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160.初夜?
しおりを挟む遅くまで続くのかと思っていた楽しい時間は、俺とオーニョさんが食事を終えたことで、あっさりと終わりを告げ、なかば追い立てられるように部屋に戻されてしまった。
今夜は大切な初夜だからと、あちこちで祝われて部屋に戻された俺の気持ちも考えてほしい。
どうやらたとえ無断外泊でもにょもにょしていたとしても、今夜が初夜であることに変わりはないらしい。
パォ一族の特性といっても過言ではない距離感の近さに、俺はもう瀕死だった。
どうにかしてデリカシーを覚えてほしい。
パォ一族の多くが、思春期にこじらせる理由が痛いほどよく分かる夜だった。
部屋に帰ってからもみんなの気遣いがじわじわといつまでも恥ずかしくて、オーニョさんにどんな顔していいか分からなくなって、俺は浴室へと逃げこんだ。
シャワーを浴びながら一人丸まって悶えた。
しかし、いつまでも丸まっていても仕方がない。
俺は覚悟を決めて体をすみずみまで洗った。
最後に悩みに悩んでから、結婚祝いにと渡されたパォ一族特製オイルで穴を準備し、ぎこちない動作で部屋に戻った。
入れ違いでシャワーを浴びに行ったオーニョさんの背中を目で追いながら、どうしようかと部屋をうろつく。
だいたい初夜ってなに!?
ベッドで待っていたら、いかにも待ってましたな感じでやらしいのでは!?
いや、ここまで準備しておいて今さらか!?
うわぁ俺なんで準備しちゃったんだろう! でも前回みたいにオーニョさんにだけ準備させるのも違う気がするううう。
ああああ、いったい何が正解なんだ!?
ぐるぐる考えているうちに、なんだか疲れてきてしまった。
そもそも怒濤の一日だったのだ。疲れて当然かもしれない。
俺は開き直って、えいやとベッドにダイブしたのだった。
きしりとベッドが沈む。
俺は、掛け布に包みこまれる優しい感触に、目を覚ました。
いつの間にか少し眠ってしまったらしい。
部屋の電気は落とされ、まだ見慣れない新居の寝室は、暗闇に包まれていた。
「オーニョさん?」
俺は少し心細くなっていた。
思わず出た頼りない声に、オーニョさんはすぐに反応してくれた。
「起こしてしまったか? きっと疲れたんだろう。今夜はゆっくり休みなさい」
掛け布の上からぽんぽんとあやされ、俺はうとうととしながらも首を横に振った。
「だって……みんなが、今夜は初夜だって」
「だからといって、無理をする必要はない。ライラ母さんもいっていただろう。卵のために愛しあうことは重要だが、心がともなわない行為では意味をなさないと。ユーキが疲れているなら、今夜は何もせず抱きしめながら眠ろうか」
オーニョさんはそういって、背後から俺を抱きしめた。
背中に感じるオーニョさんの体温に、俺はほっと息を吐く。
オーニョさんは労るように、俺のお腹に手をあてた。
「オーニョさんは、したく、ないの?」
「私は、ユーキの嫌がることを、したくないんだ」
「……俺は……今夜はするんだって思って、準備……したんだよ。うまくできたか分からないけど、結婚祝いにって、えっと……そういうオイルをもらっててね。でも、結局寝ちゃって。ごめんなさい。俺がこんなだから、オーニョさん、いつも我慢してばっかりだよね。
俺、たまにはオーニョさんがしたいように、してほしいなぁ」
「私が無茶をしたら、ユーキが壊れてしまいそうで怖いんだ。嫌われるのも、怖い」
「ふふふ。そんなに簡単に壊れなかったでしょ? それに、嫌いになんかならないよ。絶対に」
俺はそういいながら、お腹に添えられたオーニョさんの手の上に、自分の手を重ねた。
二人分の手が、お腹の中の卵を守るようにじんわりと温かい。
「まいったな。私はユーキを大切に思えば思うほど、臆病になっていくらしい」
「オーニョさん……怖いの?」
「ああ。ユーキと、ユーキの心を失うことが、怖い。ユーキには情けないところを見せたくないのにな」
「オーニョさんは、情けなくないよ。いっぱい優しい。どんなオーニョさんも、俺、すごく好きだよ。
……俺だって、オーニョさんが我慢してばっかりで、いつか気持ちが離れたらどうしようって、思うときがあるから。分かるよ。好きって気持ちは、難しいね」
「ああ。難しい」
「でも俺は、オーニョさんとなら、大丈夫だって信じてる。それはきっとね、オーニョさんが俺にいっぱい好きって、伝えてくれたから。
だから今度は、俺の番。オーニョさんの不安がなくなるくらい、いっぱい好きって、伝えるね」
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