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番外編 かわいい人.6
しおりを挟むティフォは花を飾る。毎日増える花に季節の移ろいを感じながら、花の向こうで記録をとるアキラを見つめた。
アキラの仕事ぶりや話の端々に、アキラの受けてきた教育の高さとそれを超える知能の高さを垣間見ることがたびたびあった。
アキラはガラパゴスとなっているこの小島で独自の進化をとげた変種を見つけると、膨大な植物データから原種を割り出し、近似種との差異をまとめていくようになっていた。
レッドリストの絶滅危惧植物を見つけると、適した光や温湿度など育成環境を調べ、繁殖についてまとめていくのだ。
植物が終われば、昆虫を。
昆虫が終われば水辺の生き物を。
ティフォは長年暮らしてきた島について、知らないことがこれほどあったのかと驚いた。
そしてアキラの真面目な仕事ぶりを褒めた。
この島がもっと好きになったとお礼を言うティフォの純粋な賛辞に、アキラは身近なものは気付かないものだからと、照れたように笑うばかりだ。
そして部屋にこもりきりのティフォを、何かと理由をつけてはしきりに外に誘うのだった。
こうして平坦なティフォの生活が色付くにつれ、違和感が強くなっていく。
アキラの細い手足に筋肉がついて、健康的にすくすくと成長していく毎日が、ティフォには眩しくてたまらない。
命の終わりが近付いてきているティフォと、これからの未来あるアキラとの奇妙な生活は、不思議なバランスで成り立っていた。
ティフォのただ待つばかりだった終焉のときが、いやおうなくアキラを中心に変わっていく。
それが不快ではなく楽しいと感じている自分に気付いて、ティフォは狼狽えた。
この感情は何だろうかと弱々しく震える触手で胸を押さえた。
芽生えたばかりの小さな芽だ。
しかしいったん気付いてしまえば見過ごすことはできない異物だった。
必死になって平静を装いながら、年端もいかぬ子どもへ向けた庇護欲に違いないと何度も自分にいい聞かせた。
今でも愛してやまない伴侶への裏切りにならぬことを静かに祈った。
そしてアキラは、なにかを言いたそうにしながらも、必要以上に踏み込んではこなかった。
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