112 / 187
112.祝福と呪詛
しおりを挟むお喋りな植物たちからの祝福の言葉が降りそそぐ。
薬部屋を出ると、ライラが訳知り顔で祝福してくれた。
植物の言葉が聞こえない山田さんは、きょとんとしている。
そんな山田さんのかわいさに免じて、私は妹の頭を優しく小突くに留めた。
山田さんには、まだパォ一族のこの能力について、説明をしていなかったのだ。
ごく簡単に、原因となったお喋りな植物たちを紹介して説明をすましておく。
もっと驚くかと思ったが、心当たりがいくつかあったようで、妙に納得していた。
私の軽いストーキング行為は、どうやら本人にもばれていたらしい。
非常に気まずい。
そうこうしているうちに、私を心配してくれていたお喋りな植物たちによって、吉報はまたたく間にパォ一族に広まってしまった。
新しい担当なら任せろと近くにいたおじさんが乗りこんで来て、施設から追い払われてしまった。
せっかくだから本当に親の挨拶に行こうかと歩き出したとき、ライラが追いついた。
どうやら走ってきたらしい。
「今から実家に顔を出すでしょう? 私も一緒に帰るわ。お父さんもお母さんも、今ごろきっと植物たちに話を聞いて、びっくりしてるわよ」
ライラは、喜ぶ様子が目に浮かぶとはしゃいでいる。
私は心配をかけたからなぁと小さな声でつぶやいた。
それを聞いた山田さんが、不安そうに尋ねる。
「最初にお会いしたときのご両親の気持ちを思うと、私は謝罪をしなければ。……許してもらえるだろうか。いや、許してもらえなくても、いつか許してもらえるまで何度でも足を運ぶよ」
我慢ができなくて、山田さんの手をぎゅっと握った。
山田さんは驚いた顔をしていたが、振り払うことなく手を握り返してくれた。
「許すも何も! 両親は私たちを一番に応援してくれていたんですから。今ごろ、狂喜乱舞してますよ。ある意味、覚悟をしていてくださいね。家族に揉みくちゃにされかねないので」
「そうなの、か……?」
相好を崩したライラが、初々しい私たちの会話に割って入った。
「じつは内緒にしてたんだけど、サフィフ兄さんたちを応援してくれてた人は、ほかにもいるのよ。その人の伴侶が渡来人でね、以前とても世話になったっていってたわ。心配してくれていて、ときどき、私に様子を聞きにきてくれていたのよ。時間が経っても繋がりを大切にする素敵な人よね」
ライラは悪戯っぽく笑いながら話を続ける。
「さっきばったり会ったから、さっそく報告をしたんだけど、お祝いに駆けつけるってすごく喜んでいたわ。名前は、ツェツェさんっていう人よ」
「ツェツェ……?」
長い間、地球人保護施設で暮らしていたこともあり、仲良くなった渡来人は少なくない。
しかしそんな名前の第一発見者はいただろうかと、首をかしげる。
「やだなぁ。俺を忘れたんですか? 俺はあなたを、忘れた日はなかったのに」
背後から男の声が聞こえて、振り返ると、そこにはラーテルの獣人が立っていた。
十二年前に渡来人を失って、泣き叫んでいたあの獣人だ。
あの日私に向けられた憎しみの目を思い出す。
「ツェツェさん! さっそく来てくれたの?」
何も知らないライラは、ラーテルの獣人に駆け寄ろうとする。
焦った私はライラの手を掴むために、山田さんの手を離してしまった。
大切な人の手を。守るべき人の手を。
ラーテルの獣人は動きが速い。あっという間に、距離を詰められる。
しかし山田さんとて、長年軍部で働いてきたのだ。
異常を察知した山田さんは、慣れた動きで帯刀していたサーベルを鞘から抜くと、ラーテルの獣人を迎え討つ。
サーベルは片刃の刀だ。
山田さんはサーベルで、向かって来るラーテルの獣人の足を打ち、うつ伏せに倒れるように背中を鍔で突く。
山田さんはいつもの動きで制圧しようとしたのだ。
――しかし。
「山田さん待って! ラーテルはっ」
ラーテルの皮膚は分厚く頑丈で、柔軟な装甲と呼ばれている。そんな打撃で止まるはずがない。
山田さんを止めなくてはと、私の悲鳴のような叫び声も虚しく。
いち早く山田さんの隙をついたラーテルの獣人が、山田さんの足もとをすくう。
山田さんは何よりもどこよりも、お腹を守って……。
6
お気に入りに追加
1,488
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる