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151.結婚式の衣装

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「なぁに。なんてことはないさ。むしろこういう仕事はやりがいがあっていい。娘のコロゥニャも手伝ってくれてね。楽しい仕事だったよ。私も家内も、明日の結婚式とやらをとても心待ちにしているんだ」

 店主は俺に服を着せながら、目にもとまらぬ早業でミリ単位の調整をしていった。

 本当にすごい。ささっといとも簡単そうに縫っていくのに、縫い目が見えないくらいに丁寧なのだ。
 さすがこの道のプロ。



 服の襟、袖、裾に銀の刺繍がびっしりと施された白い衣装は、ところどころに赤や金の小さな宝石が縫い付けられていた。

 一見シンプルに見えて、恐ろしく豪華な服だった。



 いつもより丈の長い足首まで隠れる長袖ワンピース型の上服は、光の角度によってキラキラと見え方が変化する。

 あとは上服とおそろいの幅広のズボンをあわせるらしい。

 衣装は全体的にドレープこそ多かったが、服の形がいつもと大きくかわらなかったので、なんとか自分一人で着られそうだと胸をなで下ろした。

 女性用のウエディングドレスみたいな服を着るのは、いくら異世界でも俺の心が折れる。



 服のセッティングが終わったら、店主の手を借りてピーリャを巻いていく。

 婚姻の儀式で俺が身につける予定のピーリャは、実はオーニョさんに最初にもらったものだった。




 衣装棚の奥底にしまわれていたピーリャを取りだし、オーニョさんからもらった小さな赤い石のブローチとともに、これがいいとお願いしたのは俺だった。


 オーニョさんはせっかくなのだからと、婚礼衣装と合わせたピーリャを注文したがっていた。

 しかし、オーニョさんからの初めてのプレゼントなのだ。

 時間は戻せないけど、あのとき素直に受け止められなかったオーニョさんの好意に報いたくて、俺がどうしてもこれでと押し切ったのだった。




 店主は俺の意見をくみ取り、今あるピーリャに装飾を足して服とのバランスを整えてくれた。


 光の角度によって青にも黒にも見えるピーリャに、縁飾りとして服とおそろいの刺繍。

 肩から下がる部分には、房になった赤と金の宝石が加えられ、しゃらしゃらと揺れて音を立てた。



 いつもの被るだけの巻き方とは違い、まずは白いレースの縁飾りのついた布を、その上からピーリャを巻いていく。

 額の部分からレースが少し見えるような巻き方にするらしい。

 首の下からうなじを一周させたあと、赤い石のブローチで耳の下あたりの布をしっかりと留めていく。



 最後に、衣装にあわせて用意されていた靴に履き替える。

 わざわざピーリャと同じ布を探しだして作ってくれた総刺繍の靴だった。

 この短期間で仕上げたとは思えない丁寧な手仕事から、店主の祝福の気持ちが伝わってくるような素晴らしい衣装だった。






 上から下まで衣装を身につけて、店主に促されながら間仕切りの外に出た。


 外にはおそろいの白い衣装を身につけたオーニョさんが待っていた。


「ユーキ、綺麗だ」

 オーニョさんが俺の手をとって小さくつぶやく。


 俺が贈ったピーリャは、明日の婚礼の儀式で身につける。

 それまでオーニョさんの赤い髪を隠すのは、シンプルな白いピーリャだけだ。
 
 ほかは靴まで俺とおそろいの衣装だった。

 二人の体格があまりにも違うから、印象がまったく違うのがちょっと悔しい。



「オーニョさん、素敵。かっこいい。惚れなおす。店主さん、タネィさん、素敵な衣装を、本当にありがとうございました」

「お二人とも、よくお似合いですよ。一足早いですけどね、おめでとうございます。二人のこれからに、末永くアキュース神さまのご加護と幸せを」

「ありがとうございます。俺、やっぱり、このピーリャでお願いして、よかったです。このピーリャ、オーニョさんが、俺をずっと待っていてくれたあかし。俺を好きでいてくれて、ありがとう、オーニョさん」

「私こそ、ありがとう。ユーキ。何度でもいうよ。私の気持ちを、この世界を、受け入れてくれてありがとう」




 オーニョさんはピーリャの房を手にとって、小さく口を寄せた。






 俺は明日、いよいよオーニョさんと婚姻の儀式を迎える。







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