【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

番外編 クゥとイーグルの新婚生活

　まさか僕が、トワと同じように成人の儀とともに婚姻の儀を挙げることになるとは、夢にも思っていなかった。

　婚期の早いパオ一族の中で、ずっと色恋沙汰に興味がなかったのだ。
　だから手に職をつけて一人で生きていけるようにと、軍で働くことを目指していたのに。
　
　そんな僕が、まさか一目惚れをするなんて。何がどうなるか分からないものだ。




　オーニョ父さんに憧れて入った軍だったけれど、働いてみれば規律正しい環境がとても気に入っていた。

　結婚してからも働き続けることを希望する僕と、危ないことは絶対に止めて欲しいと反対するグーイルさんとで、ずっと結論がでないでいたのだ。


　他のことならなんでも相談しながらうまく歩みよれるのに、仕事のことだけはどう頑張ってもダメで。
　ちょっとぎくしゃくしていたときだった。




「心配な気持ち、よく分かるよ。俺は待ってるだけしかできないから、よく分かる。でもさ、それならグーイルさんも一緒に軍で働けばいいんじゃない？　俺はまったく向いてなくてできなかったけど、グーイルさんなら身体能力的に問題ないでしょ？　
　ずっと一緒にいられて、いざとなったら助けあえるんだよ。憧れるなぁ」


　ユーキ母さんはあっけらかんとそういって、僕たちの悩みをあっさりと解決してしまったのだった。

　それから帰り支度をする僕に、時間は関係ないんだからねと耳打ちしてくれたのだ。




　双子のトワは長い間お付き合いしていた人と結婚したのに、僕はお付き合い期間がまったくないまま勢いだけで結婚しちゃったんじゃないかって、実は少し気になっていたのだ。

　後悔はしていないし、グーイルさん以外の相手なんて考えられないけれど、でもどこかでトワと比べてしまう自分がいたのも本当で。

　ユーキ母さんは、なんでもお見通しなんだなぁと驚いた。



「俺なんて、会ったその日に気付いたらピーリャを贈られてたんだよぉ」

　オーニョ父さんらしい情熱的なエピソードに、僕とグーイルさんは思わず笑ってしまった。笑えば心が軽くなる。

　ユーキ母さんの目が大丈夫といってくれているから、僕は安心して前を向いて歩きはじめた。





　グーイルさんが隣にいてくれる幸福を噛みしめる。どちらからともなく、手を繋いで歩いて帰った。

　――ニ人の我が家へ愛しの君と。