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1章 追放までのあれこれ。
3,そもそもの経緯は
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乙女ゲームのライバルと言えるヒロインと悪役令嬢が手を組むなど誰が考えるだろうか。
いやここに考えたヤツがいたりするけれど、こうなったのにはきちんとした経緯があった。
私が前世の記憶に気づいたのは10歳の時。
ふと自分が「大上アリサ」という日本人の大学生なのだと思い出した。
そしてほぼ時を同じくしてセジュナも自分が「有神セナ」という人物であったことに気づいたらしい。
ゲームが始まる前に記憶を取り戻した私たちは、自分が転生したのならあの時一緒に死んだ仲間ももしかしたら転生しているかもしれないと考え、互いに接触しようと試みていた。
そしてあのサロンで「私」と「セナ」は出会うことができた。
それはひとつの運命であったかもしれない。
あの問答で互いが前世持ちだと気づいた私たちは話をするうちにそれぞれが前世の親友であることに気づき、互いの死に泣いて、再会を喜んだ。
しかし、私たちの互いの立場は複雑なモノになっていた。
片やゲームのヒロイン、片やそのヒロインのライバルとなる悪役令嬢。
当然悩まない訳がなかった。
私はせっかく会えたセナと今世でも仲良くしたかったし、セナも私とはヒロインと悪役令嬢なんて関係なく親友でいたいと言ってくれた。
悩みに悩んだが、直ぐに答えは出た。
私たちは前世で親友だった。
それも死ぬまで一緒にいた大親友だ。
そこにゲームの役割など関係ない。
私たちがそう在りたいと思えば、そうあればいいのだ、と。
そしてゲームに関係なく私たちは、今世でも一番仲良しな「大親友」だった。
そもそも私たちが協力して手を組むことになったのは何気ないセナの一言から始まったのだ。
セナを私の屋敷に招いて二人でお茶会の真似事をしていた時のこと。
「んー、どうせ聖オトの世界に生まれたのならゲームを楽しみたいんだよねぇ、でも私はセラーイズル王子が推しキャラだし結婚するなら王子がいいなぁ。あーでもこのままいくと王子はアリサと結婚だよねぇー」
その一言に私は運悪く口に含んでいた紅茶を吐きそうになり、ゲホゲホとむせる。
あのナルシスト王子と結婚!? 冗談じゃない!!
考えただけでもおぞましくなり、鳥肌がたつ。
「やめてよセナ! 私が王子好きじゃないの知ってるでしょ!?」
セナはそこでニヤリと笑う。
わかってて言ったなこの野郎。
前世ではセナと聖オトの話をよくしていたので私の王子嫌いを彼女はよく知っていた。
「セナの王子様はヴェガ様だもんねー。じゃあヴェガ様とは結婚したいとは思わないの?」
「確かに私はヴェガ様推しだけど結婚とかはなぁ……恋愛的な好きっていうより憧れって感じだからないかも。それよりか私は旅がしてみたいな。もう前世ではできないし、この世界で旅してみるのも楽しそうじゃない?」
私の言葉にセナが顔を曇らせる。
ん、どうしたんだろう。何か変なこと言ったかな。
「確かにアリサは昔から外国とか好きだったもんねー……。でも旅は無理じゃないかなぁ。だってアリーシャは公爵家だよ。大貴族じゃない」
そこで私はセナが言わんとしていることを理解した。
「あ……」
アリーシャ・ウルズ・オーウェンはこの国の代表とも言える名家の令嬢だった。
オーウェン公爵家はこのアルメニア国きっての名門貴族。
父は宰相旗下の王の信頼厚き外務大臣。
母方の実家であるクローエンシュルツ侯爵家ですら代々近衛騎士を輩出する名家である。
そして何よりアリーシャ自身がこの国の王子であるセラーイズル殿下の婚約者。
アリーシャは未来の王妃として専ら注目を集める存在であった。
そのような存在が気軽に旅になど出られる訳が無い。
王妃、か……。
「王妃とか嫌だなぁ……面倒くさそう……セラーイズル王子と結婚したくない……」
第一セラーイズル王子は私の好みではない。
結婚など願い下げだ。どうしても結婚しなければならないのならそれこそヴェガ様がいい。
あんな隠れナルシストは御免だ。
「えー。私はセラーイズル王子好きだけどなぁ。どことなくイズル君に似てるし。名前もだけど。アリサが嫌なら本気で狙おうかなぁ。私ヒロインだしやろえと思えばできそう」
セナが髪の毛をクルクルと回しながら呟く。
その表情はどこか切なげで。
そこでハッとした。
そうだ。セナは前世で彼氏であったイズル君を失ってしまったんだ。
まだ付き合って間もなかった2人。似ている人がいたら気になるのはある意味当然といえるだろう。
確かにどことなくセラーイズル王子とイズル君は面影が似ている。性格はまるで正反対だが。
私は王子と結婚なんかゴメンだし、むしろセナに全力で婚約者の座を譲りたい。
今すぐにでも。
私は公爵令嬢なんて気質ではないし、淑女でもない。
お淑やかな「深窓の令嬢」みたく家に閉じこもっているのは耐えられないし、せっかくゲームの世界に転生したのだ、外の世界を見て回りたい。
しかし現実はそう簡単にはいかない。
どうしたものか。
それこそ聖オトの断罪イベントみたく私が追放されればセナは王子と結ばれて、私は自由になれるのに──……
そこまで思考して、私はふと我に返る。
──んん?
