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85話 集う七天竜

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ランシェスで陛下との交渉が終わり、黒竜達の元へ戻ってきた俺が見たものは・・・酔っ払った竜達だった



群れ長に六竜達、果ては黒竜達も酔っ払い、中には泥酔して眠っている竜さえいる始末

逆に人間サイドは・・フェリック側は一歩引いて傍観

そしてウォルドは・・・幼竜達に揉みくちゃにされていた





時間はラフィがゲートで出かけて行った直後に戻る





ラフィが置いて行った酒樽

人間が酒を寝かすのに使う普通の酒樽だ

その中に一つだけ果実ジュースが混じっていた

それを見たバフラムは



「ウォルド、こっちは人間達で飲め。俺達には合わん」



そう言って酒を占有し、果実ジュースをウォルド達に渡した

ウォルドを含めたフェリック側も今の状態で酒を飲むわけにもいかない

異論はないのだが・・



「(もう少し、言い方ってものがあるだろうに・・)」



ウォルドはそう愚痴りたいのを堪えて、樽を置く場所を指定する

でも、口は悪いが樽を指定した位置まで運んではくれるし、威圧したりもしないので、面倒見は悪くなかったりする



バフラム自身もウォルドの事を認め、気に入っている

ここにいる六竜は、ウォルドの修練地獄を見ている

戦神が指導するあの修練地獄を

あれについていき、メナトに及第点をもらえる人間など、一握りだろう

六竜達ですらついて行けるかは未知数

故に、ウォルドの事を認めていた

もっとも、その事を口にすることはないが



そんなウォルドは、人間側の纏め役を担っている

主であるラフィが命じたので、六竜達も配慮したわけだ

これがフェリック側の人間ならもう少し言葉がきつかっただろう



樽を運び終えたバフラムは、各々に一樽ずつ分けられた前に座る

残り二樽は黒竜達にお裾分けだ

成竜もそれなりに居るので「分け合え」と群れ長から与えられた

そして始まる酒宴

乾杯の音頭にウォルド達も合わせる



酒を一口飲んだ群れ長は



「ほう・・人間が作る酒も良いものだな。我らが飲む酒は強くなくては物足りんからな」



感想を述べるが、とある一言に反応したバフラムが



「黒竜よ。いや、昔の名で呼ぼうか・・黒。我らが主を侮辱するような発言は控えろ」



と、殺気を出す

現場は一気に、一触即発状態に

しかし黒は、軽く受け流し



「あの暴れん坊が随分と従順だな。あの人間はそこまでなのか?」



揶揄からかいながら酒を飲む

その問いに答えたのはリュミナだった



「ご主人様は素晴らしいです!黒も聞いたことはあるでしょう?白竜族の後継試練を」



「我らが一人の元に集いし頃の記憶か・・事実なのか?」



「ええ。他竜族では受け入れられず、白竜族でも一握りしか受け入れきれない情報量を、ご主人様は何の痛痒も見せずに受け入れたわ」



「・・・本当に人間なのか?」



リュミナの言葉に疑問を抱く群れ長

だが、それも仕方ないことであった

人間側に伝わっている竜達の情報には、意図的に隠された情報があるのだから



この世界の属性竜は全部で七属性とされている

しかしそれは、正解ではない

意図的に葬られた八個目があるのだ

それが時空間属性

銀竜達が持つ、秘匿された属性だ



銀竜達は無属性とされているが、これは間違ってはいない

では何故、秘匿された属性を持っているのか?

それは、銀竜が時の大精霊が生み出した、他とは異なる種族だからだ



かつて銀竜の住処は、現クロノアス領にあった

しかし、度重なる侵略で疲弊した過去のクロノアス王国は銀竜達に『移転してほしい』と申し出た

これは、当時の王の優しさから出た提案だった

当時の銀竜の長もそれがわかっていたため、何も言わずに提案を了承



『諸共に滅びる必要は無い』



当時の王は最後に銀竜の長へそう告げた

銀竜の長は最後にクロノアス王国の使者を当時のランシェスに送り届け、その後に今の場所へと落ち着く

これは、主であるラフィも知らない事実であった



だからこそ、群れ長は思う



「(もしそうならば、あやつにも会わせんといかんな)」



そして、酒宴は次の話へと移る



次の話はブラストが始めた



「黒よ、腐竜を覚えておるか?」



「ああ・・あの竜と呼ぶのも忌々しい生き物か」



「では、腐竜が消滅したのは知っているか?」



「何?あれが消滅したのか?やったのは・・・」



「勿論、我らが主よ。まぁ、わしも主も死にかけたがな」



そう言って盛大に笑うブラスト

群れ長は、眼が点になっている

まるで「え?マジで?あれ無理じゃね?」と言っている様だ

そこでまたもやリュミナが乱入!



