悪役令息の異世界転移 〜ドラゴンに溺愛された僕のほのぼのスローライフ〜

匠野ワカ

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7. どこでも扉〜!

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 竜士は不思議に思っていた。 

 ゲームの悪役令息が、いつもタイミング良く(リューイからすると最悪のタイミングで)聖女の前に現れることを。



 ストーリー強制力は、何が何でもリューイを悪役に仕立て上げたいらしい。

 授業があるとき以外は、昼食時でさえ寮の自室で過ごすようになってしまったリューイ。
 そんなリューイをゲームと同じ場面に引きずり出すために、手段を選ばなくなったようだ。


 ついにストーリー強制力は、リューイが扉を開けたら勝手に場面転換をするまでに進化を遂げてしまったのだった。

 まるで某アニメのどこでも扉。ただし、悪意のかたまり。





 リューイは諦めきれずに、さっきまで確かにクローゼットの扉だったはずのドアを探した。

 ちょっと肌寒いから上着を取ろうとしただけなんだよ。
 こんなことなら自分でやらずに貴族らしく侍女に頼めばよかった!
 世のことわりと自分のお部屋よ、早く帰ってきて……っ!




 だって目の前はひらけた中庭の庭園。隠れる場所もない。

 なのに、第一王子アデルと聖女ルルンが手を繋ぎ、見つめ合っている場面なのだ。

 リューイは慌てた。しかしクローゼットの扉はどこにも見当たらない。
 リューイを目的の場所に放り出すと、跡形もなく消えてしまったのだ。


 意地が悪いぞ! 某アニメの某どこでも扉だって、帰れるんだ! 
 勝手に連れてきたんなら、せめて元に戻るところまで責任を持て! 
 竜士が頭の中で叫んでいる。
 リューイだって完全同意だった。お部屋に帰りたい。




「またお前か! ルルになんの恨みがあるんだ!」

 王子の憎々しげな声。
 第一王子アデルは、聖女を背中に守るように一歩前に出た。

 背後には、学園の制服に身を包んでいても隠しきれないオーラを放つ、可憐な美少女。
 男装の聖女ルルンは、ルルという偽名で男子学生として学園生活を過ごしていた。
 

 どこでも扉に放り出されたリューイは、隠れる場所のない庭園の真ん中で、途方に暮れるしかない。


「いや、僕は何も恨みなど」
「きゃあ!」


 口を開いたリューイに被せるように、聖女が小さな悲鳴を上げた。

 その可愛い声といったら。本当に男子学生に扮する気があるのだろうか。
 竜士がゲームをしていたときは気にならなかったらしいけれども、リアルでは違和感がすごい。無理があるという感想しか出てこない。

 しかし言いたいことのあれやこれやを呑み込んで、リューイは両手を挙げ静止した。
 もはや条件反射だ。僕は何もしてませんよのせめてもの意思表示だった。


「ルル、どうした!? 大丈夫か?」
「アデルさまの肩に虫が! 動いてはダメ! その虫は毒を持っているんです!」


 聖女はそういいながら、第一王子アデルの肩に止まっていた原色カラーのゲジゲジした虫を、そっと指先に乗せた。

 虫に向かって、人に悪さをしてはダメよと声をかけながら草陰に逃がすその姿。まるで某姫姉さまだと、竜士が頭で騒いでいる。
 巨大なダンゴムシ生物も野生のリスもどきも、きっと聖女さまになら懐くんだろう。



「ルル! 毒は大丈夫なのか?」
「はい。私のことはお気になさらず。それよりも、アデル様がご無事で何よりでございます」


 ほっとしたように口元をほころばせるその笑顔の可愛さたるや。
 そりゃみんな聖女を好きになるよね。この子なら、きっといい王妃になるんだろうなぁ。僕が処刑された後で。


「ブルーイットめ、もしルルに万が一のことがあったら、ただでは済まさぬぞ!」
「まぁ、アデル様。虫さんもブルーイット様も、ただ気持ちのいい庭園をお散歩していただけです。誰も何も悪くないでしょう? それよりも、あちらに私のお気に入りのお花が咲いているんです。もしよろしければ、一緒に見に行きませんか?」


 聖女ルルンは王子を誘導しながらもちらりと後ろを振りかえり、すまなさそうに小さく目礼をして、早々に立ち去っていった。



 聖女さまの優しさがありがたい。

 実はまともな対応をしてくれるのは、聖女さまだけなのだ。
 リューイにとって理不尽なことばかりのこの世界で、唯一の癒しだった。




 竜士いわく、このエピソードも、本来のゲームなら聖女が毒虫に刺されそうになるのを王子が身代わりとなり、その毒を聖女が治癒して好感度を上げる、という流れだったらしい。

 聖女さまの臨機応変な対応で、いつも少しだけリューイの罪が軽くなった。



 リューイは心のどこかで期待していた。
 もしかしたら聖女さまも、竜士のように前世の記憶持ちで、このゲームを知っているのかもしれないと。


 リューイは一度でいいから聖女様とお話しをしたかった。
 藁にもすがる思いで機会を狙っていたが、攻略対象者にがっちり包囲されていて、近付けやしないのだ。

 さらにはうっかり近付きすぎると、ここぞとばかりに悪役令息エピソードが始まってしまうのも悩みの種だった。




 いつもさり気なくフォローしてくれて、攻略対象者からの敵意を上手に逸らしてくれる聖女さま。
 世界を平和に導くついででいいので、どうか僕のことも助けてくださいませんか。

 死にたくないので、ぜひお願いします!



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