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45.オーニョさん、お仕事は?
しおりを挟むルルルフさんは、きっとオーニョさんと古くからの知りあいなんだろうなと思うくらいには、親しげな様子だったのに。
それなのに、初対面の俺なんかを本気で優先して守るために、こうやって強く抗議してくれているんだ。
そう思えば、知らない世界でたった一人という現実はかわらなくても、ルルルフさんは間違いなく俺の味方でいてくれるんだと信じられる気がした。
その心遣いが嬉しくて、心強くて、申し訳ない。
もういいからと止めたいのに、ヒートアップしていく二人に割って入れず、役立たずの俺は一人でオロオロしているだけだった。
「実際にはピーリャだって、ユーキには手渡さず、私が巻いたんだぞ。心配しなくても、常識的に考えて婚約に当たるはずがないだろう。こんなことでユーキに無理強いをするつもりなどない」
「言い訳したところで、下心が丸見えですよ」
「好意を向ける相手に下心を持つのは健全だろう!」
「ンッツオーニョ大佐がどう思おうが、何を訴えようが、ユーキが不快に思う全てから守るのが、僕の仕事ですからね!」
「私だってユーキを守っていきたいと」
「あなたたちと違って、ユーキさんたち渡来人は繊細なんですよ!」
「だからなんで私がユーキを傷付ける前提なんだ!」
「僕たちが守ろうといくらあがいても、端からぶっ壊してくのが第一発見者だからですよ! 悪気がない好意ならなんでも許される訳じゃない。あなたたちの好意が、渡来人を死に追い詰める場合だってあるんですよ? ユーキが死んでもいいんですか!?」
一瞬で空気が凍り、気まずい沈黙が横たわった。
『や、俺を、勝手に殺さないでよ』
俺は最高にいたたまれない気持ちになりながらも、何とか声を絞り出した。
ははは、とぎこちなく笑ってみせても、空気は変わらない。
俺の言葉が分からないオーニョさんは、耳を伏せ、上目づかいで俺を見ている。その姿は、まるで反省している犬みたいだった。
さらに、きゅんきゅん悲しそうに鼻を鳴らしはじめた。
くぅ、あざとかわいい。ずるい。
俺はルルルフさんの服を少し引っ張って、首を横に振ってみせた。俺は平和を好む日和見主義の日本人なんです。みんな仲良く、ね?
『いや、なんかもう、いいんで。それより、今日は王様に会いに行く予定だっていってたじゃないですか。時間は大丈夫なんですか?』
「……ユーキさんの前で声を荒らげて、すみませんでした。配慮が足らなかったです」
「私もだ。すまない」
『いや、もう、本当にいいですから。大丈夫、大丈夫』
落ちついた二人からの謝罪を受け入れて、なんとか場を丸くおさめた。
なんだかすごく重要な情報がいっぱいあった気がするけど、今は聞かなかったことにしておこう。
何度でもいうぞ。俺は事なかれ主義の日本人。
ああいう空気はとにかく苦手なんだよ。
切り替えの速いルルルフさんは、では気を取りなおしてと笑顔になると、俺の背中を押してオーニョさんの前まで連れて行った。
昨日のこともあってオーニョさんと会うときにもっと緊張するかもと思っていたのに、それどころじゃなくて、なんかもう全部吹っ飛んでしまった。
「では、行きましょうか。さぁ、背中に乗って」
『えっ』
「だって歩くにはちょっと遠いんですよ。地球でいうところの自動車だとでも思えばいいんです。そのために呼び出したようなものなので」
そのままぐいぐいと押されて、オーニョさんの背中に乗せられる。
こちらに来てからというもの、いつも心の準備時間がなくて混乱しているうちに流されている気がするぞ。
続いてルルルフさんもオーニョさんの背中に乗り、俺が落ちないようにか後ろからホールドするように固定してきた。もはや俺に逃げ場はない。
「お、重い、ない? オーニョさん、大丈夫? 降りる、する?」
俺はなんとか魔法の本を開いて、オーニョさんに話しかけた。
「大丈夫ですよ。ンッツオーニョ大佐の力はすごいんですから! ね? 大丈夫ですよねぇ?」
「ユーキは軽い。ルルルフは、……今回だけだぞ」
オーニョさんはため息混じりに話しているものの、尻尾はご機嫌にフリフリしているのが見えた。
危なげなく立ちあがり、ゆったりと走り出すオーニョさんの動作にも、問題はなさそうだ。
オーニョさんに問題がないなら、いいのかな?
「じつは一度乗ってみたかったんですよね! じゃあ市内観光もかねて、ゆっくり行きましょう!」
こうして、俺たちを乗せた赤い獣はご機嫌に尻尾を振りながら、軽い足取りで山頂に向けて走り出したのだった。
市内観光に使われるオーニョさん。
それでいいのオーニョさん。仕事は大丈夫なのオーニョさん!
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