【完結】愛玩動物

匠野ワカ

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番外編 ジェイクの受難の日々.2

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 個室に案内されたジェイクは、扉が閉まると同時に床に転がされていた。


 どんな柔術を使ったのか、可憐な少年に一瞬で制圧された事実に、ジェイクはぽかんと口を開けたまま動けない。

 無様に床に転がりながら見上げれば、花のように美しく笑う少年と目が合った。



『よお、久しぶり、ジェイク。お前は変わらないな』

 少年の声には、悪意の欠片も見あたらない。
 その旧友の挨拶のような親しさに、ジェイクは抵抗の意思がないことを訴えた。



「……説明を求めても?」
『話が早くて助かる。やっぱりお前にして正解だったな』




 少年の話は簡潔だった。

 目の前の少年はムーム父さんの生まれかわりであり、伴侶のティフォに会ってみたいのでこっそり手引きをしろ、ということらしい。

 当然、受け入れられるような話ではない。



 しかしこの小さな悪魔は、疑うジェイクににやにやと笑いかけながら、いくつかの情報を披露していったのだった。

 どれもジェイクのごく近しい人、それこそ親しか知らないようなエピソードだった。


 それはトイレトレーニングの微笑ましい失敗から、人に見せられないような場所にできた兄弟喧嘩の怪我のあと、実は運動音痴で自分の触手がからまり身動きが取れなくなってよく泣いていたこと、年上だった初恋の人はティフォに似ていて秘かにファザコンだと心配されていたこと……。

 よりにもよって黒歴史のオンパレードだった。


 それだけですでに瀕死のジェイクにとどめをさしたのは、誰にも知られずに処分できたと思っていたポエム帳のことだった。


 記憶に残るポエムの一節とやらを朗読されたことで、ジェイクは白旗をあげ降参したのだ。


「わ、わかりました。ムーム父さん。あなたはムーム父さんで間違いありません。私が保証します。だから、もう勘弁してください!」


 思えば、恐ろしく頭の切れるムーム父さんが、勝算もなしに無謀なことを計画するはずもない。

 もっと早く受け入れていたらこんなに大きなダメージを受けることもなかったのになと当の本人から慰められて、ジェイクは触手を丸めてひっそりと泣いた。


「ムーム父さん……。いや、今はアキラさんでしたか。なんで私だったんですか。他にもいっぱい子どもはいるじゃないですか……!」

『だってお前が一番、乙女思考だったからな。運命とか生まれ変わりとか、好きそうだなって。ああ、安心しろよ。他でもないかわいい息子のお願いだからな、言いふらしたりしないさ。父さんのささやかなお願いごとを聞いてもらえているうちは、な?』



 こうして、ジェイクの胃痛の治まらない受難の日々が始まったのであった。
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