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04.切欠は
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「あれ? これ、お客様の忘れ物かな?」
客が去った後のテーブルを片付けようとして見た先に、紙切れというか、紙袋が落ちていた。よくある宝くじ売り場で売られている形態──宝くじ番号の場所が透けた紙袋に入っているものだ。その紙袋には、付箋が貼られており、「凛空様へ」と書かれていた。
【凛空様へ いつも素敵な笑顔をありがとう。貴方は私の癒しです。これは、幸運のお裾分けです。どうぞ当たりますように】
美しい行書で書かれた文章に、凛空の頬が上がる──うわぁ。嬉しいな。直接渡してくれればお礼が言えたのに。
一応拾得物なので店長に届けると、それは凛空宛てのものなので、持って帰って自分のものにしてもいいよ、当たるといいねと言われた。凛空は宝くじを持ち帰ると、自宅のキッチンの片隅に仕舞った。智也に見つかると、入手先はどうしたのかと問い詰められそうで面倒なのである。そして、日々の家事で智也に叱られると、こっそりと宝くじを取り出し、ざわめく心を落ち着かせた。
◇◇◇
その日はいつもよりもクリニックでの片付けが手間取り、智也の帰宅が遅くなった。これから帰宅する旨のメッセージに既読マークがついたので、智也が帰る頃に合わせて温かい夕食が準備されているだろうなと、期待した。最近つい、きつい口調で咎めてしまうので、今日はちょっとよい酒でも買って帰るかと、駅ビルの中に入っている高級スーパーに立ち寄った。凛空が好きなワインを選び、せっかくなのでとプレゼント包装をしてもらうと、スーパーのロゴが入ったワイン用の袋をぶら下げて自宅に帰った。
しかし、いつも出迎えてくれる凛空がいない。
部屋も灯りかついていなくて真っ暗だ。訝しさに首を傾げながら、パチンとリビングの灯りを付けると、ソファーの前のテーブルに智也宛ての封書と、結婚指輪が置かれていた。智也の心臓が早鐘を打つ──まさか、そんな──震える手で封書を開けると、智也宛ての凛空からの手紙、パートナーシップの証明書と解消届が入っていた。
智也へ、という書き出しで始まった手紙。
そこには、このような形で別れを切り出して申し訳ない。しかし、話し合いをすると決心が鈍ってしまいそうなので、突然智也の前を去るという方法にしたと書いてあった。これまで、智也の期待の応えられるのではないかと頑張って来たが、凛空の能力ではきっと、智也の求めるパートナーに足りえない。なので、別れましょう。大好きだよ、智也の文字で締めくくられた文章を読むと、智也は大粒の涙を流した。
客が去った後のテーブルを片付けようとして見た先に、紙切れというか、紙袋が落ちていた。よくある宝くじ売り場で売られている形態──宝くじ番号の場所が透けた紙袋に入っているものだ。その紙袋には、付箋が貼られており、「凛空様へ」と書かれていた。
【凛空様へ いつも素敵な笑顔をありがとう。貴方は私の癒しです。これは、幸運のお裾分けです。どうぞ当たりますように】
美しい行書で書かれた文章に、凛空の頬が上がる──うわぁ。嬉しいな。直接渡してくれればお礼が言えたのに。
一応拾得物なので店長に届けると、それは凛空宛てのものなので、持って帰って自分のものにしてもいいよ、当たるといいねと言われた。凛空は宝くじを持ち帰ると、自宅のキッチンの片隅に仕舞った。智也に見つかると、入手先はどうしたのかと問い詰められそうで面倒なのである。そして、日々の家事で智也に叱られると、こっそりと宝くじを取り出し、ざわめく心を落ち着かせた。
◇◇◇
その日はいつもよりもクリニックでの片付けが手間取り、智也の帰宅が遅くなった。これから帰宅する旨のメッセージに既読マークがついたので、智也が帰る頃に合わせて温かい夕食が準備されているだろうなと、期待した。最近つい、きつい口調で咎めてしまうので、今日はちょっとよい酒でも買って帰るかと、駅ビルの中に入っている高級スーパーに立ち寄った。凛空が好きなワインを選び、せっかくなのでとプレゼント包装をしてもらうと、スーパーのロゴが入ったワイン用の袋をぶら下げて自宅に帰った。
しかし、いつも出迎えてくれる凛空がいない。
部屋も灯りかついていなくて真っ暗だ。訝しさに首を傾げながら、パチンとリビングの灯りを付けると、ソファーの前のテーブルに智也宛ての封書と、結婚指輪が置かれていた。智也の心臓が早鐘を打つ──まさか、そんな──震える手で封書を開けると、智也宛ての凛空からの手紙、パートナーシップの証明書と解消届が入っていた。
智也へ、という書き出しで始まった手紙。
そこには、このような形で別れを切り出して申し訳ない。しかし、話し合いをすると決心が鈍ってしまいそうなので、突然智也の前を去るという方法にしたと書いてあった。これまで、智也の期待の応えられるのではないかと頑張って来たが、凛空の能力ではきっと、智也の求めるパートナーに足りえない。なので、別れましょう。大好きだよ、智也の文字で締めくくられた文章を読むと、智也は大粒の涙を流した。
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