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24.ピーリャを購入
しおりを挟む俺が着替え終わったころに、タイミングよくオーニョさんから声がかかった。
「ユーキ、大丈夫だろうか。手伝いは、必要か?」
「……ごめん。靴? 難しい」
革製のクロッグサンダルに紐がセットされているような形の靴を握りしめながら、俺はおずおずと衝立から顔を出した。
「服、着た。変? 大丈夫? かな」
「変なものか。ああ、よく似合っている。靴はこうする。見ていて」
オーニョさんはすっと跪くと、俺に靴を履かせていく。
紐を足首と靴に交互に巻きつけて固定すると、残りはスルスルと足首に巻いて、結ばずにくるぶしあたりに挟みこんだ。
「あ、ありがと」
小声でお礼をいいながら、ジワリと顔に熱が集まるのを感じた。
跪くのは止めてほしい。
なんだか心臓に悪い。
いや、お願いしたのは俺なんだけど。
もじもじする俺に、おずおずとオーニョさんが口を開く。
「もしよければ、ユーキに似合う、ピーリャを、私に、選ばせてもらいたいのだが……駄目、だろうか」
「この服、気に入った。好き。ピーリャも、助かる。よろしく、お願い、する? します?」
俺の許可をえたオーニョさんは上機嫌に目を細めながら、数種類の薄手の布を俺の顔周りに当てては下げ、じっくりと選んでいく。
たしかにピーリャは大切な布だといっていたが、あまりに真剣な様子に俺は口を挟めない。
オーニョさんはしばらく悩んだすえに、ようやく納得の一枚が決まったらしい。
それは、光の角度によって青くも黒くも見える不思議な光沢の布だった。
オーニョさんは巻いてあるピーリャの上から、選んだ布を被せていく。
小さな赤い石のブローチだけは外して、新しいピーリャの上から留めなおした。
オーニョさんは嬉しくてたまらないというように、満足そうに頷いた。
「どうだろうか。気に入らなければ、その、自分で選ぶことも……」
「ありがと。好き。これ、買う。えっと、お金、教えて?」
「いや、支払いは私が」
「オーニョさん?」
「こちらに来たユーキに、せめてものプレゼントを」
「オーニョさん!」
そうでなくても迷惑をかけている自覚があるのに、そこまでしてもらう理由がない。
俺が少し強めに声をかけただけで、オーニョさんは大きな体で弱りきる。
「いやでも、これは、私からユーキにあげたい。駄目、だろうか。……そうだな、急に、分からないよな。
困らせたいわけでは、なかったんだ。つい浮かれてしまった。戸惑わせて、すまない」
みるみるしぼんでいくオーニョさん。
尻尾も通常の半分くらいの細さになって、しょぼんとなった。
その反応はずるいと思う。
「じゃ、じゃあ、この服、……だけ。着替え、ほかは、俺のお金! ね?」
「……っ! ありがとう!」
喜びで顔を輝かせながら店主のもとへ向かうオーニョさんを、俺はため息混じりに追いかけた。
よく考えたらどっちが払っても、俺のお金じゃないんだよなぁ。
通貨のアレコレを教えてもらいながら、本にメモを取りつつ、お会計をすませる。
オーニョさんと店主に厳選された残りの服は、このまま施設に配達をしてもらえるらしい。
明日の着替えもこれで解決だ。
店主にお礼をいって店を出るちょうどそのとき、入り口から小さなハリネズミが転がりこんできた。
「おとーさん! あのね。今ね、おかーさんったらね」
「こら! お客さまの前だよ。お店で騒ぐんじゃない」
大小のハリネズミがもきゅもきゅとしている。
かわいい。針で刺されてもいいから混ざりたい。かわいい!
「店主の、子供? お父さん?」
「ああ。ヒアリングが、上達したな、ユーキ。あ、今入ってきたあちらが、母親だ」
「え?」
「お騒がせしてお恥ずかしい。家内のタネィと娘のコロゥニャです。ほら、ご挨拶は?」
「こんにちは!」
「主人がいつもお世話になっております」
「え?」
紹介された母親は、筋肉がはち切れんばかりの狐さんでした。
オーニョさんに負けず劣らずの高身長なんですが。
明らかに低音ボイスなんですが。
明らかにオスオスしい雄なんですが。
え? なんでもありですか?
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