すべては誤解だったけど、なぜか二人の男に愛されています。これはきっと冬の花火のせい

01．夏の情事※微

　そろそろセミが起き出して、かまびすしい求愛の叫びをあげる早朝。ジョギングに行くと言い置いて、ナオは自宅を飛び出す。しなやかな腓腹筋ひふくきんは固く、くるぶしから理想的なカーブを描き、躍動する。そして男子高校生がジョギングをするというには短すぎる距離でナオの脚は止まる。はあはあと上がる息を整えて手にしたのはカードキーだった。ガチャリと重い音を立てて瀟洒なマンションの扉を開けると、男性が住むに相応しいシックなインテリアの玄関に入る。
　磨き込まれた薄灰のフローリングの上で、スポーツ用の分厚い靴下は滑りやすい。注意深く歩みを進めてドアの前で止まる。濃茶のドアに金のドアノブ。このドアノブも曇り一つなく磨かれている。本来ならばノックの一つもするところだろうが、ナオはそっとドアを開ける。

　部屋の中ではナオの訪おとないを予想していた男がしどけない寝間着姿で迎えた。ナオはするりとその横に身体を滑り込ませ、薄く張った男の胸筋に頭をぐりぐりと擦り付ける。
　男は身体を起こし、ナオをベッドに縫い留めると、低く掠れた声で問う。

「する？」
「うん」

　夏休みが終わって学校が始まったけれど、まだまだ残暑は厳しくて。
　夏に始まった関係はずぶずぶで。

「……ちょっと汗の味」
「シャワー浴びた方が、いい？」
「いいよ、このままで」

　ナオは汗臭い自分の脇をべろべろと舐める男の変態ぶりに笑みを漏らしたが、自分もすぐに交わりたかったため、その流れに身を委ねた。