【完結】愛玩動物

匠野ワカ

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番外編 ジェイクの受難の日々

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 ジェイクは、ケプラー惑星群の支配的生命体である〝触手〟という種族として、地球で生まれた。


 心優しい触手生命体のティフォと地球人のムームという夫夫ふうふのもとに生まれ、地球という小さな星で愛情たっぷりに育てられてきた。知能の高い雌雄同体の触手生命体である。

 ムームは地球人の中では強い雄だったが、種族の壁を越えて愛を育み、触手生命体ティフォとの卵を産んだ。
 その七番目の卵が、ジェイクだ。



 両親がお互いに信頼し、深く愛しあっているのを間近で見て育ったジェイクは、いつか自分もあんなふうに大切に想いあえる運命の相手と出会いたいと、そう夢見ていた。

 それでも問題を多く抱える地球をより良い星にしようと悪戦苦闘しているうちに、気付けばかなりの月日が過ぎていた。

 寿命が長い種族ではあったが、それにしても遅すぎるだろうと、ジェイク本人も分かっていた。
 もはや仕事が恋人だった。




 そんなジェイクが地球政府の要として精力的に働いていたある日。
 視察に出かけた先で、ある美しい少年と出会った。

 ぐらぐらと陽炎が立ちのぼるような夏の暑い日だった。


「大丈夫ですか?」
『す、すみません。大丈夫です。目まいがしただけなので……』
「ここ最近の地球の暑さは、大変ですよね。失礼ですが、保護者はどちらに?」
『ここで、待ち合わせをしているのですが……』


 目の前で、細い手足の儚げな美少年がふらりと倒れそうになって、ジェイクはとっさに触手で支えていた。

 幼い地球人がぐったりとしている姿に、ジェイクは心を痛めた。



 ここは治安が良いほうだが、それでもこの少年の見た目なら、すぐにでも悪い大人にさらわれてしまうだろう。心配になったジェイクが少年に聞けば、保護者との待ち合わせ時間まであと少しだった。

 巡廻している警察官を見つけて保護をお願いするのが一番なのだが、そうこうしている間に待ち合わせをしていた保護者が到着して、すれ違う可能性のほうが高そうだ。

 ジェイクはどうしたものかと思ったが、幸運にも休憩にちょうどよさそうなお店の前だ。

 少年の体調も病院へ連れて行くほど悪くもなさそうだった。さらに今なら自分の仕事にも余裕がある。
 このか弱い子どもが保護者と無事に合流するまでくらいの間なら、責任を持ってつき合えるだろうとジェイクは判断をした。


「このままここにいたら危ないですよ。涼しい場所で少し休憩しましょう。ちょうどあのお店の窓側の席なら、ここの待ち合わせ楊所も見えそうですし」
『あ、ありがとうございます。本当に、助かります。きっと少し休めば、大丈夫だと思いますので……』



 ジェイクはふらつく少年をうやうやしく誘導して、目の前のお店に入店したのだった。



――まさかこのすべてが入念に仕組まれたことだとも知らずに。


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