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6.オーニョ

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「グルグルグルグルゴロゴロゴロゴロ」


 ご機嫌な猫のような音が聞こえてくるのは、ふさふさの赤い毛並みが美しい獣からでした。
 いや、重低音だけれどね? 

 サイズ的にも、猫みたいなかわいい感じじゃないけどね?



 赤い毛並みの生き物は、グルグル音の合間にしきりに話しかけてくれている。

 いわゆる動物の鳴き声ではない。

 間違いなく、何かしらの言語を発しているのだ。



 何をいっているのか分からないなりに、会話が成り立つくらいには高い知能があることは確認済みだった。

 じつはすでにお互い身振り手振りで、名前を名乗りあった仲なのだ。


 名前は、ンッツオーニョ。……たぶん。


 全体はもう少し長い名前のようなんだけど、発音が難しすぎて分からない。

 お手上げだ。

 あまり上手く呼べていない自覚はあったので、オーニョと呼ばせてもらっている。


 まるでアニメや映画の中に入ってしまったような不思議さに戸惑いは消えないが、オーニョの口元は間違いなく発話の形をしているし、声も間違いなくその口元から出ているのだ。

 でもやっぱり不思議で、じっと口元を見てしまう。
 すると、オーニョは恥ずかしそうな仕草をするのだった。

 それがまた人間くさくて。


 見すぎてすみませんという気持ちをこめて、俺は小さく頭を下げた。




 巨大鳥の襲撃もろもろの恐怖がさって、落ちついて、どうやら自分を食べる気がなさそうだと気付くまで、それはもう気長に待ってくれた紳士なオーニョ。


 大きさは、ライオンより少し大きいだろうか。

 その毛並みはライオンというよりも、長毛種の猫に似ていた。
 なんていうんだっけ。
 そうそう、メインクーンだ。

 サイズ感を無視すれば、猫のメインクーンに似ているのだ。


 凛々りりしいお顔は美しく、ふさふさとした首回りの毛並みがさらに高貴さを醸しだしている猫。

 巨大だけれど。

 オーニョの目は、丸くて綺麗なガラス玉みたいな金色をしていて、これまた猫みたいな縦長の瞳孔だった。

 毛色は、目のフチに黒いくま取りが入っているだけで、ほかは混じり気のない赤色だ。



 ちなみにオーニョはオスだと推測している。

 だって言葉の内容は分からなくても、低くていい声なのは間違いないのだ。

 俺に話しかけるあの痺れるような重みのある声は、なんというか、腰にくる。




「***、ユーキ****?」

 どこからか荷物を咥えて戻ってきたオーニョは、そのいい声で何か喋りながら、俺に背を向けて伏せの姿勢になった。

 ちらちらと振り返り俺を見ては、背中をアピールしている。


 もしかして背中に乗れと? 
 つやつやでふっかふかなその毛並みに? 

 俺はだらしなくゆるみそうな口元を手で隠した。

 出会ったばかりの俺を親切心で背中に乗せてくれるのに、にやにやされたらさすがに不審者だよな。
 危ない危ない。


 俺はなるべく真面目に見えるように失礼しますと声をかけてから、おそるおそる背中によじ登り、またがった。



「重くないですか? 乗り方大丈夫ですかね? 痛いとかないですか?」

 俺を乗せたままゆっくり体を起こしたオーニョは、曖昧に首をかしげている。

 伝わらないけれど、伝わらないなりに目をあわせて、お互いに頷きあった。




 さぁ、目指せ水! 

 オーニョの行く先は、たぶん水のあるところ! よろしくお願いします!




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