169 / 187
169.鷲獣人
しおりを挟む山頂に到着して、俺とオーニョさんが目にしたのは、アキュース神さまの大木の近くに立つ二人の人影。
鷲の獣人と、その大きな羽の下に立つクウの姿だった。
「グルルルルッ!」
ライオンの威嚇音のような重低音とともに、オーニョさんが明確な殺意をもって鷲獣人へと襲いかかった。
遅れてこちらに気付いた鷲獣人が、大きな翼を広げ威嚇を返した。
俺は暴れ馬のようなオーニョさんの背中から、鷲獣人の前で手を広げるクウを見た。
そして、クウが鷲獣人を守ろうとしているのだと、気付いてしまった。
一瞬、クウと目があう。
しかし次の瞬間、牙をむき出しにしたオーニョさんが今まさに襲いかからんと跳躍し、俺の視界は赤い毛並みに覆われてしまった。
俺はとっさにオーニョさんを止めようと、怪鳥でさえ噛みくだくオーニョさんの口へと手を伸ばして――。
しがみついていた手を離してしまった俺は、そのまま空中に投げだされた。
「ユーキ!」
オーニョさんの声が遠くで聞こえる。
地面に叩き付けられると覚悟した俺は、ぎゅっと目を閉じた。
しかし衝撃は訪れない。
おそるおそる目を開けると、空中で金の糸に抱きとめられていた。
オーニョさんと鷲獣人もまた同じように、金の糸で縫いとめられている。
『やれやれ、二人は少し頭を冷やしなさい』
風もないのに大木が揺れ、アキュース神さまの声が頭に響く。
「母さん! ユーキ母さん! 大丈夫!?」
声がするほうを見下ろすと、心配そうに駆けよるクウが見えた。
しゅるしゅると金の糸が解け、俺はクウの腕の中に降ろされる。
昔はあんなに小さかったのに、今では俺よりも身長が高く体もがっしりとしていた。
しっかりと危なげなく抱きとめてくれたクウの腕は、これからさらに成長していくであろう若々しい力に溢れている。
「大丈夫だよ。ごめんごめん。ちょっとびっくりさせちゃったねぇ」
「大丈夫じゃないよ! ああ、腕から血が……っ! ごめん、ユーキ母さん。僕のせいだ」
クウはすぐさま軍服に装備されたサイドキックポーチから止血帯を取りだし、手早く傷口の処置をしていった。
「クウのせいじゃないよ。俺、昔から運動神経からっきしで。ちょっとドジしてかすっちゃっただけだから、大丈夫!
それより、こういう応急手当てもちゃんと訓練してるんだねぇ。クウは昔からしっかりしてたけど、本当に頼もしくなって……。ずっと頑張ってたの知ってるから、俺、誇らしいよ」
「ごめんね、母さん。本当に、ありがとう……ごめんね」
クウは立ちあがると、鷲獣人のもとに駆けより心配そうに寄りそった。
鷲獣人は羽もくちばしも金の糸できつく縛られ、もごもごと身じろぎすることしかできないでいる。
それは赤い獣のオーニョさんも同じだった。
俺は、喋ることもできず糸から抜けだそうともがき続けているオーニョさんのもとへ急いだ。
「オーニョさん! 大丈夫? 怪我はない?」
俺が話しかければ、オーニョさんは尻尾を丸め、情けなくきゅんきゅんと鼻を鳴らすのだった。
「ああ、俺は大丈夫だから。むしろ急に手を出して、オーニョさん、ごめんね」
オーニョさんを慰めるために赤い毛並みに手を伸ばすと、しゅるしゅると金の糸の拘束が解けていく。
鷲獣人も同じように拘束が解けたようで、クウが乱れた羽を整えているのが見えた。
6
お気に入りに追加
1,488
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる