4 / 5
4.ファニート・暗転
しおりを挟む糸のように細い触手が鼻や耳や口、穴という穴から侵入し、体内を直接いじっている。
浮上したファニートの意識が、ぼんやりとそう理解した。
恐怖はもうどこにもなかった。
人として水の中で生きるために必要なタンクやウェットスーツは、気を失っているうちに剥ぎ取られてしまったようだ。
ファニートはむき出しの裸のまま、冷たいはずの深海の水に凍えることもなく、触手に生かされていた。
後孔を太い触手でこじ開けられているファニートの体は、拷問のような快楽に常にビクビクと跳ねるだけだった。
自分の意思で体を動かすことはできない。
Fは抱きかかえるように、触手でファニートを繋いでいる。ファニートの視界いっぱいに、Fの内臓のような触手が目に映った。
ファニートは海流の影響のない巣穴の中で、Fと一緒にふわふわ浮かんで、ただひたすらに陵辱され続けた。
どれほどそうしていたのだろう。
永遠に思えた時間が終わり、後孔から腸わの中にまで出入りしていた触手が、ずるりと這い出た。
ファニートはその動きにも快楽を感じ声を上げたが、口の中の触手がすべてを吸い取っていく。
触手のあとを追うように中が吸い付き、後孔の縁がめくれる。触手は愛おしそうにファニートのお尻を撫でた。
すると、今までを遙かに超える暴力的なまでの快楽の波が、ファニートを襲ってきたのだ。
何かがお腹の中で外に出ようと、しきりにうごめいている。
受け止めきれない快楽に体を突っ張るファニートを、触手はあちこちを撫でてはあやしている。
そして足を広げ、後孔のまわりを優しく刺激して、出産を促した。
素直な体は、めりめりと内側からこじ開けられながらも、触手の望むとおりに半透明の卵を産む。
卵は水の中をしばらく漂って、すり鉢状になった巣穴の底に転がっていった。
†
すでにいくつの卵を産んだのか覚えていない。
何も感じない心が、はるか遠くで引き裂かれているような気がする。
生かされるファニートの体を置いて、心が死んでいくのが分かった。
触手が、より深く脳に浸食していく。
途端に幸福感が広がって、ファニートはうっすらと笑った。
――エフ……。
ごぼごぼと触手の中で口を動かす。
肺の中に空気がないから、上手に呼べたか分からない。
それでも美しい触手が頬を、頭を撫でてくれたから、ファニートは目を閉じた。
もう永遠に目を開けることはないだろうと、理解しながら。
また一つ卵が生まれ、Fの巣穴に転がっていった。
10
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる