今日、私は貴方の元を去ります。

蓮実 アラタ

文字の大きさ
上 下
7 / 28

7 悪役は稀代の愛し子

しおりを挟む
「あら、そういえばクラリスさんはグレイブル王国出身だったわね。じゃあ知らないのも無理ないわ」

 そういうとシスターリゼリアは『精霊王の愛し子』について説明してくれた。

「『精霊王の愛し子』というのはまぁ、その名の通り精霊に愛された者のこと。精霊の中にも序列があって、その一番偉い精霊王に好かれた人間は、無条件で精霊に愛されるのです。まぁ要するに今のあなたの状態ですね」

『愛し子!』
『僕たち愛し子大好き!』
『精霊王さま認めたにんげん!』
『クラリス、僕たちの友だち!』

 テーブルの上ではいはーいと、挙手をして話す精霊たち。
 小さいサイズのそれらが群がるようにして私の元へ来ようとするのを見て、何となく愛し子がどういうものであるのかはわかった。
 しかし、なぜ私が愛し子に選ばれたのかが分からない。

「どうして私が?」
「それは私にも分かりませんわ。ただ一つ言えることはあなたはどこかで精霊王に会い、そして好かれた。だから精霊たちがこうもあなたに構おうとするのね」
「どこかで会った……? 全く身に覚えがないのですけれど……」
「まぁ精霊王は強大な力を持つ存在ですので、まずめったに姿を現しません。そして人間に化けることもできるそうですから、案外あなたの側にいて、見守っているのかもしれませんわ」
「近くで見守る……」

 そう呟いて、ふと、ゼストと視線があった。
 朱金の髪を煌めかせて、にっこりと微笑むゼスト。
 その不意打ちの微笑みに頬を赤く染めた私は、慌ててゼストから顔を背けた。

「そ、それは分からないけれど! 愛し子は何かできたりするんですか?」
「そうね……色んなことができるわ。それこそ空を飛んだり、天候を操ったり、なんでもできる。望めば、精霊が手を貸してくれるから。だから『愛し子』はキネーラでは神聖な存在とされるのです。グレイブル王国でいう『聖女』と言ったところかしら」
「なんでも……」
「そう。だからあなたはシスターとしてではなく、『精霊王の愛し子』としてもてなすためにこの屋敷へと案内しました。これからもここに住んでいただいて大丈夫ですわ」
「……はい」

 精霊王の愛し子。
 精霊に愛された特別な存在。
 無条件で精霊に愛され、しようと思えばなんでもできる特別な存在。

 それはまるで――。

 ……聖女のよう。
 グレイブル王国では奇跡の御業を授かった聖女も同じ。
 神に愛された使徒。神の愛し子。尋常ならざる奇跡を起こし、全ての怪我や病を治癒する力を与えられた人間。

 ――リーン様は今、何を思っているのかしら。

 殿下の新しい婚約者となり、私の座を奪った正当なヒロイン。
 突然強大な力を手に入れた人間は、どうなるのか――。

 どうか間違った方向へ進まないといいのだけれど。
 ゲームでの顛末を知っている私は、ただ祈ることしかできない。

 群がってくる精霊を腕に抱きながら、私は開け放たれた窓からもう帰れなくなった故郷へと目を向けた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

処理中です...