12 / 28
12 悪役は、決断する
しおりを挟む
――キネーラ連合王国。
グレイブル王国と隣り合い、ウィンゼルキネラ王家が治めるキネーラを始めとする大小四つの国が連合して形成された王国。
グレイブル王国とは昔から交流もあるが、国土を巡って対立、戦争した過去もある。
しかし今は比較的良好な関係を築いており、近年ではウィンゼルキネラ王家とも縁の深いレイダスト公爵家令嬢が、グレイブル王国へ嫁いだ話は割と有名である。
しかし、この両者の関係はリーンが聖女になったと同時に脆く崩れ去ることになる。
――キネーラ連合王国第一王女、メドウィカ様の死。
数年前から不治の病を患っていたメドウィカ様は、グレイブル王国に新たな聖女が降臨した時期とほぼ重なるようにして亡くなってしまう。
不治の病を患っていたメドウィカ様だが、その病の正体は『障り』による負のエネルギーを利用した呪いであったことが判明する。
しかも呪いを行っていたのはグレイブル王国側であるという恐ろしい事実が明らかとなり、そこから両国は互いに宣戦布告、戦争へと発展していく。
聖女であるリーンは戦争によって増大した『障り』を鎮めるため各地を周り、その道中でこの戦乱を招いた真なる黒幕へと迫る。
その災厄のシナリオ『流転の災禍』のトリガーとなる重要人物、キネーラ第一王女メドウィカ・セリス・ウィンゼルキネラ。
その彼女が、今まさに死のうとしている。
こんな大事なことを忘れていたなんて……。
私は馬車の中で首を振り、頭を抱えた。
一刻も早く、メドウィカ様をお救いしなければ。そうしなければ、世界は滅びへと向かってしまう――。
「クラリス様。こちらをどうぞ」
焦りに戸惑い。そして早く思い出せなかった後悔。
様々な感情が渦巻いてうまく考えをまとめきれなくなった私の前に、温かな湯気をたてる紅茶のカップが差し出された。
「ゼスト……」
「クラリス様、あまり思い詰めなされませんよう」
「ええ、ありがとう」
私はゼストからカップを受け取り、口に運ぶ。
爽やかなハーブの香りが鼻腔をくすぐり、焦る心をすっと沈めてくれるような気がした。
香りを楽しんで一口飲んだあと、私は細く息を吐き出す。
ゼストの言う通りだ。
焦っていても仕方がない。幸いあの後直ぐに教皇経由で連絡をとることができ、メドウィカ様を診察することが可能となった。
今私は馬車に揺られて、キネーラ王都ヘンブルへと向かう途中である。
「それにしてもすごいわよね。精霊王の愛し子ってだけでも凄いのに、まさか『聖女』だったなんて。びっくりしましたわ」
とは、反対側に座るシスターリゼリアの言。
同じくゼストから受け取ったらしいカップを手に持ち、優雅に紅茶を飲む黒髪の美女は、一枚の絵画のように美しい。
「私も何がなにやら……」
精霊に言われなければ、まさか自分に聖女の力があるなんて思いもしなかっただろう。
それに託宣に選ばれていた聖女は二人いた、ということも気にかかる。
託宣を受け取る大司祭は、教会においても名の通った実力者。
そんな方が託宣を読み違えるというとこはまずもってありえないのだ。
それなのに託宣によって選ばれたのはリーンひとり。
しかももう一人の聖女である私はレイン殿下によって追放された。
教会が託宣を隠蔽した事実があり、グレイブル王国王家がそれを知らないはずがない。聖女は国の宝と言うべきもの。それを王家が蔑ろにするということはあってはならないことだ。
そのはずなのに。
何かがおかしい。この件を無事に乗り切れたらもう一度調べてみる必要がある。
そう密かに心に決めた時、長い道のりを進んでいた馬車が止まった。
「着いたようね」
「そうですね」
シスターリゼリアの声に、私は頷く。
キネーラ連合王国中央王都ヘンブル。その真ん中にそびえ立つ、バルセネア宮殿。
やることは色々できた。けれども今やるべきことは。
――まずはメドウィカ様にお会いしなければね。全てはそれからよ。
「どうぞクラリス様」
「ええ」
差し出されたゼストの手を取り、私は馬車を降りた。
グレイブル王国と隣り合い、ウィンゼルキネラ王家が治めるキネーラを始めとする大小四つの国が連合して形成された王国。
グレイブル王国とは昔から交流もあるが、国土を巡って対立、戦争した過去もある。
しかし今は比較的良好な関係を築いており、近年ではウィンゼルキネラ王家とも縁の深いレイダスト公爵家令嬢が、グレイブル王国へ嫁いだ話は割と有名である。
しかし、この両者の関係はリーンが聖女になったと同時に脆く崩れ去ることになる。
――キネーラ連合王国第一王女、メドウィカ様の死。
数年前から不治の病を患っていたメドウィカ様は、グレイブル王国に新たな聖女が降臨した時期とほぼ重なるようにして亡くなってしまう。
不治の病を患っていたメドウィカ様だが、その病の正体は『障り』による負のエネルギーを利用した呪いであったことが判明する。
しかも呪いを行っていたのはグレイブル王国側であるという恐ろしい事実が明らかとなり、そこから両国は互いに宣戦布告、戦争へと発展していく。
聖女であるリーンは戦争によって増大した『障り』を鎮めるため各地を周り、その道中でこの戦乱を招いた真なる黒幕へと迫る。
その災厄のシナリオ『流転の災禍』のトリガーとなる重要人物、キネーラ第一王女メドウィカ・セリス・ウィンゼルキネラ。
その彼女が、今まさに死のうとしている。
こんな大事なことを忘れていたなんて……。
私は馬車の中で首を振り、頭を抱えた。
一刻も早く、メドウィカ様をお救いしなければ。そうしなければ、世界は滅びへと向かってしまう――。
「クラリス様。こちらをどうぞ」
焦りに戸惑い。そして早く思い出せなかった後悔。
様々な感情が渦巻いてうまく考えをまとめきれなくなった私の前に、温かな湯気をたてる紅茶のカップが差し出された。
「ゼスト……」
「クラリス様、あまり思い詰めなされませんよう」
「ええ、ありがとう」
私はゼストからカップを受け取り、口に運ぶ。
爽やかなハーブの香りが鼻腔をくすぐり、焦る心をすっと沈めてくれるような気がした。
香りを楽しんで一口飲んだあと、私は細く息を吐き出す。
ゼストの言う通りだ。
焦っていても仕方がない。幸いあの後直ぐに教皇経由で連絡をとることができ、メドウィカ様を診察することが可能となった。
今私は馬車に揺られて、キネーラ王都ヘンブルへと向かう途中である。
「それにしてもすごいわよね。精霊王の愛し子ってだけでも凄いのに、まさか『聖女』だったなんて。びっくりしましたわ」
とは、反対側に座るシスターリゼリアの言。
同じくゼストから受け取ったらしいカップを手に持ち、優雅に紅茶を飲む黒髪の美女は、一枚の絵画のように美しい。
「私も何がなにやら……」
精霊に言われなければ、まさか自分に聖女の力があるなんて思いもしなかっただろう。
それに託宣に選ばれていた聖女は二人いた、ということも気にかかる。
託宣を受け取る大司祭は、教会においても名の通った実力者。
そんな方が託宣を読み違えるというとこはまずもってありえないのだ。
それなのに託宣によって選ばれたのはリーンひとり。
しかももう一人の聖女である私はレイン殿下によって追放された。
教会が託宣を隠蔽した事実があり、グレイブル王国王家がそれを知らないはずがない。聖女は国の宝と言うべきもの。それを王家が蔑ろにするということはあってはならないことだ。
そのはずなのに。
何かがおかしい。この件を無事に乗り切れたらもう一度調べてみる必要がある。
そう密かに心に決めた時、長い道のりを進んでいた馬車が止まった。
「着いたようね」
「そうですね」
シスターリゼリアの声に、私は頷く。
キネーラ連合王国中央王都ヘンブル。その真ん中にそびえ立つ、バルセネア宮殿。
やることは色々できた。けれども今やるべきことは。
――まずはメドウィカ様にお会いしなければね。全てはそれからよ。
「どうぞクラリス様」
「ええ」
差し出されたゼストの手を取り、私は馬車を降りた。
25
お気に入りに追加
5,358
あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。

罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします
皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。
完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる