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74話 スタンピード再び

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兵が持ってきた映像記録を見て驚く

その映像には紛れもなく飛空船が映し出されていた

皇帝に顔を向けると・・ドヤ顔されたのでちょっとイラっとしました

ドヤ顔の返事に軽~い威圧で返事をすると、冷汗を流しつつゴホンッ!と咳払いをし、話を進めてきた



「これは帝国北部の遺跡で発見されてな。6隻見付かったんだが・・動かし方がわからん。動力が魔力なのは確かなのだが」



ふむ・・・実物を見てないから何とも言えないな

形状を見るに武装は無いみたいだし、航空輸送船っぽいが・・

動かないならば、未だ遺跡に置いてあるのだろうか?

聞いても大丈夫な案件だろうな?いや、下手に聞くと藪蛇になりそうな気が・・・

しかし、こちらの思いは届かず、皇帝は色々と話し始める

案の定、藪蛇になったことは言うまでもない



「一応、1隻は研究の為に帝都の研究施設へ運んである。そこで、クロノアス卿には是非、是非!見て貰いたいのだ!」



「まさか、呼んだ理由って・・・」



「呼んだ理由か?この船の件とは別件だぞ。13歳にしてSSSとか会って見たいだろ?船の件に関しては実力を見たから、今!思いついた!」



片手でこめかみを抑えつつ、盛大にため息を吐いた

だって、皇帝の目がキラキラしてるし・・・どこの少年だって目だし・・・

俺達を除く周りの者も、何か期待に満ちた目をしてるし

リアとナユは「まぁ、そうなるよねぇ・・」って目だし、ウォルドは我関せずしていたので、後日、鍛錬と称して地獄を見せよう



一応、船についての依頼は受諾する事にしたが、こちらからは同盟参加の事も含め、一つの提案を出しておいた

提案内容は同盟4国に1隻ずつ無償貸与し、空路を同盟間で結ぶ事だ

帝国側も本気度を見せる為に考えていた内容なので問題無く受理するとの事

他国との戦争状態になった時は船の使用を許可するが、侵略戦争はしない事も条件に出し、こちらも問題無く了承される

細かい点については後日、ランシェスにて会議で決めることにし、同盟参加予定国としての話は終わる



船の正体については、話し合いの後に教えておいた

皇帝は空を飛ぶ船と知り、物資や人員の輸送に役立つと歓喜していた

6隻全て稼働できたなら、少なくとも帝国側は利益の1割を支払うと提案してきた

支払いは年一度で15か月分一括払い

俺を名誉技術顧問的な立場にし、共同経営としたいそうだ

お金にはそんなに困って無いのでその辺りは任せる



「利用料金については、口出しさせて欲しいですね」



と告げると、あっさり了承された

利用料金について口出しするのは、なるべく他国との差額を無くすためである

しかし、実際にはどのような技術を使っているのか?

見ないとわからないので、修繕後に動くか確認してから決める事も告げておく



時期皇帝については次男を推薦しておいた

継承権の問題もあったし、話し合いの間も気を休めることなく〝如何にして帝国に利益をもたらせるか〟を考えていたようだったしな



「補佐に3男を据えて、軍事面はある程度は丸投げにし、協力すれば良いのでは?」



とも伝えておく

どちらも文と武に極端に秀でている



「内政担当を皇帝がしてしまえば、内戦にならない限りは民が飢える事も少ないだろうし」



とも説明しておいた

内戦という言葉に眉を少し動かした皇帝だったが



「それなら問題ないな。月1の軍事演習さえさせて貰えれば」



と告げた3男の言葉に、皇帝も次男も苦笑いをし、次の皇太子は次男に決まった

暫くは皇太子のままであるが、仕事ぶりを見て、帝位を譲るか決めるそうだ



食事をしながらそんな話をして、現在はデザートタイムである

デザートとは言っても、果物の盛り合わせではあるが

晩餐会も無事に終わり、お開きになりかけた頃、兵士の一人が晩餐会場へと慌ただしく入って来て報告を始める



「き、緊急によりご無礼を失礼いたします。西より魔物の群れが帝都に向かってきております!数は確認できただけでも1万以上!群れの中に、見慣れぬ魔物がおります!」



「何だと!?・・・直ぐに軍を動かせ!!冒険者ギルドに報告は!?」



「既に別の者が報告に向かっております!帝都城壁近辺への到達は約3時間後になると思われます!」



「っ!夜戦になるのか・・・ロギウスよ、どの程度で準備できる?」



「2時間頂ければ、配置も含め全て準備を終わらせて見せますが・・・恐らく軍は、壊滅的な被害になるでしょう」



「そうか・・・だが、このまま蹂躙される訳にはいかん。直ぐに準備せよ」



皇帝の言葉に3男ロギウスは「御意!」と礼をして、部屋を出る

会場に残った他の者達は皆青褪めている

皇帝は席を立ち



「すまないが会食はこれまでの様だ」



と告げて部屋を出ようとするので、一ついやらしい質問をしてみる



「俺に依頼しないんですか?」



その言葉に皇帝は目を見開き、その後、逡巡して一言



「助けては欲しいが、クロノアス卿には義務も義理も無かろう?」



まぁ、当然の言葉であるが・・・言葉の裏に隠された真の意味に気付かないのは、皇帝としてダメだろ

いや、考える余裕が無いのだろうな

ならば少し、意地悪に答えを言ってみるか

                         ・・・・・・・ 

「もう一度聞きますけど、本当に依頼しないんですか?目の前の冒険者に?」



今の言葉にハッ!となった皇帝はこちらを見る

お互い視線をそらさず見つめ合う事数秒、皇帝は一言「頼む」とだけ告げた

頷く事で了承し、席を立ち、リアとナユを見てからウォルドに



「二人の護衛は任せる。ハクも護衛につける」



とだけ伝えて、部屋を出て行く

さて・・蹂躙を開始しますか







城壁の外には、既に冒険者がかなり集まっており、その中に見知った顔があったので声を掛ける

声を掛けたのは、帝国に来る前に助けたパーティーの一つだ

ギルマスへ「既に郊外にいる」と伝言を頼んで、先に進むことにする

乱戦になった方がやりにくいからな

念の為にバフラムを城壁近辺への防衛に回し、俺はリュミナの背に乗り、進行中である魔物の群れへと向かう



30分程飛んだところで群れを見付け、地上に降りる

接敵迄約15分位かな?さっさと倒してしまうか

探査魔法を広げ、群れの全体を把握し、魔力を高める



使う魔法は神滅級魔法

7属性複合魔法で消滅させるか?雷か風か土の単一魔法で原型を残すか?

考えて末、後者にした

雷で感電死して貰う事にしよう



生き残ってもそれほど数はいないだろうし、素材も手に入るしな

使う魔法は雷の神滅級だが、威力は王級か帝級辺りにまで下げておくか

使用魔法を決めると同時に魔物の群れ全てを補足し終わる

射程は十分に足りているので、魔法を放ち殲滅にかかる



【ライトニングレインフォール】



滝のような雷の雨が魔物共を貫き、感電死させていく

生き残られても面倒くさいので、帝級の威力で一気に殲滅する

探査魔法では、魔物の群れは3万ちょいだったが、僅か1分でほとんどの魔物が死に絶える

原型も残しているので、素材としても使えるだろう



魔法が止み、全て息絶えていているはずなのに、生存反応が一つあった

そいつを目視で確認すると・・ああ、確かに見たことない奴だな

俺も今の世界では見た事が無いけど、名前だけは知っている

前世でラノベとかに出てくる魔物



〝人工合成魔獣キメラ〟



前世の科学力では実現不可能

では、この世界では?魔道具の他に魔物研究をしているギルドは存在している

魔法があれば技術的な問題は可能になるのだろうか?

・・・・キメラを見るが、実験中の事故などで生まれたようには見えない

更には、他の帝国領には被害が無く、帝都のみに侵攻の時点で、明らかに人為的である可能性が高い



では誰が?何の為に?目的は?

謎は残るが考えても仕方ない

目の前にいるキメラを排除しよう

威力を落としたとはいえ、神話級の魔法を耐えきったのだ

「(油断は禁物だな)」と判断し、神銃と片手神剣を取り出し相対する



見合う事、数秒・・キメラが一気に距離を縮める

チッ!中々に早い!だが、この程度の速さなら!

神銃で牽制しつつ、片手神剣を振るうが全て躱される

なるほど・・反射神経も良いし、それなりに知恵もあるみたいだ

知恵のある力が強大な魔物と言うのは、中々に面倒だと今更ながらに思う

神銃を撃って距離を取りつつ、隙を見せた瞬間に一気に斬り伏せたいのだが、中々隙を見せない

お互い決め手が欠けるまま30分が過ぎた頃、状況が一変する



城壁前に居た冒険者の何人かが、戦場にやってきてしまったのだ

先の轟音を聞き、状況確認の為に来たのだが、それが裏目になってしまった

キメラは冒険者達を視認するや標的を変えて突進する

反応できる冒険者は皆無であり、爪と牙に尻尾の一撃で、瀕死か命を刈り取られるのは明白であった

此処に俺がいなければ・・・ではあるが



冒険者達を守る様に間へと入り、そして・・・俺は左腕を喰われる

冒険者達の悲鳴が聞こえ、撤退の合図を出すが何人かは動けずにいた

キメラは左腕を喰い千切ろうとして・・・出来なかった

俺は顔をしかめるが、左腕を喰い千切られることは無かった

守りに入る瞬間に神銃をしまい、神気と魔力を左腕に纏わせ、簡易的でありながら最強の守りとなる様に身体強化魔法を行使したのだ

更に喰われる直前、左手の前に空間収納を開け、そこから神槍の神器開放を行う



『我は神器が主。我が神器よ、我が声に応えよ。汝、今こそ真なる姿を現し、我が力を用い、我が意に沿い、我が敵を滅ぼせ。我は汝を求める。神器開放!顕現せよ!神槍!ロンゴ・ミニアド!!』



