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13.願ってください
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上空から見たラシードの家では、余震に備えてのことだろう。祖母が生活魔法で光の珠を灯し、今晩は庭で過ごすようだ。砂漠地帯なのでさほど寒くはないが、夜は冷えるため家屋に崩れる兆しがないことを確認しつつ、毛布を引っ張り出している。
「お祖母様は頼もしいですね」
「ああ、そうだな。当代の『語り部』だからな。計り知れない知識がお祖母様の頭の中に入っているのだろう」
「それにしても、思ったよりもひどい状況ですね」
大きな地震は、満月、もしくは新月の日によく起こるとも言われているが、今宵は満月だった。月灯りに照らされて王都の街並みが浮かび上がっている。日干し煉瓦の家が大半を占める王都。倒壊した家も多く、惨状は筆舌に尽くしがたかった。不幸中の幸いともいえるのは、木造家屋ではないので火の手が上がっても延焼が免れるということだろうか。
「火事場泥棒的な輩もいるのでしょうか」
「治安維持と、生存者の確認が急務だな」
「カナートも寸断されているかもしれません」
「くっ……金が要る」
「様々な材料などを供出させることもできますが、無償供出だと経済が死にますしね……父上、王城に着きますよ」
「ああ、ありがとう。お前はこれからどうするんだ」
「父上を王城に送ったら、このまま国中の状況を上空から確認します。父上子飼いの影からも情報は入るでしょうが、僕自身の目で確認して参ります。その後は僕も王城に詰めて予算とにらめっこをしますよ」
父と子の会話だが、宰相と若手財務官との会話でもあった。ここで父親は魔人に話しかける。
「ジーニーさんといったか」
「はい」
「すまんが、息子を頼む」
短い言葉ではあったが、ラシードと魔人の仲を認める発言だった。
ラシードは父親を王城の片隅に降ろすと、再び魔人と共に空へ舞い上がった。
†††
(……これは……酷い)
空から確認する王国の様子は酷いものだった。人口の多い王都が先ず、壊滅状態だ。日干し煉瓦の質の問題なのか、ラシードの家は崩れたりはしていなかったが、とりわけ貧しい人々が住む地帯は崩れた家が多かった。夜盗らしき集団は魔人と共に撃退したりもしたが、以前の生活を人々に取り戻させるには問題が山積だった。
ラシードと魔人はさらに王国内を飛ぶ。ラシードの家に下賜された領が、魔人が以前洞窟の奥底で眠っていたアイナバル山一帯にある。宰相になった父親による根回しで、この一帯を領にさせたのだ。どうもこの辺りが震源地だったようで、点在する小さなオアシスに付属する村々の住人達は辛い現実に向き合うしかないような惨状だ。瓦礫の近くで泣き叫ぶ子どもをラシードが抱き上げて、抱きしめた。孤児のケアもしなければならないなと、ラシードは自分がやるべき仕事が多すぎて眩暈がした。
「ラシード様。小さなお願いを連発してもらえば、この状況を打開して差し上げますよ」
魔人は、願い事カウントに加えない形での提案をするが、ラシードは「小さな願い事」を叶える度に消耗する魔人の事を知っている。それに、魔法で街並みを整えたら人々が魔法に依存するようになってしまうかも知れない。それでは真の復興とは言えない。最低限、人々自身の手で復興を成し遂げてもらわなければならないのだ。
復興のための資材。人足の労働に見合った対価。孤児、寡婦への補償。金、金、金。金が要る。幸い長い間平和な世が続いている。国庫にはまだ金はある。王都などの王国直轄領はなんとかなるだろう。しかし、ラシードの家が治める領の復興には国庫から引っ張って来られる金はない。
「くっ……」
ラシードは拳を握りしめる。
「ラシード様、願い事カウントに加えざるを得ませんが……復興資金を願ってください」
ポツリと漏らした魔人の方をラシードが見ると、泣いているのか、微笑んでいるのか。なんとも言えない表情を浮かべていた。
「ジン、それを願ったら、お前はどうなる? 僕の元から去ってしまうだろう? そんな事絶対に願わないよ」
「……最初はワタシの一目ぼれでしたね。でも、わかっています。ラシード様のお傍でお仕えする間に、わかってしまったのです。貴方の国を想う使命感が揺るぎないものであることを。人々の幸せを願う優しい心根を。今ではその想いも含めてラシード様を愛しています」
「僕は……僕は……今でも人間になったお前を抱きしめることしか願っていないよ」
