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03.新婚生活
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凛空が智也のプロポーズを受けてから三か月後に、二人はお互いをパートナーとして登録をした。身内だけではあったが、結婚式場で小さな結婚式も挙げた。白地に金糸で縫い取られたモーニングゴートを羽織った智也と、智也が着たモーニングコートと同じ柄を、銀糸で縫い取ったものを着た凛空。同性婚ということもあり、お互いの両親、家族に、最初から大賛成されたという訳ではなかったが、結婚に至るまでの展開が早く、反対する声は抑え込まれた。結婚式に参加した家族は、二人の晴れやかな笑顔を見て、二人が幸せならばよいかと、半ばあきらめの心を持ちつつ、大きな拍手で結婚式を終えた。
新婚生活は、順調に始まった。凛空のもともとの職場であるパティスリーと、智也のクリニックがある商店街から急行で二駅。二路線が乗り入れる駅の駅前に竣工されたばかりのタワーマンションで、購入のキャンセルがあった。もともとの販売額よりも破格の値段で売り出されたマンションを運よく購入した智也。最上階ではないが、まあまあの高層階に位置する部屋からは、遠く、富士山も望むことが出来た。
凛空は専業主夫として家事全般を担当した。料理は得意である。専門学校で習った栄養学を駆使して、バランスが取れた食事を朝と夜に食卓に並べ、昼は弁当として智也に持たせた。
しかし、一緒に住むようになると、お互いに至らない、完璧ではない部分が散見されるようになる。食事に関しては、凛空は完璧だった。しかし、掃除、洗濯に関しては、智也の求める水準には満たなかった。なにせ、智也の求める掃除、洗濯のレベルが高いのだ。少々神経質で、潔癖症なところもある智也であったため、ちょっとした鏡の曇りでさえゆるせないのである。最初のうちは恋の熱に浮かされ、智也としても大目に見た部分もあったのだが、徐々に気に入らないところを指摘するようになる。凛空は、悲しいかな、智也に依存をしている。智也の苦情が徐々に増えたとしてもひたすら耐えた。
そして、身を震えながら智也の指摘を受け入れる凛空の完成である。
朝の小言を終えると、不機嫌そうに凛空が作った弁当を持ち、クリニックに向かう智也。
出掛ける智也の肩を、玄関先に置かれた洋服ブラシで払い、おざなりなキスを受けて送り出すルーティーンをこなした凛空は、ふうと大きなため息を吐いた。
今日も智也に詰られてしまったと、玄関に続く廊下でふらふらとよろけて壁にもたれた。うずくまってその場で暫く落ち込んでいた凛空だが、思い立ったように顔をあげた。
実は、最近。智也には内緒で近所のカフェでアルバイトを始めたのだ。
ランチ時のコアタイムのみの就業条件。
働きだすと、やはり楽しい。お客様や、同僚に褒められて、必要とされる。智也によってズタズタに刻まれ、じくじくと膿を流す、心の傷が癒されるのだ。智也がクリニックで働いている曜日の、十一時から午後の三時までの四時間。正しく凛空が人間でいられる時間なのである。
両の手を握りしめ、気合を入れた。
今日の家事はミスがないように頑張ろう。
アルバイトに出掛ける前の短い時間に、凛空は集中して家事を行った。
新婚生活は、順調に始まった。凛空のもともとの職場であるパティスリーと、智也のクリニックがある商店街から急行で二駅。二路線が乗り入れる駅の駅前に竣工されたばかりのタワーマンションで、購入のキャンセルがあった。もともとの販売額よりも破格の値段で売り出されたマンションを運よく購入した智也。最上階ではないが、まあまあの高層階に位置する部屋からは、遠く、富士山も望むことが出来た。
凛空は専業主夫として家事全般を担当した。料理は得意である。専門学校で習った栄養学を駆使して、バランスが取れた食事を朝と夜に食卓に並べ、昼は弁当として智也に持たせた。
しかし、一緒に住むようになると、お互いに至らない、完璧ではない部分が散見されるようになる。食事に関しては、凛空は完璧だった。しかし、掃除、洗濯に関しては、智也の求める水準には満たなかった。なにせ、智也の求める掃除、洗濯のレベルが高いのだ。少々神経質で、潔癖症なところもある智也であったため、ちょっとした鏡の曇りでさえゆるせないのである。最初のうちは恋の熱に浮かされ、智也としても大目に見た部分もあったのだが、徐々に気に入らないところを指摘するようになる。凛空は、悲しいかな、智也に依存をしている。智也の苦情が徐々に増えたとしてもひたすら耐えた。
そして、身を震えながら智也の指摘を受け入れる凛空の完成である。
朝の小言を終えると、不機嫌そうに凛空が作った弁当を持ち、クリニックに向かう智也。
出掛ける智也の肩を、玄関先に置かれた洋服ブラシで払い、おざなりなキスを受けて送り出すルーティーンをこなした凛空は、ふうと大きなため息を吐いた。
今日も智也に詰られてしまったと、玄関に続く廊下でふらふらとよろけて壁にもたれた。うずくまってその場で暫く落ち込んでいた凛空だが、思い立ったように顔をあげた。
実は、最近。智也には内緒で近所のカフェでアルバイトを始めたのだ。
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働きだすと、やはり楽しい。お客様や、同僚に褒められて、必要とされる。智也によってズタズタに刻まれ、じくじくと膿を流す、心の傷が癒されるのだ。智也がクリニックで働いている曜日の、十一時から午後の三時までの四時間。正しく凛空が人間でいられる時間なのである。
両の手を握りしめ、気合を入れた。
今日の家事はミスがないように頑張ろう。
アルバイトに出掛ける前の短い時間に、凛空は集中して家事を行った。
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