神槍が一条の光と為りてキメラを口内から貫く

光が収まった後、キメラは身体に大穴を開け、絶命していた



【ロンゴ・ミニアド】

防御不可能な時空間すら貫く光の槍



使うつもりはなかったが、今回は流石に余裕が無くなり、使わざるを得なかった

喰い千切られはしなかったが、キメラの牙は予想より鋭く、神気をも貫通して腕に食い込んでいて、更に口内は無数の牙があり鮫の歯みたいになっていた



喰われた左腕は真っ赤に染め上がり血で濡れている

雫がぽたぽたと地面に落ち、今まで怪我らしい怪我を負っていなかった事に



「もう少し、上手くやれたかな・・・」



と呟き、未だ腕に食い込んだままの折れた歯と牙を抜く作業に入る

ん?軽く麻痺毒と魔法阻害の毒も入っていやがる

暫く回復魔法は受け付けないな

さっさと腕に食い込んだものを全部抜いて止血しないと、出血多量で死んでしまう

痛覚遮断して、空間収納から短剣を取り出し、熱してから腕に刺し、牙を取り除いていく



5分程で全て取り出し、水魔法に光魔法を加え、消毒液の水球を作り、肘まで突っ込む

魔法は効かないが、魔法で作り出した物まで効かないという事は無い

消毒した後、清潔な布を取り出して止血する

んー・・これ、骨まで逝ってるな・・・暫くは痛覚遮断だな



「怪我は無いか?」



と聞くと全員が頷き返し、無事の様で一安心だ

寧ろこっちが心配された



「それより、君こそ平気なのか!?」



「直ぐに、衛生兵の元に!」



と言われたが



「命に別状はないけど、骨逝っちゃってるからなぁ。完治するまで冒険者業は無理だなぁ」



と返し、苦笑いされてしまった



冒険者達の中に例の帰還魔法が使える者がいたので、リュミナも含めて共に帰還する

帰還すると帝国軍に冒険者達が臨戦態勢になっていたので、殲滅したことを伝えると歓声が沸き上がった

だが、俺の実力を垣間見ている者達は素直に喜べなかった

SSSが傷を負っているのだ

しかも、回復魔法を使う形跡もないのである

簡潔に説明し



「暫くは、自然治癒してから回復魔法ですね」



とだけ告げ、その場を後にする

魔物の処理は軍が責任をもって行うそうで、買い取れる素材は査定後、報告しに行くとギルマスが言ったので任せた



ロギンスに連れられ、帝城に戻ると、帝国の危機に集まれるだけ集まった貴族がおり、大喝采で迎えてくれたのだが・・・早く休みたかった

事後処理もあるので貴族達も職務に戻り、3人の待つ部屋へと向かい、部屋に入ると怪我をした左腕を見て慌てふためく



今まで怪我らしい怪我をしてこなかったので、血まみれの左腕に驚いたのだろう

3人に回復魔法が暫く効かない事を話し、疲れたので宿に帰ろうと提案して・・メイドさんに止められる

皇帝が城へ是非泊まって欲しいそうだ

ギルドには城の兵士を使いに出して連絡しておくとの事

それならば・・と申し出を受ける

全員が個別に部屋を割り振られており、メイドさんに案内されて部屋に入り、ベッドに横たわるとそのまま意識を落とした



翌朝

目を覚ますと、リアとナユがベッドの横に椅子を持ってきたのであろうか?座って、上半身だけベッドに手を組んで、うつ伏せになって寝ている

ウォルドは壁に寄り添ったまま立っており、警戒していたみたいだ

ウォルドに起きた事を合図で伝え、状況を聞く

案の定、部屋に来てみたら俺の意識が無くなっており、心配になって一夜を同室で過ごした様だ



皇帝にも話は伝わっており、目覚めたら知らせに行くことになっている様だ

部屋の外には警護の兵もいるので「伝えてくる」と。ウォルドが部屋を出た所で二人が起きて・・おもいっきり抱き着かれる

二人の頭を撫でて落ち着かせ・・腹の虫が「ぐぅ~」と鳴る

二人はクスッと笑ってから



「厨房を借りて、何か作ってくるね」



「朝ごはんは、何が良いかな?」



と聞かれたので



「肉!」



と答えると「りょ~か~い」と言って出て行った

部屋に1人残った俺は、着替えを済ませ、顔を洗い、戻って来たウォルドを連れて食堂へ向かう事とする

さて・・あのキメラの事を色々と推察しないとな・・・
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