにして、本題に移りましょうか」



リアフェル王妃の一言で、空気が真面目なものに変わる

俺も座り直して本題へ



「・・・・・・・・・・・・と、言う訳です」



一通り喋り、事の顛末を話し終えたが、全員の目が俺を睨む

え、きちんと話したよ?ちょっと、嘘はついたけど

でも報告書通りでしょ?

そんな態度で、嘘はついてませんよーと、アピールするが



「それで、何を隠しているんだ?」



皇王陛下の口撃

それに続くように



「クロノアス卿は嘘をつくときに、少しだけ視線が泳ぎますよ」



リアフェル王妃からの追撃

え?リアフェル王妃がそれ言っちゃうの!?王国に戻ってから話そうと思ってたのに?

ちょっとビックリしている俺に、リアフェル王妃が諭すように語りかける



「・・・一つだけ、注意しておきます。国の事を第一に考えるのは良い事ですが、限度というものはあります。相手が仮想敵国か敵国なら問題ないですが、今回は友好国です。ならば、情報共有は必要ですよ」



「・・・それは、俺に向けての苦言か?」



「それは邪推でしょう。それとも、そう捉えるだけの何かがおありで?」



「・・・・ちっ!相変わらずの狐ぶりだな」



「狸には言われたくありませんわね」



途中から、リアフェル王妃VSディクラス皇王に発展

王族同士だから問題ないのかは知らないが、明らかに友好国って感じじゃないんだが

そんな疑問を解くように



「ラフィ様。お父様とリアフェル王妃様は、いつもこんな感じですよ。似た者同士と言うか、親友と言うか、そんな感じです」



「リーゼ・・・そんなわけがないだろう」



「そうですよ。せいぜい悪友や腐れ縁が良いところです」



リーゼの解説に、真っ向から反論する二人

そこで、小型爆弾が投下される



「そうですか?父上もリアフェル王妃様も、チェスをしている時は楽しそうではありませんか。似た者同士、良き友人だと思いますが?」



皇太子、空気を読まずに・・いや、空気を元に戻そうとして、更に悪化させる

2人とも、少しプルプル震えてらっしゃる

これ以上は危険だと判断し合い、矛先をこちらに向ける



「ごほん!でだ、何を隠している?」



「クロノアス卿、今回は話しなさい」



2人とも息ぴったりである

そして、圧が凄い

とは言えなぁ・・・話したくないなぁ

う~ん・・・どうしよう?



そこで助け舟が

ディストがとある提案を話し始めた



「主は、嘘をつきたくてついたわけではありません。今、この場にいる者について、問題があるのです。ですので、確約を頂けないと話せないのです」



ディスト君!ナイスだ!

遠回しに、その人物の退出を提案したディストに、心の中で拍手

それを聞いた二人だったが



「何か、誓約でも受けているのですか?」



「その人物の退出か誓約か・・・仕方ない。その人物にはどちらか選んでもらうか」



2人とも、話を聞く方が優先と言わんばかりに、ディストの提案をあっさり呑む

ええ~!ディストは疑わないの!?

何か、ちょっとショックだ・・・ぴえん



そしてディストは、皇王陛下とリアフェル王妃に加え、俺の婚約者と家臣以外と言い出す

それを聞いた騎士達もギルマスも憤慨するが



「主の心情の問題です。この話を聞けば、間違いなく大規模攻略が開始されるでしょう。しかし主は、それを望んでおりません。故に、話を聞くならば誓約を受け入れて頂く他ありません。勿論、冒険者達がこの話を聞かずに踏破し、見つけた場合には、関係ありませんが」



