思念体になった俺が、王子様のセックスで目覚める話

3.出会い

『え。マジ可愛いレイヤーさんですね。僕、あのゲームのリリィちゃんが大好きで。良かったらお友達になってください』





　通知マークに、赤丸の数字で一件。



　あれから二ヶ月が経っていた。知り合いのレイヤーさんやフォロワーさんからの連絡だって、入らなくなって久しい。

　通知を開けば、フォローリクエストと、ホーム画面に固定してあったモーメントにリプが付いていた。
　モーメントは、こんなことになると思ってもいなかった以前の俺が、イベント用にとリリィちゃんコスプレ写真をまとめたものだった。



　どうせまた見えやしないいんだろうと思いながらも、返信をし、フォロバをする。もはや習慣だ。

　寂しさは、反応のない悲しさに勝つのだ。



『フォローをありがとうございます！』
『まさかのフォロバと返信をありがとうございます！　リリィちゃん＠SNさんは次の秋のイベントには参加されないんですか？』

　ついに幻覚が見えるようになったのだろうか。どんな理由でも、勘違いでも良い。俺は喜び勇んですぐさま返信を返した。一時でもこの寂しさを誤魔化せるのなら何でも良い。

『もしかしてこのツイートが見えているんですか？　そうだと嬉しいです！』
『え？　普通に見えますけど？　もしかしてシャドーバンでもされたんですか？』



　おいおいおいおい。本当に返事が来た。内容もかみ合っている。他人のリプに俺が一人で勘違いしている訳でもなさそうだ。
　俺は震える思念体の体で、返信を入力する。実際には体はないが、これはもう概念の話だ。
　こういう反応があったときのシミュレーションなら、想像の中で百億回はしている。暇だったからな。ぬかりないはずだ。



『本当に困っていて……。今、どんな画面になっているのかスクショしてもらえませんか？　お願いします！』
『良いですよ。凍結って大変なんですねー』
『ありがとうございます！』

　しばらく待って、待ちきれず、TLの最新ツイートを何度も何度も更新して、返事が来ていないかを確認した。





『お待たせしました。ちゃんと通知も来ていますよ』



　表示されたTLのスクショ画像には、俺のアイコンと零FFさんのアイコンがスレッドに並んでいる。すごい。普通のことが普通に表示されているだけなのに、すごく嬉しい。
　俺がつかの間の喜びを噛みしめていると、横からリプが入った。



『君一人で何やってんの？　不謹慎だし、そういう悪ふざけ面白くないよ』

　俺にではなく、零FFさんへの個別リプだった。

　これはアレだ。つまりアレだ。俺のツイートが完全に見えるようになったわけではなく、何故か零FFさんにだけ見えているヤツだ。
　だとすると、零FFさんが、周りからおかしな人に思われても仕方がない。

　その事実に、ザッと血の気が引く。
　誰だか知らないが、善意だろうが何だろうが、本当に今はやめてくれ。
　呪詛の言葉を吐きながら、祈る気持ちで零FFさんに返信をする。光の速さだ。

『零FFさん、事情を説明させてください！』
『今から零FFさんにDMしても良いですか？　お願いですから、ブロックせずに、DMだけでも読んでください！』
『お願いします！』

『？　ええ。はい。大丈夫ですよ？』



　俺の怒濤のリプに引いたかもしれないが、零FFさんは了承してくれた。零FFさんは神だ。地獄に下ろされた蜘蛛の糸だ。一筋の希望の光だ。

　何度も何度も事情を説明する妄想を繰り返してきた俺は、読むのが苦痛にならない長さで、簡潔にそしてしっかりと経緯を説明する文章を組み立てた。

　送信マークをタップする前に、慎重にもう一度読み直す。
　意味は間違いなく通じるか。馴れ馴れしくはないか。ふざけた感じはないか。重すぎないか。

　藁にもすがる気持ちで祈りながら、送信をした。







　その日、零FFさんからの返信はなった。


　ふざけていると思われたんだろうか。気持ち悪がられたんだろうか。もう話しかけてもらえないんだろうか。
　追いすがりたい気持ちは死ぬほどあったが、下手な対応を重ねてブロックでもされたら立ち直れない。ブロ解をされていないか数分おきに確認しては、泣きたくなるくらい安心をした。
　また話しかけてもらえるかもしれないという一縷の望みだけでも、手放したくはない。



　深夜から早朝に変わるころは、TLのツイートが一番減る時間帯だ。もう少しすれば、早朝活動組がつぶやき出す。
　特に睡眠を必要としない俺は、ずっとSNSにかじり付いていた。

　零FFさんのホーム画面から過去のツイートをさかのぼり、ツイートと返信、リンク先もすみずみまで見た。
　我ながら気持ちが悪いと思う。
　足跡機能のないSNSで本当に良かった。









　そこからたっぷり五日間、零FFさんからの反応はなかった。