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14 悪役は、願う。
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呼吸をしていない。
その事実に、私は頭が真っ白になった。
間に合わなかった。救わなければならなかったのに。
目の前で横たわる第一王女の顔が歪み、視界が暗転した。
床にペタンと座り込み、シスターリゼリアが慌てたように駆け寄ってくるのにも気にする余裕はない。
私にはどうすることもできないの?
所詮、私はこの世界においては悪役令嬢でしかないのか。
レイン殿下から憎まれ、ヒロインに婚約者の座を奪われ。
これではゲーム通りではないか。このままシナリオ通りに進んでしまったら、私は災厄を招いてしまうというのに。
「……いや、違うわ」
しっかりしなさい。
今の私はもう『悪役令嬢クラリス・エルダイン』ではない。
私はもうゲームの悪役令嬢ではないのだ。今の私は少なくとも前世でのゲームの記憶を取り戻し、災厄のシナリオを把握していて、私が私であるという自覚がある。
それに。何より。
「まだ、終わったわけじゃない」
――しっかりしなさい。私。
自分で頬をパシン! と叩いて、私は立ち上がった。
仮にも悠久の女神から力を与えられた『聖女』である私が諦めてどうするというのだ。
ここにリーンはいない。正当な聖女がいないというのなら、私がメドウィカ様の命を救うしかないのだ。
私はもう一度メドウィカ様に近づくと注意深く彼女を観察する。
相変わらずどす黒い『障り』が彼女に絡みつき、身体を蝕んでいることには変わりない。
しかし目を凝らしてよく『視る』と、メドウィカ様の身体が淡い緑の光に包まれているのがわかった。
薄く今にも途切れてしまいそうな弱々しい光。けれどそれはメドウィカ様の体全てを覆うように膜を貼り、『障り』をとり払おうとするように黒いモヤと時々衝突し、ピシッと音を立てる。
メドウィカ様の呼吸は確かに止まっている。でもこれは……。
まだ終わっていない。彼女は身体を衰弱させながらも、必死に闘っているのだ。
その証拠にこの緑の弱々しい光は『障り』の侵食に抗っている。
この光には、精霊の意思が宿っている。王族に加護を与えている精霊が、メドウィカ様を守ろうとしている。
ということは、私がすべきことは。
私はメドウィカ様から目を離すと何も無い虚空に向かって呼びかける。
「――精霊たちよ。私の声が聞こえるならば、お願い。力を貸して。メドウィカ様を救いたいの!」
私は聖女だが、それだけではない。
精霊王の愛し子。それが私の持つ切り札。
愛し子が望めば、精霊はその願いをなんでも叶える。
「お願い、私に力を貸して!」
目を閉じ、心を込めて祈るように呼びかける。
そうしてどれだけの時間が過ぎたのか。
「――え!? な、何これ!?」
シスターリゼリアの驚きに満ちた声につられて、私は閉じていた目を開ける。
『――クラリスのお願い、叶える!』
『クラリス助ける!』
『王女救う! それが愛し子の望み?』
『お安い御用』
『障りなんてやっつけてあげる!』
そう口々に言う精霊たち。
部屋中に、見たこともないほどの光の奔流。
私の願いに応えた精霊たちが、部屋の中を埋めつくしていた。
これまでで見たこともないほどの精霊の数。部屋に入りきれず、扉の向こうにまで光が溢れているのが分かる。
それだけの精霊が、私の元に集ってくれた。
「ありがとう」
私は笑顔で精霊たちに感謝する。
――さぁ、王女を救いましょう。
悪役令嬢クラリスが、災厄を阻止するために。
その事実に、私は頭が真っ白になった。
間に合わなかった。救わなければならなかったのに。
目の前で横たわる第一王女の顔が歪み、視界が暗転した。
床にペタンと座り込み、シスターリゼリアが慌てたように駆け寄ってくるのにも気にする余裕はない。
私にはどうすることもできないの?
所詮、私はこの世界においては悪役令嬢でしかないのか。
レイン殿下から憎まれ、ヒロインに婚約者の座を奪われ。
これではゲーム通りではないか。このままシナリオ通りに進んでしまったら、私は災厄を招いてしまうというのに。
「……いや、違うわ」
しっかりしなさい。
今の私はもう『悪役令嬢クラリス・エルダイン』ではない。
私はもうゲームの悪役令嬢ではないのだ。今の私は少なくとも前世でのゲームの記憶を取り戻し、災厄のシナリオを把握していて、私が私であるという自覚がある。
それに。何より。
「まだ、終わったわけじゃない」
――しっかりしなさい。私。
自分で頬をパシン! と叩いて、私は立ち上がった。
仮にも悠久の女神から力を与えられた『聖女』である私が諦めてどうするというのだ。
ここにリーンはいない。正当な聖女がいないというのなら、私がメドウィカ様の命を救うしかないのだ。
私はもう一度メドウィカ様に近づくと注意深く彼女を観察する。
相変わらずどす黒い『障り』が彼女に絡みつき、身体を蝕んでいることには変わりない。
しかし目を凝らしてよく『視る』と、メドウィカ様の身体が淡い緑の光に包まれているのがわかった。
薄く今にも途切れてしまいそうな弱々しい光。けれどそれはメドウィカ様の体全てを覆うように膜を貼り、『障り』をとり払おうとするように黒いモヤと時々衝突し、ピシッと音を立てる。
メドウィカ様の呼吸は確かに止まっている。でもこれは……。
まだ終わっていない。彼女は身体を衰弱させながらも、必死に闘っているのだ。
その証拠にこの緑の弱々しい光は『障り』の侵食に抗っている。
この光には、精霊の意思が宿っている。王族に加護を与えている精霊が、メドウィカ様を守ろうとしている。
ということは、私がすべきことは。
私はメドウィカ様から目を離すと何も無い虚空に向かって呼びかける。
「――精霊たちよ。私の声が聞こえるならば、お願い。力を貸して。メドウィカ様を救いたいの!」
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愛し子が望めば、精霊はその願いをなんでも叶える。
「お願い、私に力を貸して!」
目を閉じ、心を込めて祈るように呼びかける。
そうしてどれだけの時間が過ぎたのか。
「――え!? な、何これ!?」
シスターリゼリアの驚きに満ちた声につられて、私は閉じていた目を開ける。
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「ありがとう」
私は笑顔で精霊たちに感謝する。
――さぁ、王女を救いましょう。
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