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51.緑の絨毯
しおりを挟むピーリャを巻き終わると、ルルルフさんは靴を脱ぐように声をかけてくれた。
俺はすぐさま靴を脱ぎ、見事な緑の絨毯に、素足で一歩を踏みだした。
少ししっとりとした植物は、俺の体重でゆっくりと沈みこむ。驚いて足をどけると、さわさわと揺れてからぽんっともとに戻った。
重みで完全に潰れるわけではないらしい。
不思議な足裏の触感に、俺は足を乗せては戻す動作をくり返した。
はたと、微笑ましそうに見守られていることに気付き、俺は慌てて歩きはじめる。
二人がしきりにゆっくりで構わないもっと確認してはどうかと勧めてくるものだから、俺は自分の子供じみた行動にますます顔を赤くしながらも、何事もなかったかのように取り繕って歩き続けた。
ルルルフさんがいうには、今回の目的地は、この平地のまんなかに生える大木なのだそうだ。
たしかに緑の大地のまんなかに、にょきっと飛び出している木が一本あった。
というか一本しか生えていない。これなら道に迷うこともない。分かりやすくてありがたいなと、俺はずんずんと歩いた。
しかし、歩いても歩いても近付かない。気のせいでなければ、さっきからサイズが全然かわらないような……?
俺はそこで思い出した。砂漠で味わった距離感のバグを。
というか、あれからまだ一日しか経っていないという事実に、驚きを通りすぎて少し呆然としてしまう。
無意識のうちにうつむいていた俺の視界に、艶やかな緑の苔。
その緑のそこかしこで、目の錯覚かと思うほどのささやかな光が、蛍のように点滅しながらただよっているのに気付いた。
強すぎる日差しのせいかと目を擦る俺に、ルルルフさんが妖精族ですよと教えてくれた。
これが昨日オーニョさんが言っていた山頂に住む妖精さんかと、俄然俺のテンションが上がる。
しかし薄ぼんやり発光しているだけで、目ではその姿を確認できない。
悔しいが見えないものは想像力で補っておこう。
きっとかわいいフェアリーに違いないと、俺は空想を楽しみながら歩き続けた。
歩いて歩いて。立ち止まりそうになるたびに、妖精さんが誘導するように周りを飛んでくれて癒やされて、さらに歩いて。
前にはルルルフさんが、後ろには心配そうなオーニョさんが一緒に歩いていてくれた。
砂漠のときとは違う。一人ではない。
歩いているうちに、俺の心の中で、いろいろな思いが浮かんでは消えていった。
オーニョさんの嬉しそうな顔。
渡来人と第一発見者の関係について。
オーニョさんのご機嫌な尻尾。
使われなかったペアグラス。
オーニョさんの大きな手。
ルルルフさんの献身。
そして、温かくなるこの気持ち。
常識とか建前とか、余計なものをそぎ落としたあとに残ったごくシンプルな感情には、不思議なくらい嫌悪感はなかった。
嫌じゃない。
でも、俺のことを知ればきっと、オーニョさんだって、俺のこと嫌いになるんだ……。
この優しい人たちに嫌われることが、俺にはとても怖かった。
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