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103.両親との決別
しおりを挟むついに今日、両親に捕まってしまった。
両親はライラを囮にして、畑で待ち構えていたのだ。
ああライラ。かわいいライラ。
爺さんに連れていかれるライラの背中を、静かに見送った。
今から小さな子供には聞かせられない話をするぞということなのだろう。
内容は、やはり山田さんのことだった。
死亡例以外で結ばれない史上初の事例だと、噂されているのは知っていた。
正直にいって、山田さんの一番近くにいられるだけで、胸がいっぱいなのだ。
今のままでも、充分に幸せを噛みしめている。
それの何がいけないのだろうか。
両親の話を聞く限り、山田さんにいいようにもてあそばれているのではないかと、私の将来を心配してくれているようだった。
もてあそぶ。
この言葉が、山田さんほど似合わない人もいないだろう。
妻帯者だったと思えないほど、清純で硬派な人だ。
とりあえず両親には強く否定しておく。
それでも引き下がらない両親は、年上がいいならバハスはどうかと私に勧めてきた。
同じパォ一族だ。
名前くらいは知っている。
植物の研究に没頭しすぎるあまり、庭に籠もりきりになってしまった根っからの研究者肌の男性だった。
顔をあわせたことならあるが、別に仲良く話をした記憶はない。
「バハスは以前からお前を気に入っていたそうだ。きっとサフィフも気があうだろうから、一度付きあってみたらどうだろうか」
そういう父親はいたって真面目な顔だった。
最初は両親が何をいっているのか分からなかったが、なるほど、こういうのが地球でいうところの見合いにあたるのかもしれないと、私の頭はすぐに山田さんのことを考え出す。
このアキュース国では、嘘を重ねて結婚しても、子供が授からないことで愛がないのだと相手に伝わってしまうのだ。
発散するだけの体の関係であれば気楽だが、そうでないとしたら悲しさだけが残ってしまう。
いくら無理をしたところで、無意味なのだ。
いつまでも地球人保護施設に泊まりこむ自分を心配しているのだと分かっている。
一欠片の悪意もない純然たる愛情からの言葉だと、分かっているんだ。
でも……。
「駄目なんだ。だって私は、……山田さんを、愛しているから」
黙りこんだ両親を置いて、私は実家をあとにした。
今まで生きてきたこの世界のすべてより、山田さんがいい。
何を引きかえにしても、そばにいたい。
もう充分に傷付いてきた山田さんを、これ以上苦しめたくない。
私の感情が山田さんの負担になるのなら、一番の理解者として、そばにいられるだけでいいんだ。
両親が大好きだ。
あの温かな家族は、私の理想の家庭だった。
なのに、……私は親不孝者の息子だ。
悲しむ両親よりも、家族をとても大切に思う山田さんにこんな私を知られたくないという気持ちが勝るのだ。
自己嫌悪に押しつぶされながら歩いた。
庭を出る手前で、爺さんが立っているのに気付く。
きっと私を待っていてくれたのだろう。
今までは何かあれば相談する相手は、いつも爺さんだった。
しかし、もう何も相談できない。
ただ俯く私に、爺さんは優しく話しかけてくれた。
両親は、サフィフが少年から大人へと変化をする時間のすべてを、見知らぬ渡来人に取られて寂しがっているのだと。
結婚してからもこの庭から離れず、同じ敷地内で暮らすパォ一族は多い。
それなのに何年も地球人保護施設で暮らしなかなか会うこともできないサフィフを、心から心配しているのだと。
「また来なさい。ここはサフィフの家で、庭なのだからね」
穏やかにそういう爺さんの後ろに、ライラがしがみつき隠れていた。
爺さんのあとについて、よく学べよ、かわいい妹よ。
爺さんは間違いなく、このパォ一族で一番の男なのだから。
――きっと私は、もう来ない。
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