【完結】愛玩動物

匠野ワカ

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1_ヒト亜人

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『産地 地球
 性別 オス
 年齢 不詳(成人しているものと推察)
 体毛 黒
 知能 不明

・背中と排泄腔に裂傷あり。
・触手からの高濃度性ホルモン剤を断続的に摂取させられていたことによる、軽度の意識の混濁が見受けられる。
・これは違法密猟及び違法密売による緊急保護案件である。
・人型愛玩動物の密売市場から保護した段階でかなりの衰弱が見られたため、速やかに治療し、可能であれば地球に返すこと。
・その見込みがない個体の場合は、適切な殺処分を依頼する……』



 ティフォは、見飽きた指示書にざっと目を通すと、自身の触手で目頭を揉みほぐした。ストレス性の疲れからか目の奥が痛い。いつもの頭痛の予兆だった。







 地球から四十光年離れたケプラー系惑星群。
 この惑星群の支配的生命体である高い知性を持つ種族が、ティフォをはじめとする触手生命体である。

 この触手生命体は、地球産の人類とよく似た上半身に、手足として蛇のようにぬるりと動く大小さまざまな触手を有する、いわゆるヒト亜属であった。地球人と目鼻口の配置こそ同じでも、のっぺりとした凹凸のない顔に、無毛で無機質にも感じられる灰色の肌をした触手生命体。 ケプラー惑星群の触手生命体は、ヒト亜人ではあるものの雌雄同体の卵生で、性差にはこだわらない生命体である。触手生命体同士の交尾においては、強さで雌雄を決める傾向が強い。

 しかしその知性の高さから惑星内の紛争はなく、宇宙に点在する知的生命体の中でも、比較的穏やかな種族として認識されている。このケプラー系惑星群は、争わないことで連綿と続く歴史が非常に高度な文明を築きあげてきた。

 そんな惑星にも、規則やモラルに反した個体というものは、全体の中のごく少数ながら存在していた。少数の個体は自然と寄り集まり、政府の掌握しきれないアンダーグラウンドな組織として大きくなっていった。その結果として、惑星協定宇宙法に背き地球人の密猟・密売を繰り返すという、政府の大きな悩みの種となっていたのだ。

 さらにはこの地球産の人型愛玩動物である外来生物が、一部の心無い飼い主によって捨てられる、または脱走する事案が多発していた。
 当初は政府も、地球人は短命で力の弱い生物であることから、すぐに死滅するだろうと楽観視していた。そのため密猟組織のみを緩やかに取り締まっていたのだが、予想に反して地球人は高い繁殖力を武器に野生で定着するようになってしまった。挙句には交雑種が生まれ、この星では生態系のバランスにまで影響が出る大きな問題に発展しつつあるのだ。


 今や政府は、初動の判断ミスをどう誤魔化すか、水面下で躍起になっていた。

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