122 / 187
122.カオス
しおりを挟むオーニョさんの家族構成は、お父さんとお母さんに弟が二人の五人家族なのなそうだ。
地球の犬猫みたいに多産ではないと聞いて、俺はちょっと残念に思った。
子犬や子猫みたいなオーニョさんがたくさんいたら、めちゃくちゃかわいいだろうなって想像していたのだ。
獣姿のオーニョさんはお母さんに似ていて、オーニョさんのお父さんは魔族なのだと教えてくれた。
両親双方に似るというよりは、片方の親に似た子が生まれるらしい。
なので、すごくかけ離れた種族が夫婦になっても安心なのだと、オーニョさんは熱心に話している。
ちなみにオーニョさんの弟はお父さん似の魔族だから、もっぱら夜中に活動するらしく。
すでに兄弟それぞれが家を出て働いていることもあって、今はあまり交流がないらしい。
家族仲はいいほうだといっているけれど、寂しくないのかなと思ってしまった。
オーニョさんはそんな俺の気持ちを察してか、これがこの世界でのごく一般的な家族の形なのだと教えてくれた。
種族がかけ離れた者同士なら、無理することなく通い婚。
居心地のいい環境が違うなら無理はしないという合理的で自由な考え方が、この世界では主流なのだ。
パォ一族みたいに仲良しなのはむしろ珍しいらしい。
「オーニョさんと、ルルルフさん、昔から、仲良し?」
「ルルルフとは別に友達ではないぞ。ただ、昔から知っているだけで」
「昔から?」
「あー、なんというか。……あいつはな、私が軍に入隊したときの同期なんだ」
「ルルルフさん、軍人だったの!?」
「いや、正しくは入隊前の訓練生の同期、だな。ルルルフはああ見えて、身体能力が高いんだ。そのくせ武術や制圧術を学びたかっただけだとかいって、上官が引き止めるのもあっさり断って入隊を辞めた変わり者なんだ」
軍で働くといってもすぐに入隊できるわけではなく、三ヶ月に及ぶ訓練で適性を測ってから正式に入隊になるらしい。
ルルルフさんは訓練生で辞めたから、厳密には入隊はしていないのだそうだ。
「仲良かったの?」
「まぁ、常に上位争いをしていた相手だったから、話はよくしていたな。ただ軍に入隊する気は最初からなかったと知って、遊び気分だったのかと、複雑な気持ちになってな」
「待って。ルルルフさん、遊び気分、違う」
山田さんとサフィフ伯父さんの件があったから、ルルルフさんは渡来人を守る力が必要だって考えたんだと思う。
それはルルルフさんにとって真剣で切実な気持ちだったはずだ。
しかし事情を知らないオーニョさんからしたら、裏切られたような気持ちになったのかもしれない。
そう気付いて、俺は説明して誤解を解きたくてたまらなくなった。
だけど、人のことを勝手にべらべら喋っていいのものなのかためらってしまう。
「ただいま戻りました。ルルルフ兄さんですよぉ」
タイミングよく、ノック音とともに陽気なルルルフさんの声が聞こえた。
俺は飛びつくようにルルルフさんを出迎えて、たどたどしいながらことのあらましを説明した。
「なんだそんなことですか。ンッツオーニョ大佐は、近い未来ユーキの伴侶となる人でしょう。ユーキが伝えたいことは、何も気にせず好きに伝えていいんですよ。
いい機会だからなにかあったときのために、パォ一族の植物による伝達方法もあとで教えときますよ。何を話してもね、ンッツオーニョ大佐なら人にいいふらしたりしませんから。なんせ石頭なんでね」
ほっとしてオーニョさんを振りかえろうとした俺の首根っこを捕まえて、ルルルフさんはにっこりと笑った。
「そんなことよりも。ユーキ、髪が濡れていますよ。湯浴みや着替えが必要とは何があったんでしょうか。この兄の顔を見て、しっかりと説明してくださいね」
なぜだろう。笑顔が怖い。
俺は魔法の本を広げて、一生懸命に説明した。
「オーニョさん、婚約者。オーニョさん、喜ぶ。いっぱいぎゅってして、俺ね、えーっと、いっぱいドロドロになった。服も全部、汚れるした。だから俺、お風呂入った」
話している途中でいろいろと思い出してしまい、俺は赤面しながらもなんとか説明をはたした。
はたしたはずなのに、ルルルフさんの表情がなんだか変?
「この施設内での淫らな行為は禁止だと、僕はきちんと説明しましたよね?」
ルルルフさんの声が低い。怒ってるみたいだ。
でもあれは淫らな行為ではなかったし、犬に舐められただけみたいなものだし。
俺はさらに焦って、ルルルフさんの誤解を解こうと言葉を重ねた。
「ち、違うよ! 部屋、違う! 外だよ! 道で、ちょっと、舐める、した!」
「外で? な、舐め……」
「待て待て。分かるが、待て。ルルルフは一度落ちつけ。きっとお前の心は汚れているぞ」
オーニョさんがルルルフさんを宥めている。
その様子を見て、これは何か間違ったみたいだと俺は冷や汗をかいた。
この世界に来てからの短期間で、俺なりに語学の勉強を頑張ったつもりだったのに、そのささやかな自信が霧散していく。
「これが、落ちついていられますかっ!」
「だから誤解だ」
「オーニョさん、ごめんなさい……俺、間違えた?」
「いいや、ユーキは何も間違えてなどいないよ」
「じゃあやっぱり……! 手が早いにもほどがありますよ! この肉食獣っ!」
「人聞きの悪い。ちゃんと我慢したさ。……いや、少し我を忘れたか」
「ユーキィ! 僕のかわいいユーキが、み、道端で汚されるなんてぇ!」
「え、俺、まだ汚れてる?」
俺が洗い損ねているらしい汚れについて聞いても、オーニョさんは綺麗だよというだけで。
「そこ! いちゃつくんじゃありませんよぉ!」
ルルルフさんはなんだかさらに憤慨し、よく分からないままにカオスな夜は更けていったのだった。
7
お気に入りに追加
1,491
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる