【完結】愛玩動物

番外編 かわいい人.4

「アキラは、食べ物の好き嫌いとか、なにかアレルギーとか、ありますか？」
『俺、なんでも食べます』
「甘いものは好きですか？」
『普通です』


　ティフォは話しながら触手で壁に触れ、食事の準備を進めていた。

　飲み物の入った容器とグラスを二個、いくつかの果実を取り出し、同時に床からテーブルを作りだす。


　白い床はティフォの意思を感知して、ほのかに発光しながら形を変えていく。
　意思の伝達で形を複雑に変える生体鉱物は、地球に持ち込まれてからかなりの時間がたっていた。

　アキラは突然現れたテーブルに驚くことなく、自分用の椅子を作り終わると、率先してテーブルセットを手伝ってくれた。


　犬たちは一足先に高性能ＡＩから食事をもらい、すっかりくつろいでいる。
　すでに何匹かは島の散策に出かけたようだ。


「ふふふ。普通かぁ」
『……酸っぱいものは、ちょっと苦手です』
「教えてくれてありがとう。じゃあ、これがいいかな。あ、アキラの口だと、皮をむかないと食べられないかもしれませんね。この隙間からこう押すと、ほら、簡単にむけますから」
『ありがとうございます』


　触手生命体であるティフォの口内は、上顎や喉の奥までびっしりと大臼歯が生えている。

　大多数の地球人にとって、不快に感じる見た目だ。


　それを理解しているティフォは、アキラの食欲を損なわないように、なるべく口を開けずに食事をとった。

　小さな実をちまちまと一つずつ口に運びながら、こうしてテーブルをはさんで誰かと食事をとるのも久しぶりだなと、ティフォはひどく懐かしく思った。
　

　アキラの細い指が赤い実をつまむ。

　小さな口のなかに実が消えていくのを、ティフォは飽きもせず眺め続けた。