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4.ファーストキス
しおりを挟むクロの体をまたぐようにして、そのまま向きあう状態で座らされる。
クロの整った顔があまりに近くてそわそわする江原に、クロは少しずつ顔を寄せていった。
江原は、右を見て、左を見て、下を見て、上を見て、たっぷり迷ってから、クロを見た。
クロは、こつんとおでことおでこを合わせて、驚かせないようにとでもいうかのように小さな声でささやく。
「キス、しても、……いい?」
低く響くクロの声。
至近距離から見るクロの目の色はどこまでも黒色で、人間の瞳孔にあたる中心部分には星空のように小さな光が瞬いていた。
(ああ、本当に、人間じゃないんだ)
「怖い? ……俺が、人間じゃないから」
(ううん。きれい……)
クロの瞳に映る江原は、今まで見たことのないよう顔で惚けている。
江原は、そのままうっとりと目をつぶった。
触れあうだけの初めてのキスは短く、音もなかった。
ぬくもりを感じる程度にそっと重なって、離れ、また重なる。
ふんわり抱きしめるだけだった腕に引きよせられ、少しずつ唇の重なる時間が長くなっていく。
呼吸のタイミングが分からずクロの肩に手を置けば、息を吸いこむために開いた唇からぬるっと舌が侵入してきた。
「……っ、ぁ」
「ふふ。かわいい。鼻から息をしてみて?」
「んっ、はぁ、はぁ、……はな?」
「そう。鼻から息をすれば、もっとキスができるよ」
「もっと?」
「そう、もっと。ね? いい子いい子。口を開けて、舌を出してみせて?」
クロの甘やかすような優しい声に誘導されて、江原は求められるままに舌を差しだす。
クロの長い舌と、戸惑う江原の舌が、ぬるると擦りあわされる。そのまま舌をちゅっと吸われ、かわりとばかりに侵入してきたクロの舌に口内をすみずみまで探られ、江原の腰ははしたなくふるりと震えるばかりだった。
優しく江原のうなじを撫でていたクロの手が、背骨の一本一本を確かめるようになぞりながら下がっていく。
クロの指が、尻のあわいをくすぐりながら目的の場所でいたずらを始めた。
しかし穴のシワを確かめるように撫でるだけで、一向に入ってこない。
それなのに、撫でられただけで江原の体は先ほどまで与えられていた快楽を思い出してしまうのだ。
江原は自分の穴が物欲しそうにきゅうきゅうと動くのを自覚して、たまらずに赤面をした。
クロのキスについていくのがやっとなのに、周辺をなぞられる感覚に、お尻が揺れてしまう。
「あの、……もう、し、してくれないん、です、か?」
キスの合間に我慢ができずに口を開いた江原の声は、どんどん小さくなっていく。
なんて破廉恥なことをと我に返って、首まで真っ赤だ。
江原は羞恥に顔を上げられず、そのままクロの肩に頭を埋めるようにうな垂れてしまった。
「はぁ。なにこれ最高。するする! 今すぐするから、そのまま力を抜いててね」
クロは江原の両手を首に回すように誘導した。
ぐいっと抱きよせられれば、全身がクロにもたれかかるような体勢になる。
最初は落ちつかなさげだった江原も、ちゅっちゅとあちこちにキスをされれば、くすぐったさに力が抜けていった。
それを見計らったかのように、ゆっくりと指が入ってくる。
「息は止めないでね。絶対に痛くしないから俺にまかせて。安心してリラックスしていてね」
耳元で聞こえるクロの声に、江原はほうっと息を吐く。
死神相手におかしな話かもしれないが、とても安心する声だった。
「そうそう上手」
クロは江原が返事をしなくても、うまくリアクションを返せなくても、変わらず穏やかに話し続けてくれる。
江原にはそれが嬉しかった。
(死神さんは心が読めるからかな。……死神さんが心を読めて、よかったな)
「ふふ。普通は嫌がるものなんだけど。誰も心を読まれたくなんてないからね。俺も、おじさんが相手でよかったなぁ」
(そう、なの? でも、私は顔が怖くて、話すのも下手だから……)
「かわいいよ。おじさんはかわいい」
言われ慣れていない甘い言葉に、江原はますます顔をうずめた。
かわいいところなど皆無だ。あるはずもない。しかし、あやすように中の弱いところを擦られて、江原には反論さえできないのだ。
「あっ!」
いつの間にか二本に増やされていた指が、ゆっくりと穴を広げるように動いて、江原は思わず小さな声を上げてしまった。
クロは空いている手でこわばった江原の背中を撫でながら、江原の顔を覗きこむ。
「どうした?」
「あの、その、……な、中に、お湯が」
「うん? 気になる? あー、これね、入れてるの」
「……は?」
「いや、男同士だと準備が必要だからね、このあと、シャワーで中をきれいにするつもりなんだけど」
「な、なかを?」
「そう。シャワーヘッドを取ってね、こう、何回か中にお湯を入れて、出して、きれいにするの。まぁそれか、トイレのウオッシュレットを使って……」
「トイレで! トイレでお願いします!」
クロが最後まで言い終わらないうちに全力で主張した江原の意思は、なんとか尊重されたのだった。
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