「本当です。私が呼ばれたのはその後始末でした。尤も、する必要がありませんでしたけど」



何故か誇らしげに語るリュミナ

理解が及ばない群れ長

当時の事を詳しく聞いた群れ長は



「・・・あの人間は神か?それとも、人間の形をした化け物なのか?」



群れ長、言っちゃいけない言葉を口にする

そこで、切れたのは・・・勿論リュミナだった



「く~ろ~・・・あなた、消し炭になりたいようね?」



親愛なる主で恋愛対象な主

恋する乙女のリュミナは激高する自分を抑えながら、どぎつい殺気を群れ長に向ける

焦る群れ長!周りの黒竜達も「俺ら関係ないから!」と距離を取り始める



「悪かった!悪かったから、その殺気を消せ!」



またも一触即発な雰囲気に人間側も警戒する



「リュミナよ。お主の気持ちはわからんでもない。だが主は、争いを望んでいない。言いたい事はわかるな?」



静かな殺気を出すシンティラ

標的を群れ長からシンティラに変えるリュミナ

見つめ合う事数秒、リュミナが折れる



「・・・わかったわ。私もご主人様が望まないことはしたくないもの」



殺気を消し、お互いに酒を一気飲みするリュミナとシンティラ

人間側はハラハラドキドキである

そんな中、ウォルド達に近づく影が・・・



「う、うわっ!」



「な、なんだ!?」



「ひっ!」



突如騒ぎ出す人間側

竜達も何事かと見ると・・そこには幼竜達が物珍しそうに近付いていた

群れ長が咆哮し、止めようとするも、好奇心旺盛な幼竜達は止まらず、人間側の周りをうろつく



フェリック側の人間達は戦々恐々だ

ウォルドは慣れたもので、気にせずにジュースをおかわり

樽からコップで直に汲み一口

それを見ていた幼竜は好奇心の赴くままにウォルドへ接近

そんな幼竜を見たウォルドは、新しいコップで樽からジュースを汲み、幼竜達の前に出す



鼻で匂いを嗅ぎ、安全かどうかを確認する幼竜

1体だけでなく、数体がウォルドの周りに集まりだす

ウォルドも律義に、寄ってきた全ての幼竜へジュースを出す



確認すること数十秒、幼竜の1体が意を決してジュース(幼竜からしたら得体のしれない液体)を舌でぺろぺろ

・・・カッ!と目を見開き、一心不乱にジュースを貪る幼竜

それを見ていた他の幼竜も口をつけ始め、気付けば、ウォルドの周りは幼竜で埋め尽くされていた



誰にでも面倒見の良いウォルドは、幼竜の面倒見も良かった

結果、ジュースは瞬く間になくなり、飲み足りない幼竜がウォルドに押し寄せておねだりする

群れ長とアルバはそれを優しくも、どこか遠く寂しそうな目で見つめていた



その後は、群れ長と六竜達の飲み比べが始まり、樽の酒が無くなって泥酔したところにラフィが帰ってくる





と言うのが、俺がフェリックの騎士から聞いた話だ

それでウォルドは幼竜達にあれだけ懐かれているのか

相当珍しい事なのでちょっと驚いていたりする



幼竜とは言え、相手は黒竜の幼子

力も翼竜等の比ではない

傍から見てるとじゃれてるだけだが、普通の人間だと厳しい

ウォルドも随分と人外の領域に近づいたものだ

そこでウォルドと目が合う



「(なんか失礼なこと考えてただろう!?)」



「(何にも考えてないよ)」



アイコンタクトでやり取りしてから、群れ長の元へ向かう



群れ長は…泥酔しきっていた

六竜達も泥酔しきっていた

そして、黒竜達も泥酔していた



俺が置いていった酒は、とある魔法修得のために作りまくった[アルコール度数]が90を超えるものだ

本来はロックで飲むようなものではない

竜達だから飲めたといったところだな



竜達の元へ辿り着くと、酔っぱらったリュミナが真っ先に抱きついてきた



「ごひゅじんしゃま~。おかうぇりにゃしゃい」



