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32.上腕二頭筋
しおりを挟む「あ、あの建物! ね、あってる?」
俺は建物を指さして、得意げな顔でオーニョさんに話しかけた。
「ああ」
「ここ、道、難しい。赤い、見た目、似てる」
「しばらくは、一人で外出を、しないでほしい」
「あはは。俺、迷子、なる?」
「頼む」
「オーニョさん、心配、いっぱい? 俺、大丈夫」
「頼むから」
俺は心配性なオーニョさんにむかって困ったように笑いかけながら、心のどこかで嬉しく感じていた。
オーニョさんのまっすぐな好意は、くすぐったいような安心感を与えてくれる。
地球人保護施設にたどり着き、扉をノックしようとして、思いとどまった。
首をかしげたオーニョさんが、俺を見下ろしている。
この身長差が少し悔しい。でも成長期はもう終わってるんだよな、俺。
「もう、夜。ルルルフさん、休む、してる。俺、鍵、持ってる!」
左足を持ち上げてアンクレットを見せびらかせば、微笑ましそうに笑われてしまった。
俺は少し子供っぽかったかなと反省しながら、ドアを開ける。
……俺、大人だからな。
あれかな、そもそも、もっと成人男性らしさをアピールしないといけないのかな。
全体的に子供あつかいをされている気がする。
「荷物、ありがと。あとは、大丈夫。俺、運ぶ」
俺は腕を曲げながら、さり気なく力こぶを作ってみせた。
どうだ俺、成人男性。まったくの文系だけどな!
「いや、危ない。私が部屋まで運ぼう」
「いやいやいや、俺、男! 大丈夫!」
持てる、危ない、と少し押し問答をしたあげく、試しに荷物を持たせてもらったのだが、残念なことに三階まで運ぶのは無理だとすぐに発覚してしまった。
びくともしないってなんで? この絵筆より重いものを持ったことない細腕め!
片手で軽々と荷物を持って階段を上るオーニョさん。
その上腕二頭筋が羨ましい。
俺は唇をとがらせながら、オーニョさんに手をひかれて歩く。
荷物はオーニョさんによって、部屋の中まで無事運びこまれた。
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