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159.特等席
しおりを挟む「そんなことが……。ユーキ……。僕はユーキになんとお礼をいったらいいのか」
なかば呆然としながら俺のお腹を見つめるルルルフさんに、俺はにっこり笑って胸を張る。
「お礼なんていらないよ。もうこの子は、俺とオーニョさんの大切な子供なんだから」
「そうですね。そうですよね……っ! 僕だって、ライラ母さんの自慢の息子なんですから、同じですよねぇ!」
俺は、特殊な経緯で宿した卵の孵化について、ライラ母さんの知っていることを教えてもらいたいとお願いした。
かつて山田さんの赤ちゃんを産んだライラ母さんには、聞きたいことがいっぱいあった。
オーニョさんが人型に戻って洋服に着替え終わったころ、ライラ母さんが帰ってきた。
軍の人たちはライラ母さんを本当に椅子ごと運んでくれていて、山頂までの道のりを思うとその大変な労力に頭が下がった。
どうやらライラ母さんがひどく心配している様子を見て、途中で切りあげて連れてきてくれたのだそうだ。
優しい人たちだった。
心配をかけたことを謝る俺に、みんな口々に元気な姿を見て安心したと笑って、結婚の祝いの言葉を口にしながら帰っていった。
ライラ母さんがオーニョさんの職場の人がみんないい人たちでと心から褒めているのを聞いて、オーニョさんはまるで自分が褒められたかのように喜んでいるのだった。
オーニョさんがとてもいい職場で働いているのだろうなと思い、俺まで嬉しくなった。
ライラ母さんを連れて部屋に戻った俺たちは、さっそく事の次第を打ち明けた。
ライラ母さんは静かに話を聞き、それからしっかりと母の顔になった。
「そういうことなら、このライラ母さんに任せて。この世界のどこを探しても、私より的確にアドバイスできる人間なんてどこにもいやしませんよ。なんといっても経験者ですから。
ユーキ、怖かったでしょう。よく頑張りましたね。でも、もう安心していいのよ」
「僕もいますよ。この兄にも、どーんと任せてくださいね!」
「ルルルフさんたちが家族で、オーニョさんが結婚相手で、俺、本当によかった。すごく心強い。ありがとう」
それからもたくさん話しあって、お腹の卵が山田さんの魂を宿していることは、満場一致で秘密にしていくことに決まった。
たとえ子供が成長しても、自分で思い出さない限り、こちらからは何も伝えない。
ただ俺たちの子供として、産み育てるのだ。
みんなの気持ちはまったく一緒で、ただひたすらに、お腹の赤ちゃんの幸せを願ってのことだった。
気付けば夕暮れが近付いてきていた。
山頂に行っていたパォ一族のみんなが、それぞれ荷物を抱えて帰って来るのが見えた。
俺はみんなに一言謝ろうと外へ出たのに、むしろ温かく迎えられて、心がじんわりと温かくなった。
俺の周りには優しい人しかいないみたいだ。
一生分の幸せを使いはたしても足りないくらい、幸運なことだなぁと噛みしめた。
「ユーキ。もう寝てなくて大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。みんなごめんね。緊張して、寝不足だったみたいで」
優しいみんなに嘘をつくのは、やっぱり少し心が痛んだ。
「気にすんな。何ごともなくてよかったよ。それよりも、せっかくの俺の料理が食べられずに残念がってるんじゃないかと思ってな。食べられそうなら、少しでも腹に入れないか?」
ンバンヴェさんはそういって、俺とオーニョさんを集会所のような大広間に連れていってくれた。
そこにはすでに、ずらりと料理が並べられていた。
昼間の結婚パーティーだけでなく、パォ一族だけのささやかなお祝いの席がサプライズで用意されていたのだ。
施設で仕事があったみんなもぞくぞくと集まり、賑やかで飾らないパーティーが始まった。
「ユーキ、本当に綺麗だったわ。あ、これも美味しいわよ。いっぱい食べてね」
「来てくださったお客さまも、みんなユーキの式を祝ってくれてね」
「そうそう。とってもいい結婚の儀式だったわよねぇ」
「私が担当してた渡来人も、結婚してもう何年も経つのに、こんな式なら何回でも挙げたいなっていってたくらいよ」
「ンッツオーニョ大佐は幸せ者よねぇ!」
食事を囲んだ祝いの席では、お酒も入り、笑い声の絶えない時間をみんなと一緒に楽しんだ。
オーニョさんは勧められるままにお酒を空けていく。
めずらしく少し酔ったのか、いつもにもまして距離が近い。
気付いたときには、オーニョさんの膝の上から降ろしてもらえなくなっていた。
隙を見て膝の上から降りようとしても、すぐに捕まってしまうのだ。
それでもにこにこと嬉しそうなオーニョさんを見ると、降ろしてと強くもいえず、俺は仕方ないかとそうそうに諦めた。
ちょっと恥ずかしいのを我慢すれば、オーニョさんの膝の上は一番安心できる特等席なのだ。
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