「ただいま。つうか、めっちゃ酔ってるな」



「おいひかったれすぅ。ぎゅ~」



そう言ってキスをしようとしたのを避ける俺

避けられたリュミナは「いけず~」と言いながら座り直す

辺りを見回すと・・バフラムとコキュラトは馬鹿笑い中

ブラストとシンティラは半分寝落ち状態

アルバと群れ長は、昔話に華を咲かせていた



「竜達でも、やっぱりきつい酒だったか」



やっちゃったなぁ・・とは思うが



「(長く生きてるんだから、酒の飲み方くらいさぁ)」



そう思っても仕方無いほどの惨状だった

ウォルドの方も幼竜に懐かれ、揉みくちゃ状態だし

これ、収拾着くのかね?



とは言え、何もしないと進まないので、まずはフェニクとタマモを召喚



「呼んだ?兄ちゃん?」



「兄様からのお呼び出し♪」



軽い口調で人化したフェニクとご機嫌なタマモが出てくる



「二人に言伝を頼みたいんだ。ミリア達に、今日は帰れないかもしれないって伝えてきてくれるかな?」



「りょーかーい」



「わかりました。兄様」



そして二匹は召喚陣を使って、ミリアの元に飛ぶ

さて次は、この酔っ払いどもだが・・



「とりあえず、状態異常回復魔法掛けて効果があるかだな」



泥酔状態が治るかわからないけど、一応使っておく

駄目なら現地に一泊確定

そして、魔法を使ってみると・・あら不思議

一定レベルまで酔いが醒めた模様

でも完全には抜けきっていない

二日酔いだと、結構効くのに・・不思議だ



何故差があるのかは、未だにわかってないんだよな

全く効かない酔っ払いもいたから個人差なのか?

それとも、害悪になる部分だけ治療されてるんだろうか?

後で全智神核に聞いてみるか



魔法をかけられ、いくらか酔いの醒めた竜達

六竜達は泥酔してた自分に恥じて四つん這いに

群れ長も顔を下に向け、落ち込んでいるようだ



反省は後でしてもらうとして・・

時間は有限なので、さっさと物事を進めよう



「交渉は無事に終わったぞ。いくつか条件はあるが、基本的には干渉しない方向で終わった」



「して、その条件とは?」



俺は群れ長に交渉結果を伝える

群れ長も吟味しながら聞くが



「ほとんど我らに有利な条件ではないか。本当にそのような条件で良いのか?」



「こちらとしては、竜達を怒らせて国が滅ぶよりも安住の為に協力してもらえる方が得なんだよね」



「・・・一つだけ質問だ。従軍義務の場合だが侵略時はどうなる?」



「参加しなくて良い。こちらも、防衛時のみ従軍としか話していない。そっちが従軍したいなら話は別だが・・」



「無理にしようとは思わんな。こちらとしては異存はない。直ぐにでも向かうとしよう」



群れ長は咆哮し、出発を促す

それに待ったをかける俺



「ゲートで送るから飛ばなくても良いぞ。後、一つ言い忘れてたけど、陛下が群れ長と対話したらしいんだが」



「構わんよ。我も人と話すのは嫌いではない。初めから敵対してくる者には容赦せんがな」



そう言ってから再度咆哮し、竜達が群れ長の後ろへ集まる

幼竜達も集まり・・・あ、ウォルドはどうなったんだろう?

ウォルドの方へ視線を移すと・・そこには、幼竜達の唾液で全身ベトベトになったウォルドの姿があった

ウォルドは視線で



「(助けるのが遅い!)」



と苦情を言うが、軽く受け流し



「(寧ろ早い方だと思うぞ)」



と返しておく

魔法が効かなければ、あと半日は唾液まみれが継続していた可能性が高いのだから



ウォルドとのやり取りを終え、ゲートを繋ぐ

竜達は規則正しく、順番に、ゲートを潜る

最後に群れ長が潜り、俺も一緒に潜る

六竜とウォルドはまたもお留守番だ

今回は、置き土産は無し!