「いえ、違います。きっとその願いを叶えてワタシの事を抱きしめてくれたとしても、ワタシの見ていない所で泣くのでしょう?」
「……」
「大丈夫です。どんな卑怯な手を使ってでも戻ってみせます。眞名をお知らせしたラシード様の元へ」
「お祖母様は頼もしいですね」
「ああ、そうだな。当代の『語り部』だからな。計り知れない知識がお祖母様の頭の中に入っているのだろう」
「それにしても、思ったよりもひどい状況ですね」
大きな地震は、満月、もしくは新月の日によく起こるとも言われているが、今宵は満月だった。月灯りに照らされて王都の街並みが浮かび上がっている。日干し煉瓦の家が大半を占める王都。倒壊した家も多く、惨状は筆舌に尽くしがたかった。不幸中の幸いともいえるのは、木造家屋ではないので火の手が上がっても延焼が免れるということだろうか。
「火事場泥棒的な輩もいるのでしょうか」
「治安維持と、生存者の確認が急務だな」
「カナートも寸断されているかもしれません」
「くっ……金が要る」
「様々な材料などを供出させることもできますが、無償供出だと経済が死にますしね……父上、王城に着きますよ」
「ああ、ありがとう。お前はこれからどうするんだ」
「父上を王城に送ったら、このまま国中の状況を上空から確認します。父上子飼いの影からも情報は入るでしょうが、僕自身の目で確認して参ります。その後は僕も王城に詰めて予算とにらめっこをしますよ」
父と子の会話だが、宰相と若手財務官との会話でもあった。ここで父親は魔人に話しかける。
「ジーニーさんといったか」
「はい」
「すまんが、息子を頼む」
短い言葉ではあったが、ラシードと魔人の仲を認める発言だった。
ラシードは父親を王城の片隅に降ろすと、再び魔人と共に空へ舞い上がった。
†††
(……これは……酷い)
空から確認する王国の様子は酷いものだった。人口の多い王都が先ず、壊滅状態だ。日干し煉瓦の質の問題なのか、ラシードの家は崩れたりはしていなかったが、とりわけ貧しい人々が住む地帯は崩れた家が多かった。夜盗らしき集団は魔人と共に撃退したりもしたが、以前の生活を人々に取り戻させるには問題が山積だった。
ラシードと魔人はさらに王国内を飛ぶ。ラシードの家に下賜された領が、魔人が以前洞窟の奥底で眠っていたアイナバル山一帯にある。宰相になった父親による根回しで、この一帯を領にさせたのだ。どうもこの辺りが震源地だったようで、点在する小さなオアシスに付属する村々の住人達は辛い現実に向き合うしかないような惨状だ。瓦礫の近くで泣き叫ぶ子どもをラシードが抱き上げて、抱きしめた。孤児のケアもしなければならないなと、ラシードは自分がやるべき仕事が多すぎて眩暈がした。
「ラシード様。小さなお願いを連発してもらえば、この状況を打開して差し上げますよ」
魔人は、願い事カウントに加えない形での提案をするが、ラシードは「小さな願い事」を叶える度に消耗する魔人の事を知っている。それに、魔法で街並みを整えたら人々が魔法に依存するようになってしまうかも知れない。それでは真の復興とは言えない。最低限、人々自身の手で復興を成し遂げてもらわなければならないのだ。
復興のための資材。人足の労働に見合った対価。孤児、寡婦への補償。金、金、金。金が要る。幸い長い間平和な世が続いている。国庫にはまだ金はある。王都などの王国直轄領はなんとかなるだろう。しかし、ラシードの家が治める領の復興には国庫から引っ張って来られる金はない。
「くっ……」
ラシードは拳を握りしめる。
「ラシード様、願い事カウントに加えざるを得ませんが……復興資金を願ってください」
ポツリと漏らした魔人の方をラシードが見ると、泣いているのか、微笑んでいるのか。なんとも言えない表情を浮かべていた。
「ジン、それを願ったら、お前はどうなる? 僕の元から去ってしまうだろう? そんな事絶対に願わないよ」
「……最初はワタシの一目ぼれでしたね。でも、わかっています。ラシード様のお傍でお仕えする間に、わかってしまったのです。貴方の国を想う使命感が揺るぎないものであることを。人々の幸せを願う優しい心根を。今ではその想いも含めてラシード様を愛しています」
「僕は……僕は……今でも人間になったお前を抱きしめることしか願っていないよ」
「いえ、違います。きっとその願いを叶えてワタシの事を抱きしめてくれたとしても、ワタシの見ていない所で泣くのでしょう?」
「……」
「大丈夫です。どんな卑怯な手を使ってでも戻ってみせます。眞名をお知らせしたラシード様の元へ」
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