【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ

文字の大きさ
上 下
103 / 187

103.両親との決別

しおりを挟む

 


  ついに今日、両親に捕まってしまった。


 両親はライラをおとりにして、畑で待ち構えていたのだ。

 ああライラ。かわいいライラ。

 爺さんに連れていかれるライラの背中を、静かに見送った。


 今から小さな子供には聞かせられない話をするぞということなのだろう。





 内容は、やはり山田さんのことだった。

 死亡例以外で結ばれない史上初の事例だと、噂されているのは知っていた。


 正直にいって、山田さんの一番近くにいられるだけで、胸がいっぱいなのだ。
 今のままでも、充分に幸せを噛みしめている。

 それの何がいけないのだろうか。





 両親の話を聞く限り、山田さんにいいようにもてあそばれているのではないかと、私の将来を心配してくれているようだった。


 もてあそぶ。



 この言葉が、山田さんほど似合わない人もいないだろう。
 妻帯者だったと思えないほど、清純で硬派な人だ。


 とりあえず両親には強く否定しておく。



 それでも引き下がらない両親は、年上がいいならバハスはどうかと私に勧めてきた。


 同じパォ一族だ。
 名前くらいは知っている。

 植物の研究に没頭しすぎるあまり、庭に籠もりきりになってしまった根っからの研究者肌の男性だった。

 顔をあわせたことならあるが、別に仲良く話をした記憶はない。




「バハスは以前からお前を気に入っていたそうだ。きっとサフィフも気があうだろうから、一度付きあってみたらどうだろうか」


 そういう父親はいたって真面目な顔だった。

 最初は両親が何をいっているのか分からなかったが、なるほど、こういうのが地球でいうところの見合いにあたるのかもしれないと、私の頭はすぐに山田さんのことを考え出す。


 このアキュース国では、嘘を重ねて結婚しても、子供が授からないことで愛がないのだと相手に伝わってしまうのだ。

 発散するだけの体の関係であれば気楽だが、そうでないとしたら悲しさだけが残ってしまう。

 いくら無理をしたところで、無意味なのだ。



 いつまでも地球人保護施設に泊まりこむ自分を心配しているのだと分かっている。

 一欠片の悪意もない純然たる愛情からの言葉だと、分かっているんだ。


 でも……。





「駄目なんだ。だって私は、……山田さんを、愛しているから」


 黙りこんだ両親を置いて、私は実家をあとにした。




 今まで生きてきたこの世界のすべてより、山田さんがいい。
 何を引きかえにしても、そばにいたい。
 もう充分に傷付いてきた山田さんを、これ以上苦しめたくない。


 私の感情が山田さんの負担になるのなら、一番の理解者として、そばにいられるだけでいいんだ。



 両親が大好きだ。
 あの温かな家族は、私の理想の家庭だった。


 なのに、……私は親不孝者の息子だ。


 悲しむ両親よりも、家族をとても大切に思う山田さんにこんな私を知られたくないという気持ちが勝るのだ。




 自己嫌悪に押しつぶされながら歩いた。


 庭を出る手前で、爺さんが立っているのに気付く。

 きっと私を待っていてくれたのだろう。
 今までは何かあれば相談する相手は、いつも爺さんだった。



 しかし、もう何も相談できない。


 ただ俯く私に、爺さんは優しく話しかけてくれた。


 両親は、サフィフが少年から大人へと変化をする時間のすべてを、見知らぬ渡来人に取られて寂しがっているのだと。

 結婚してからもこの庭から離れず、同じ敷地内で暮らすパォ一族は多い。

 それなのに何年も地球人保護施設で暮らしなかなか会うこともできないサフィフを、心から心配しているのだと。




「また来なさい。ここはサフィフの家で、庭なのだからね」



 穏やかにそういう爺さんの後ろに、ライラがしがみつき隠れていた。


 爺さんのあとについて、よく学べよ、かわいい妹よ。

 爺さんは間違いなく、このパォ一族で一番の男なのだから。




 ――きっと私は、もう来ない。








しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...