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4.怪鳥
しおりを挟む「嘘だろぉ」
俺の声が、赤い砂漠に虚しく響く。
認めたくはないけど、目指して歩いていたあれは、小山なんかじゃなかったらしい。
日本人に馴染みのない広大な砂漠に盛り上がった小山のシルエットが、遠近感を狂わせていたのだろう。
想像より大きな山だとすると、はたして歩いていける距離なのだろうか。
歩いても歩いても近付けない山に、俺はぞっとした。
最初はまばらに自生している植物に、興味津々だった。
あちこちを観察しながら、俺はのんきに歩いていたのだ。
見たことのないサボテンのような肉厚な葉の多肉植物。菊に似た巨大な花を咲かせるヤシの木に似た低木。
どの植物も腰の高さまでくらいしかない。
そして枯れた色の雑草。
俺は教授のアトリエで見たエアプランツという植物を思い出し、慌てて頭を振った。
そんなことをしても記憶をふるい落とせるわけもなく、ただ乾いた砂が落ちた。
気を取り直して、切り立った岩に近付いて観察をする。
まるでバターナイフで切り取ったような柔らかな曲線を描く岩石や、犬歯のようにとがった岩。
ミルフィーユのように細かな赤の地層が重なった断面。
手で触ってもびくともしないくらい硬いのに、風で赤い砂をこぼしていた。
そしてそのどれもが、見上げるほど大きかった。
砂漠からにょきっと生えた岩石は、どこかモアイ像を彷彿とさせた。
何もないところから異質なものが生えでている不思議さが、似ているのかもしれない。モアイ像だって、実物を見たことはなかった。
初めて見るものが、こんなにも楽しい。
俺はこんな状況にもかかわらず、自分がわくわくしていると気付いた。
こんな気持ちにまだなれるのならば、海に飛びこむ前に、もっとあちこち行ってみるべきだったのかもしれない。
日本に戻れたら、それこそモアイ像だって見にいけるのだ。
前向きに考えよう。
何がどうなっているのかは分からないが、今こうして生きているのは、きっと幸運なのだから。
しかし、そうやってお気楽に歩いていられたのも、体感で三時間が限界だった。
「やばい。死ぬ。干からびて死ぬ。喉が、乾いた……」
どうやら歩きはじめたのは、あれでも朝方だったらしい。
ぎらぎら照りつける太陽が影を短くしていくにつれ、暑さが増していく。
乾燥した風が吹いているのが、せめてもの救いだ。日本みたいに湿気があって無風なら、もうとっくに倒れていただろう。
服の水分は乾ききり、流す汗も滲んだそばから蒸発して塩になっていく。
海水も塩になって、あちこち塩だらけだ。
こまめにカットに行くのが面倒だという理由で伸びた、中途半端な長さの俺の髪。
唯一まっすぐで指通りのよさだけが長所だった黒髪も、今では塩でバシバシだった。
とにかく風呂に入りたい。
それでも長袖を着ていたのは不幸中の幸いだった。
半袖なら、この強い日差しで火傷をしていたかもしれない。
俺は少しでも日陰を作ろうと上着を広げて、頭からかぶった。
足もとは赤い砂。
小さくなった自分の影。
俺はため息混じりに視線を上げた。
まだまだ大きさの変わらない山を見たとき、上空を飛ぶ生き物に気付いた。
「あ、鳥かな」
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