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82.高級料理店
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――山田氏の手記より
『朝方、あちこち痛む身体で起きた。
完全な二日酔いだ。
頭も痛けりゃ、あらぬ所も痛い。
隣に裸で眠るパォ殿を確認して、夢じゃなかった事に落胆しながらベットを抜け出そうとして。……パォ殿に捕まってしまった。
どこに行くのかと聞かれたので、仕事だと言葉少なに伝えると、山田さんの仕事は今日は休みだと返された。
当然のように仕事の休みも把握されているのだ。脱力する。
こんな事になって、それでもパォ殿の事を嫌いになれない自分に肩を落とした。』
________________
いつも日本語を教えてくれているお礼だからと、夕飯はオーニョさんのおごりに決まってしまって、俺も今度何かお礼をしたいなと考えているうちに、お店に着いた。
表に看板のない、見るからにお高そうなお店なんだけど。
苦学生で清貧が骨身に染みている俺には、敷居が高いよオーニョさん。
「ね? 前のお店、行く? このお店、高そう。おごり、悪いの」
「ああ、気にするな。この店に、ユーキと、来たかったんだ。一緒に来られて、私は嬉しい」
尻込みする俺に、オーニョさんはにっこり笑う。
「それに、個室のお店だから、ゆっくり、勉強もできる。ユーキは、あれを聞かれても、構わない?」
夕食のあと、そのままお店で山田さんのあの翻訳チェックをするのだろうか。
たしかに、いつも勉強会に使っていた場所は今日の片付けなどで使えないかもしれない。
――それに何よりも。
「人に、聞かれる、恥ずかしい……」
ぼそっとつぶやいた俺の背中にそっと手を添えて、オーニョさんは俺をお店へとエスコートしていった。
いったいどんな言葉が飛び出してくるか分からない以上、たとえ施設職員であっても、うっかり聞かれるのは恥ずかしい。
恥ずかしいんだから仕方ない!
俺は諦めて、高級料理店を受け入れることにした。
お店の入り口に立つと、静かに扉が開いた。
自動ドアかと思いきや、店員さんが扉を開けてくれていたようだ。
タイミングがぴったりということは、ずっと扉で待機していたのだろうか。
考えてみれば、扉の開閉のためだけに人を雇っているのだから、すごく贅沢な話だ。
そのまま静かな個室どころか、ちょっとした離れの部屋に通されてしまい、俺はカチンコチンに緊張した。
注文することもなく次々と美味しそうな料理が運ばれてくる。
これはあれだな。入店拒否ありの高級店だな。一見さんお断り的な。
入ったことないけどさ。
「俺、作法、分からない。オーニョさん、どうしよう」
こんなお高そうなお店、マナーとか分からないよと、俺は涙目でオーニョさんに助けを求めた。
オーニョさんは、むしろ個室で誰に見られる心配もないのだから人目を気にする必要はないし、気になるのなら私と同じように食べなさいと笑っている。
それもそうかと肩の力を抜いた俺は、このお店の料理の美しさと美味しさを、目一杯に堪能した。
『朝方、あちこち痛む身体で起きた。
完全な二日酔いだ。
頭も痛けりゃ、あらぬ所も痛い。
隣に裸で眠るパォ殿を確認して、夢じゃなかった事に落胆しながらベットを抜け出そうとして。……パォ殿に捕まってしまった。
どこに行くのかと聞かれたので、仕事だと言葉少なに伝えると、山田さんの仕事は今日は休みだと返された。
当然のように仕事の休みも把握されているのだ。脱力する。
こんな事になって、それでもパォ殿の事を嫌いになれない自分に肩を落とした。』
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いつも日本語を教えてくれているお礼だからと、夕飯はオーニョさんのおごりに決まってしまって、俺も今度何かお礼をしたいなと考えているうちに、お店に着いた。
表に看板のない、見るからにお高そうなお店なんだけど。
苦学生で清貧が骨身に染みている俺には、敷居が高いよオーニョさん。
「ね? 前のお店、行く? このお店、高そう。おごり、悪いの」
「ああ、気にするな。この店に、ユーキと、来たかったんだ。一緒に来られて、私は嬉しい」
尻込みする俺に、オーニョさんはにっこり笑う。
「それに、個室のお店だから、ゆっくり、勉強もできる。ユーキは、あれを聞かれても、構わない?」
夕食のあと、そのままお店で山田さんのあの翻訳チェックをするのだろうか。
たしかに、いつも勉強会に使っていた場所は今日の片付けなどで使えないかもしれない。
――それに何よりも。
「人に、聞かれる、恥ずかしい……」
ぼそっとつぶやいた俺の背中にそっと手を添えて、オーニョさんは俺をお店へとエスコートしていった。
いったいどんな言葉が飛び出してくるか分からない以上、たとえ施設職員であっても、うっかり聞かれるのは恥ずかしい。
恥ずかしいんだから仕方ない!
俺は諦めて、高級料理店を受け入れることにした。
お店の入り口に立つと、静かに扉が開いた。
自動ドアかと思いきや、店員さんが扉を開けてくれていたようだ。
タイミングがぴったりということは、ずっと扉で待機していたのだろうか。
考えてみれば、扉の開閉のためだけに人を雇っているのだから、すごく贅沢な話だ。
そのまま静かな個室どころか、ちょっとした離れの部屋に通されてしまい、俺はカチンコチンに緊張した。
注文することもなく次々と美味しそうな料理が運ばれてくる。
これはあれだな。入店拒否ありの高級店だな。一見さんお断り的な。
入ったことないけどさ。
「俺、作法、分からない。オーニョさん、どうしよう」
こんなお高そうなお店、マナーとか分からないよと、俺は涙目でオーニョさんに助けを求めた。
オーニョさんは、むしろ個室で誰に見られる心配もないのだから人目を気にする必要はないし、気になるのなら私と同じように食べなさいと笑っている。
それもそうかと肩の力を抜いた俺は、このお店の料理の美しさと美味しさを、目一杯に堪能した。
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