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42.お粥
しおりを挟む――山田氏の手記より
『この地球人保護施設には、今、ドイツ人とリベリア人の地球人がいると聞いた。私が一番新入りだと、私の担当だとかいう金髪の少年が教えてくれた。にわかには信じがたいが、夢だとも思えぬ。
私一人がおめおめと生き残り、なぜこんな所に……。まだ悪夢は続くのか……。』
_________________
美味しそうな朝食がずらりと並ぶダイニングテーブル。
いろいろな地球人の嗜好にあうようにという配慮からか、朝食はバイキング形式だった。
どこかで見たことのあるような料理から、初めて見る料理まで、いろいろな料理がテーブルの上に所狭しと並んでいた。
そのどれもが美味しそうなのに、なにも手にとる気にならず、俺はテーブルの前でまごついていた。
昨日食べ過ぎてしまった反動かもしれない。
久しぶりの美味しい食事だったから、三日分くらい食べたような気がしてきたぞ。
そもそも朝ご飯なんてもう何年も食べてなかったもんなと、今さらながら思い至る。
だからといって、空の皿を持ったまま、いつまでもぼんやりと立っているわけにもいかない。
キッチン担当のンバンヴェさんが、そわそわとこちらを見ているのだ。き、気まずい。
『すみません。どれもとても美味しそうなのに……。いつも朝はあまり食べられなくて』
「食べたいものがありゃ、なんでも作るからな」
俺は愛想笑いを顔に貼りつけて、ありがとうございますと礼をいうと、仕方なく、適当に小さな丸いパンと牛乳らしき白い飲み物を手に席についた。
焼きたてのほんのり温かいパンを小さくちぎって、口に放りこむ。
咀嚼に顎が疲れてきても、なかなか飲みこむことができない。
パンを流し込むために口に含んだミルクは濃厚で、きっと美味しいんだろうなと申し訳なく思った。
小さくなってしまった胃袋が、異世界にきたからといって急に大きくなるわけでもないのに、昨日は浮かれて無理をしすぎてしまったのかもしれないな。
朝から用意してくれたンバンヴェさんにも食べ物にも申し訳ないと、なかば使命感で咀嚼をしていた俺に、ルルルフさんが心配そうに声をかけてきた。
「食欲がないみたいですね。無理しないでくださいね」
『いつも朝はあまり食べていなかったので』
「三食食べるのは健康への第一歩ですよ。無理せず少しずつ改善していきましょう。よかったらこれを」
そういって差しだされたのは、優しい湯気をたてるシンプルなお粥だった。
「サフィフ伯父さんの山田さん記録にレシピがあって、念のためにンバンヴェさんに再現してもらっていたんです。こちらに来て、知らない食べ物ばかりで、ユーキさんの調子が悪かったときのために、と」
『……ありがとうございます』
気遣ってくれる気持ちが嬉しくて、俺はお粥のお皿をありがたく受け取った。
木のスプーンで一匙すくって、口に運ぶ。
一口食べると、懐かしい味が口に広がった。
お粥なんて、小さなころ、母が作ってくれたきり食べたことなかったな。
熱を出した俺に、母が心配そうに差しだすお粥。
食べると母が嬉しそうに笑うから、頑張って食べたっけ。
それも小さなころだけで、俺が風邪を引くと、母がひどく申し訳なさそうに背中を丸めて職場に電話をしているのに気付いてからは、平気なフリをするようになった。
俺が風邪を引くと仕事に行けなくて困るのだと、分かってしまったから。
これ以上、母の迷惑にはなりたくなかったから。
子供ながらに、母が必死に頑張ってくれているのは知っていたから。
……お母さん。
俺、結局、お母さんに迷惑も心配もかけたまま、ここにいるのは、なんでだろう。
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