上 下
160 / 187

160.初夜?

しおりを挟む




 遅くまで続くのかと思っていた楽しい時間は、俺とオーニョさんが食事を終えたことで、あっさりと終わりを告げ、なかば追い立てられるように部屋に戻されてしまった。





 今夜は大切な初夜だからと、あちこちで祝われて部屋に戻された俺の気持ちも考えてほしい。


 どうやらたとえ無断外泊でもにょもにょしていたとしても、今夜が初夜であることに変わりはないらしい。



 パォ一族の特性といっても過言ではない距離感の近さに、俺はもう瀕死だった。

 どうにかしてデリカシーを覚えてほしい。

 パォ一族の多くが、思春期にこじらせる理由が痛いほどよく分かる夜だった。






 部屋に帰ってからもみんなの気遣いがじわじわといつまでも恥ずかしくて、オーニョさんにどんな顔していいか分からなくなって、俺は浴室へと逃げこんだ。


 シャワーを浴びながら一人丸まって悶えた。

 しかし、いつまでも丸まっていても仕方がない。



 俺は覚悟を決めて体をすみずみまで洗った。

 最後に悩みに悩んでから、結婚祝いにと渡されたパォ一族特製オイルで穴を準備し、ぎこちない動作で部屋に戻った。



 入れ違いでシャワーを浴びに行ったオーニョさんの背中を目で追いながら、どうしようかと部屋をうろつく。




 だいたい初夜ってなに!? 

 ベッドで待っていたら、いかにも待ってましたな感じでやらしいのでは!? 
 いや、ここまで準備しておいて今さらか!? 
 うわぁ俺なんで準備しちゃったんだろう! でも前回みたいにオーニョさんにだけ準備させるのも違う気がするううう。

 ああああ、いったい何が正解なんだ!?



 ぐるぐる考えているうちに、なんだか疲れてきてしまった。

 そもそも怒濤の一日だったのだ。疲れて当然かもしれない。





 俺は開き直って、えいやとベッドにダイブしたのだった。










 きしりとベッドが沈む。


 俺は、掛け布に包みこまれる優しい感触に、目を覚ました。

 いつの間にか少し眠ってしまったらしい。
 部屋の電気は落とされ、まだ見慣れない新居の寝室は、暗闇に包まれていた。




「オーニョさん?」


 俺は少し心細くなっていた。

 思わず出た頼りない声に、オーニョさんはすぐに反応してくれた。


「起こしてしまったか? きっと疲れたんだろう。今夜はゆっくり休みなさい」



 掛け布の上からぽんぽんとあやされ、俺はうとうととしながらも首を横に振った。


「だって……みんなが、今夜は初夜だって」

「だからといって、無理をする必要はない。ライラ母さんもいっていただろう。卵のために愛しあうことは重要だが、心がともなわない行為では意味をなさないと。ユーキが疲れているなら、今夜は何もせず抱きしめながら眠ろうか」



 オーニョさんはそういって、背後から俺を抱きしめた。

 背中に感じるオーニョさんの体温に、俺はほっと息を吐く。
 オーニョさんは労るように、俺のお腹に手をあてた。




「オーニョさんは、したく、ないの?」

「私は、ユーキの嫌がることを、したくないんだ」

「……俺は……今夜はするんだって思って、準備……したんだよ。うまくできたか分からないけど、結婚祝いにって、えっと……オイルをもらっててね。でも、結局寝ちゃって。ごめんなさい。俺がこんなだから、オーニョさん、いつも我慢してばっかりだよね。
 俺、たまにはオーニョさんがしたいように、してほしいなぁ」

「私が無茶をしたら、ユーキが壊れてしまいそうで怖いんだ。嫌われるのも、怖い」

「ふふふ。そんなに簡単に壊れなかったでしょ? それに、嫌いになんかならないよ。絶対に」



 俺はそういいながら、お腹に添えられたオーニョさんの手の上に、自分の手を重ねた。

 二人分の手が、お腹の中の卵を守るようにじんわりと温かい。




「まいったな。私はユーキを大切に思えば思うほど、臆病になっていくらしい」

「オーニョさん……怖いの?」

「ああ。ユーキと、ユーキの心を失うことが、怖い。ユーキには情けないところを見せたくないのにな」

「オーニョさんは、情けなくないよ。いっぱい優しい。どんなオーニョさんも、俺、すごく好きだよ。
 ……俺だって、オーニョさんが我慢してばっかりで、いつか気持ちが離れたらどうしようって、思うときがあるから。分かるよ。好きって気持ちは、難しいね」

「ああ。難しい」

「でも俺は、オーニョさんとなら、大丈夫だって信じてる。それはきっとね、オーニョさんが俺にいっぱい好きって、伝えてくれたから。
 だから今度は、俺の番。オーニョさんの不安がなくなるくらい、いっぱい好きって、伝えるね」




しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

処理中です...