ゲートを潜り、封印の聖域へと降り立つ



「ほう。良いところだ。自然も多いし、食料にも困らんな」



「人も滅多に来ないからのんびりできるぞ」



そこで、一つ条件漏れに気付き、群れ長に話す



「言い忘れてた。封印の聖域内にある封印の洞窟に何か変化があったら、国へ報告に行ってくれ」



「それくらいなら構わんよ。訓練については、そちらから日時を送れば、それに従おう。それとな・・・」



「ん?」



言いづらそうに群れ長が口を紡ぐ

他に何かあるなら、はっきり言って欲しいんだけどな

待つこと数分

群れ長は、ようやく口を開いた



「・・・・我は汝に降ろうと思う」



意外な言葉にキョトンとする俺

そんな俺に構わず、群れ長は話を続ける



「あやつらから、色々聞いたのだ。その話に嘘偽りはなく、皆誇らしげだった。それに・・我ら黒竜族はその数を激減させた。庇護が欲しいと考えるのは当然であろう」



「確かにな。でも、あんた自身は神竜の加護がなくなるぞ?」



「無論承知だ。だが、我ら黒竜族全てからなくなるわけではあるまい?そこにお主の庇護だ。我らには欲してやまぬよ」



「個としての忠誠ではなく、種として忠誠を誓うと?」



「いや、我は個として汝を主と認め、忠誠を誓おう。次の群れ長は、既に決めてある。その上で、種としての黒竜族に庇護が欲しいのだ」



ふむ・・繁栄を願っての申し出か

黒竜族は分裂し、その数を大いに減らした

子はいるが、繁栄して行けるかは分からない

だからこその庇護か



「俺の庇護下に入っても、絶対に安寧じゃないぞ?」



「承知している。だが、打てる手は全て打つのが人間であろう?」



ごもっともで

人間ほど生存本能が高い種はいないと思う

それにあやかりたいのもあるわけか

しかしここで、群れ長から意外な言葉が更に出た



「それにな・・・夢を見てしまったのだよ」



「夢?」



「ああ・・かつて実際にあったことで、最早叶わぬと思っていた夢だ」



「聞いても良いか?」



「・・・かつて竜族は一人の元に集ったことがある。しかしそれは、長く続かなかった。我らは別れ、再び集う事など無いと思っていた。だが!今や我以外の全竜が集っている!我はかつての集いを取り戻したい!」



・・・気持ちは分かる

俺にも、もう戻れない場所があるのだから

だからこそ、敢えて言ってやる



「過去は過去。戻れはしない。お前が言ってるのは・・」



「夢想だと言いたいのであろう?そんなことは分かっている。過去を取り戻したいわけではない。ただ、皆で再び語り合えることを夢見ただけよ。あの酒宴の用にな・・・」



過去ではなく、未来を見てか・・・

寧ろ、過去に囚われているのは俺の方か

群れ長の言葉で気付かされるとは

何とも不甲斐ない話だ



望んだ未来に少しでも近づきたいなら・・是非も無いな

俺だって、笑い合える未来は欲しいのだから

そこでふと、過去の自分と今の自分を重ねる

昔も今も、大切な人が笑って過ごせる未来を望んでる自分がいた

ああ、そうか・・俺の本質はやっぱりそこか

ならば・・共に望んだ未来に辿り着けるように



「わかった。汝が忠誠を貰い受ける。汝は今から〝黒曜竜ディスト〟と名乗れ!共に望んだ未来へ行こう!」



「我、黒竜族の長は、主に生涯の忠誠を。我が種族に繁栄と安寧を」



「汝が願い、共に叶えよう。汝の種族に祝福を!」



そうして群れ長は、神竜の加護から俺の加護へ変わる

肉体も他の竜達と同じように変貌を遂げ、七竜の中で最強の竜へと姿を変える



「顕現せよ!〝黒曜竜ディスト〟!」






この瞬間、この世界に住まう全ての属性竜が俺の眷属になった
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