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31.揺れる尻尾
しおりを挟むオーニョさんがしっかりとチェックしてくれたので、買い忘れはなさそうだとなったころには、荷物がいっぱいになっていた。
オーニョさんは、紐で器用に荷物をくるくるとまとめると、ひょいと片手で持ってしまった。
その筋肉が飾りじゃないのは知っていたけど、さすがです。
「えっと、俺も、半分持つ、する。それ、俺の、悪い」
「では、持ってくれるか?」
オーニョさんはそういいながら、荷物を持っていないほうの手を、俺に差しだした。
まじまじと見つめても、手のひらには何も乗っていない。
「手?」
「ああ。ユーキに、手を、持ってほしい」
「それ、持つ、違う。……つなぐ?」
「そうともいう。さぁ」
俺とオーニョさんの真ん中に、オーニョさんの大きな手のひら。
さっきまで手をつないで歩いていても平気だったのに、自分から手を伸ばすのはなんだか恥ずかしい。
「外はもう暗い。さすがに夜は危ない。ユーキが心配だから、手をつなぎたい。……それか、背中に乗るか?」
さぁさぁと促されて、仕方なく、本当に仕方なくだぞと、おずおずと手を重ねる。
オーニョさんは優しく手を握って、来た道を戻りはじめた。
我ながら流されている気がする。
流されたけれど、今も流されまくっているけれど、そもそも異世界にも海から流されてきたけれども。
心臓がどきどきと脈打っている。
きっとまた赤くなっているに違いない。俺は赤面した顔を見られたくなくて、うつむいて歩いた。
視界の端で、オーニョさんの赤い尻尾がご機嫌に揺れている。
かわいい。
尻尾のかわいさに思わず力が入って、オーニョさんの手をきゅっと握ってしまった。
とたんに尻尾がぶんぶんと大きく左右に揺れはじめる。
そのあまりの勢いに、尻尾がバサバサと俺の足にあたるのだった。
「ふふ、あはは、オーニョさん、尻尾、ちょっと痛い」
「すまない。いつもはもっと制御できるのだか、今は無理なようだ」
無理って……。
それはつまり、尻尾がとめられないくらい、俺と手をつなぐのが、えっと、嬉しいの、かな?
……オーニョさんがいったいどんな顔をしているのか気になって仕方ない。
我慢ができなくて、俺はちょっとだけ盗み見をしようと顔を上げた。
とたんに、ばちりと音がしそうなくらいしっかりと、オーニョさんと目があう。
俺は反射的にばっと横を向いてしまった。
自分のあまりに不自然な行動に、盗み見しようとしたのがバレたと、心の中で頭を抱えた。
でも、ちょっと待てよ。もしかしてオーニョさん、ずっと俺を見てた?
いやいや自意識過剰? 落ち着け、俺。
ぐるぐるする俺をなだめるように、オーニョさんはつないだ手にふんわりと力をこめた。
「ユーキ、かわいい」
「かわいくは、ない!」
勢いよくそういったあと、なんだか覚えのあるやりとりだなと、俺とオーニョさんは顔を見合わせた。
それから笑いあった。
オーニョさんと肩が触れあう。
この近い距離が、温かい手が、こんなふざけたやり取りが、楽しい。
それと同時に、少しだけ胸が痛んだ。
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