ここまで言われて、ようやく黙る

ただ、珍しいとも思われていた

今までの俺は、心情的に嘘をつくことが無かったからだ

それを聞いた二人も同意し



「クロノアス卿にしては、珍しいですね。私は、ディスト殿の案を呑んでも良いと思いますが」



「余も同じだな。ただ、これ以上の嘘は許さんが」



自国と他国の王族が認めた事により、誓約付きで話すことになる

皇王陛下も「王族が、この程度の事で嘘はつかん!」と公式の発言とし、全てを話すことに



隠していた話、踏破後のお宝部屋についてと魔剣

それと、ヴェルグについて話す

初めの方は、大人しく聞いていたが、魔剣とヴェルグの話になると状況は一変する



まずは、魔剣とヴェルグとの戦闘についてだが



「そんな危険物を、完全破壊しないで問題無いのか?」



「真っ二つに折りましたから。魔剣としての力は完全に消えました」



「しかし、ダンジョンの最下層に神がいたとは」



「正確には神ではありません。神に近しい力を持った者です。あれは、本気でヤバかったですね」



「寧ろ良く、生きて生還したものだ・・・」



「もしや、同じ力を持っているのか?」



「そこはノーコメントで。調べたり、聞いたりしても良いですけど、ギルマスのお二人は、国に指名手配されるか死ぬ覚悟で調べて下さいね」



皇王陛下は魔剣の危険性を

リアフェル王妃はそれを扱った人物を

ギルマス二人は俺に関して

こんな感じで、ざわついた

しかし、次の話で更にざわつくことに



「一応、勝ちはしたんですが、疲労が結構あって、最後動けなかったんですよ」



「何かあったのか?」



「最後にヴェルグが突っ込んできて、避けきれ無かったんですよね」



「身体は大丈夫なのですか?」



「問題ありません。少し、言葉を交わしただけなので」



あれは言えん

キスされたなんて

しかし、キスシーンを見ていたリュミナの目から光が消え、核弾頭を叩き込んできた



「そう言えばご主人様、最後にキスされていましたよね?」



目から光の消えたリュミナが、にっこり微笑みながら、淡々と隠していたことを話す

慌てて口を塞ごうとするが、時既に遅し



「「「「「「「「ラフィ様??」」」」」」」」



ビックウゥゥゥ!!

