4 / 6
4.ファーストキス
しおりを挟むクロの体をまたぐようにして、そのまま向きあう状態で座らされる。
クロの整った顔があまりに近くてそわそわする江原に、クロは少しずつ顔を寄せていった。
江原は、右を見て、左を見て、下を見て、上を見て、たっぷり迷ってから、クロを見た。
クロは、こつんとおでことおでこを合わせて、驚かせないようにとでもいうかのように小さな声でささやく。
「キス、しても、……いい?」
低く響くクロの声。
至近距離から見るクロの目の色はどこまでも黒色で、人間の瞳孔にあたる中心部分には星空のように小さな光が瞬いていた。
(ああ、本当に、人間じゃないんだ)
「怖い? ……俺が、人間じゃないから」
(ううん。きれい……)
クロの瞳に映る江原は、今まで見たことのないよう顔で惚けている。
江原は、そのままうっとりと目をつぶった。
触れあうだけの初めてのキスは短く、音もなかった。
ぬくもりを感じる程度にそっと重なって、離れ、また重なる。
ふんわり抱きしめるだけだった腕に引きよせられ、少しずつ唇の重なる時間が長くなっていく。
呼吸のタイミングが分からずクロの肩に手を置けば、息を吸いこむために開いた唇からぬるっと舌が侵入してきた。
「……っ、ぁ」
「ふふ。かわいい。鼻から息をしてみて?」
「んっ、はぁ、はぁ、……はな?」
「そう。鼻から息をすれば、もっとキスができるよ」
「もっと?」
「そう、もっと。ね? いい子いい子。口を開けて、舌を出してみせて?」
クロの甘やかすような優しい声に誘導されて、江原は求められるままに舌を差しだす。
クロの長い舌と、戸惑う江原の舌が、ぬるると擦りあわされる。そのまま舌をちゅっと吸われ、かわりとばかりに侵入してきたクロの舌に口内をすみずみまで探られ、江原の腰ははしたなくふるりと震えるばかりだった。
優しく江原のうなじを撫でていたクロの手が、背骨の一本一本を確かめるようになぞりながら下がっていく。
クロの指が、尻のあわいをくすぐりながら目的の場所でいたずらを始めた。
しかし穴のシワを確かめるように撫でるだけで、一向に入ってこない。
それなのに、撫でられただけで江原の体は先ほどまで与えられていた快楽を思い出してしまうのだ。
江原は自分の穴が物欲しそうにきゅうきゅうと動くのを自覚して、たまらずに赤面をした。
クロのキスについていくのがやっとなのに、周辺をなぞられる感覚に、お尻が揺れてしまう。
「あの、……もう、し、してくれないん、です、か?」
キスの合間に我慢ができずに口を開いた江原の声は、どんどん小さくなっていく。
なんて破廉恥なことをと我に返って、首まで真っ赤だ。
江原は羞恥に顔を上げられず、そのままクロの肩に頭を埋めるようにうな垂れてしまった。
「はぁ。なにこれ最高。するする! 今すぐするから、そのまま力を抜いててね」
クロは江原の両手を首に回すように誘導した。
ぐいっと抱きよせられれば、全身がクロにもたれかかるような体勢になる。
最初は落ちつかなさげだった江原も、ちゅっちゅとあちこちにキスをされれば、くすぐったさに力が抜けていった。
それを見計らったかのように、ゆっくりと指が入ってくる。
「息は止めないでね。絶対に痛くしないから俺にまかせて。安心してリラックスしていてね」
耳元で聞こえるクロの声に、江原はほうっと息を吐く。
死神相手におかしな話かもしれないが、とても安心する声だった。
「そうそう上手」
クロは江原が返事をしなくても、うまくリアクションを返せなくても、変わらず穏やかに話し続けてくれる。
江原にはそれが嬉しかった。
(死神さんは心が読めるからかな。……死神さんが心を読めて、よかったな)
「ふふ。普通は嫌がるものなんだけど。誰も心を読まれたくなんてないからね。俺も、おじさんが相手でよかったなぁ」
(そう、なの? でも、私は顔が怖くて、話すのも下手だから……)
「かわいいよ。おじさんはかわいい」
言われ慣れていない甘い言葉に、江原はますます顔をうずめた。
かわいいところなど皆無だ。あるはずもない。しかし、あやすように中の弱いところを擦られて、江原には反論さえできないのだ。
「あっ!」
いつの間にか二本に増やされていた指が、ゆっくりと穴を広げるように動いて、江原は思わず小さな声を上げてしまった。
クロは空いている手でこわばった江原の背中を撫でながら、江原の顔を覗きこむ。
「どうした?」
「あの、その、……な、中に、お湯が」
「うん? 気になる? あー、これね、入れてるの」
「……は?」
「いや、男同士だと準備が必要だからね、このあと、シャワーで中をきれいにするつもりなんだけど」
「な、なかを?」
「そう。シャワーヘッドを取ってね、こう、何回か中にお湯を入れて、出して、きれいにするの。まぁそれか、トイレのウオッシュレットを使って……」
「トイレで! トイレでお願いします!」
クロが最後まで言い終わらないうちに全力で主張した江原の意思は、なんとか尊重されたのだった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる