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158.目が覚めたら
しおりを挟む目が覚めたら見覚えのある赤い毛並みの中だった。
ふかふかの毛並みに埋もれていた体を起こす。
どうやら俺は、獣姿のオーニョさんに寄りかかるようにして寝ていたらしい。
「ユーキ、起きたか?」
「オーニョさん……俺……?」
婚姻の儀式のために、山頂にいた記憶までははっきりしていた。
なのにいつの間に運ばれたのか、新居のベッドの上だった。
装飾の多いピーリャこそ外されているが、服は婚礼衣装のままだ。
だから、きっとそんなに時間は経っていないはず。
山田さんの魂は、どうなったんだろう。
「ユーキ! 起きたんですね!」
勢いよく部屋のドアを開けたのは、ルルルフさんだった。
「目を開けたばかりだ。静かに。あと、新婚家庭の寝室をノックもせずに開けるな」
「ちゃんと植物に聞いてきたので大丈夫ですよ」
「おい、何も大丈夫じゃない。この部屋の植物は、あとで全部撤去しろよ」
「いわれなくても、僕だって聞きたくないので持って帰りますよ。
そんなことよりも、ああ、ユーキ。どこか痛いところや気持ちの悪いところはないですか?」
「俺の体は大丈夫。それよりも、あのあと……何があったんだっけ?」
「ユーキが急に倒れたので、僕は一足先にンッツオーニョ大佐と戻ってきたんですよ。お祝いに来てくださっていたお客さまは、ゆっくり滞在してもらえるように手配してきたので、大丈夫ですからね」
きっと俺を運ぶために、オーニョさんは獣姿になってくれたのだろう。
「じゃ、まだそんなに時間は経ってない?」
「ええ。ンッツオーニョ大佐の背中に乗れば、一瞬ですもの。それよりも、倒れるくらい体調が悪かったなら、我慢せずに一言教えてください。アキュース神さまは大丈夫だっていってましたけど、僕、すごく心配したんですから」
どういうことかとオーニョさんを見れば、どこか申し訳なさそうに、ユーキの許可がないうちは何も伝えられなかったと耳打ちされた。
「心配したよね。ごめんね、ルルルフさん。ありがとう、オーニョさん」
俺はそっとお腹に手を乗せた。
何の異変もなければ、実感もない。
本当にここに卵が入っているのだろうか。
そのまま、アキュース神さまが秘密にしていた理由について、考えた。
今を生きている人が、死者に引きずられてはいけないという内容は、俺だって理解できる。
これから俺たちの子供として生まれてきてくれる新しい命が、山田さんの生まれかわりとしか扱われなかったら、それは違うと思うのだ。
それでも俺は、ルルルフさんとライラ母さんには話そうと決めた。
きっと二人なら大丈夫だという自信があった。
オーニョさんは、俺のお腹に頭を寄せて、ぐるぐる喉を鳴らしている。
オーニョさんは、いつだって俺の心のままに動くことを望んでくれていると知っているから。
俺はオーニョさんのぐるぐる音に励まされて、ルルルフさんと向かいあった。
「ルルルフさん。俺とオーニョさんから、秘密の相談があるんだ。これからのことについて」
俺の真剣な様子に、ルルルフさんは置いてあった花の鉢植えを部屋の外まで運びだすと、居住まいを正して向かいあってくれた。
「もちろんです。僕はユーキの兄ですからね。どんなことでもユーキの力になれるなら、光栄ですよ」
俺は、婚姻の儀式の一件を、隠すことなく、すべてルルルフさんに伝えていった。
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