ミリア達の抑揚の無い声にビクつき、恐る恐る皆を見ると・・・そこには、目に光を宿さない単一色の視線が8つ

全員がゆらぁっと立ち上がり一言



「「「「「「「「そこに正座!!!!!!!!」」」」」」」」



「はいぃぃぃぃぃ!!」



最早そこに、踏破者としての威厳は無く、ただ怒られ、弁明する姿があった





「ううっ、酷い目にあった・・・」



「当然です!ラフィ様には気を付けて頂かないといけません!」



「わかったから!もう許して!」



「ラフィ?本当にわかってるの?」



「ラフィ君には、修練が必要だと思うな」



「ラナも今回はどうかと思います」



「シアは、その、あの・・」



「僕も思うところはあるかな?」



「モテるのは、わかるけど」



「思わず怒ってしまいました。これが嫉妬、と言うものでしょうか?」



応接室での説明が終わった翌日、俺は未だにミリア達から怒られていた

正座はしなくても良くなったが、怒りは収まってないらしい

ただ、状況的なものは理解してくれたようで、昨日の正座が15分ほどで許されたのは、ひとえにディストの功績である



8人が怒り、詰め寄った所で、ディストが説明したのだ

『あの状況では、どうしようもなかった』と

実際に疲労し、回復に努めていたので事実なのだが、これみよがしにディストの言葉に乗っかった俺

途中でリュミナが何か言おうとするが『お前は黙ってろ!』とディストに一喝される始末



応接室内は異様な空気に包まれ、ギルマス二人を筆頭にリアフェル王妃以外が震えていた

皇王陛下も『あのリーゼが・・・』と絶句するほど

皇太子は、リーゼの怒る姿など見たことが無かったのだろう

ブルブルと震えて、小さくなっていた

自分が怒られているわけでもないのに



その後は、謁見の間で勲章と褒美と爵位を貰ったのだが、全く記憶に残ってない

寧ろ後で聞いて『え?嘘だろ!?』と頭を抱えたほど

しかも、リアフェル王妃が皇王陛下に話をしていたらしい

どっちにしても断るのは不可能だったな



後で聞いた話だと、領地も与えるとかあったらしいが、そこはリアフェル王妃がお断りしてくれたそうだ

代わりに子爵になったわけだけど

裏の話し合いは済んでいたって話だ



そして本日、エルーナ姉の結婚式に出す祝儀の買い出しに行く

前世みたいに、現金のみを祝儀にと言うわけでは無く、物品や宝石などを混ぜて出さないといけない

ただ、爵位の関係や地理的理由によっては、宝石と現金といった嵩張らないものになる場合もある



本来は荷物持ちの家臣がいるのだが、空間収納持ちの俺には必要ない

移動も馬車ではなく、徒歩だ

自分の足で、色々見て回りたいからな

さて、出掛けるか・・という所で



「ラフィ様?何処かにお出かけされるのですか?」



リーゼが声を掛けてくる

隠す必要もないので



「エルーナ姉の祝儀を買いにね。実用性があって、珍しいものがあれば良いんだけど」



「あの、お一人ではお出掛けになられない方が良いですよ?」



「え?なんで?あ、迷子になるとか思ってる?」



「いえ、そうではなくて・・・」



そこに、ミリア達も加わり、またも怒られる



「ラフィ様、状況をご理解してますか?」



「状況?なんの?」



「ラフィ・・・もう少し、世情に詳しくならなきゃ」



「何かあるの、リリィ?」



「えっとね、ラフィ君はいまや有名人なんだよ?」



「ティア、どういう事?俺が有名人?・・・ああ、冒険者としてか」



「違うから。ラフィ君は今、フェリック内では英雄になってるから」



「は?え、何?英雄!?リア、どういう事なんだ!?」



そこへ更にラナ、シア、ナユが加わり



「ラフィ様、学習してないです」



「シアも勉強不足はダメだと思います!」



「ラフィ、もう少し、世情にも目を向けようね」



ダメ出しされる

地味に心を抉られ、ダメージが入る

詳しく聞くと、昨日の謁見理由がフェリック国民内で既に流れ、リーゼとの婚約も他国に向けて正式発表

市井は既にその事で大盛り上がり

更には



「ダンジョンの異変を解決したことも、既に知れ渡っています。財力もあると、フェリック内の貴族達から縁談が大量に。ラフィ様の目に留まれないかと、女性達は浮足立っていて」



「・・・・マジで?」



「ですが、お義姉様の祝儀を買いに行かれるのですよね?でしたら、私達も一緒に行きます」



「俺、徒歩で行くけど、ミリア達は平気なのか?結構歩くぞ?」



「それでは、皆一緒にデートと行きましょう。他の人達に付け入る隙を与えない様に」



「「「「「「「賛成~!!!」」」」」」」



「皆が良いなら、それで良いけど」



「それでは、支度をしてきますね。皆さんも手早く支度をしましょう!」



ミリアが正妻力を発揮し、全員が支度に戻る

一人、ポツンと玄関に取り残される俺

・・・・何か、悲しい・・・・

10分後、全員が集合し、買い物へと出かけるが



「言った通りになりましたね」



「キリがないですね」



「英雄の妻だからねぇ」



ミリア、リリィ、ティアが、どうにかしてお近づきになりたい貴族家のご令嬢を退場させ



「平民や陪臣、商人の娘さんもですか」



「うわ・・・また出た」



「シアは負けません!」



ナユ、リア、シアも近寄ってくる女性達をご退場させ



「ラフィ様、また来ました」



「やはり、馬車を用意すべきでしたね」



ラナ、リーゼのうんざりした声が、心に響く



「うがぁぁぁ!買い物させろぉぉぉぉ!!」



ストレスがマッハで溜まり、両手で頭を掻きながら、声を上げる

結局この日は、まともに買い物などできず、翌日に皇城の政商に頼み、商品を見せてもらい購入

午後からは馬車で、皆の服と祝儀に出す服や布を買いに行った




気軽に歩いて買い物にすらいけないなら、英雄なんてクソくらえだと思う

前世でそう言った物語を読んで、他人事みたいにみてたけど、実際になると煩わしい



そこでふと思う

来栖が欲していたのは、この賞賛なのかと

・・・・・不自由になり、買い物すら碌に行けないこの状況の何に憧れるのか?

物語と現実はこうも違うのにな



・・・・・ホント、英雄になんてなるもんじゃない

誰か、俺に平穏を下さい・・・ぴえん
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