断罪イベント?
追放? 自由になれる?
「……そうだ、それだ」
なぜ思いつかなかったのだろう。
ここはまさに聖オトの、ゲームの世界じゃないか!そして私は悪役令嬢、セナはヒロイン。
まさしくそのために生まれてきたような配役じゃないか!
私はテーブルに手をつくとセナに向き直る。
その手を取って握った。
「セナ! 断罪イベントだよ、断罪イベント!」
「へ? 断罪イベント? 断罪イベントがどうかしたの?」
セナは訳が分からないと言うふうに首を傾げる。
ああもう、説明しなきゃ分からないかな。
「断罪イベントを利用すれば私は王子との婚約破棄で追放になって自由の身になれるし、セナは王子と婚約者になって結婚できるじゃない!」
断罪イベント。
学園で運命の出会いを果たしたヒロインと王子が互いに惹かれ合い、逢瀬を重ねるようになる。
王子の婚約者であったアリーシャは心が離れていく王子に焦り、王子の心を奪ったセジュナを恨むようになる。
嫉妬に狂ったアリーシャはセジュナに何かにつけて当たるようになり、それは陰湿ないじめへと次第に変貌する。
セジュナは王子に助けを求め、学園の創立記念パーティの日にアリーシャを断罪し、婚約破棄を突きつける。
この後セジュナは王子の婚約者となり、未来の王妃を陥れようとしたアリーシャはその罪で国外追放となる。
そう、これを利用すればセナは王子と結婚できるし、私は国外追放で自由の身となる。
二人の願いも叶ってまさにwin-winではないか。
セナも私の言いたいことを理解したのかその目を次第に輝かせる。
「え、何それ天才じゃん! 何その名案。全然考えつかなかった、盲点だったわ。断罪イベント……最高じゃない。アリサ!」
「セナ!」
私たちは互いに向き直ると互いに熱い握手を交わす。
「よし決めた、私全力で追放される!協力してね『セジュナ』!」
「うん、全力で追放する!協力してね『アリーシャ』!」
こうして私たちは互いに断罪イベント(ハッピーエンド)に向けて行動を開始したのだった。
いやここに考えたヤツがいたりするけれど、こうなったのにはきちんとした経緯があった。
私が前世の記憶に気づいたのは10歳の時。
ふと自分が「大上アリサ」という日本人の大学生なのだと思い出した。
そしてほぼ時を同じくしてセジュナも自分が「有神セナ」という人物であったことに気づいたらしい。
ゲームが始まる前に記憶を取り戻した私たちは、自分が転生したのならあの時一緒に死んだ仲間ももしかしたら転生しているかもしれないと考え、互いに接触しようと試みていた。
そしてあのサロンで「私」と「セナ」は出会うことができた。
それはひとつの運命であったかもしれない。
あの問答で互いが前世持ちだと気づいた私たちは話をするうちにそれぞれが前世の親友であることに気づき、互いの死に泣いて、再会を喜んだ。
しかし、私たちの互いの立場は複雑なモノになっていた。
片やゲームのヒロイン、片やそのヒロインのライバルとなる悪役令嬢。
当然悩まない訳がなかった。
私はせっかく会えたセナと今世でも仲良くしたかったし、セナも私とはヒロインと悪役令嬢なんて関係なく親友でいたいと言ってくれた。
悩みに悩んだが、直ぐに答えは出た。
私たちは前世で親友だった。
それも死ぬまで一緒にいた大親友だ。
そこにゲームの役割など関係ない。
私たちがそう在りたいと思えば、そうあればいいのだ、と。
そしてゲームに関係なく私たちは、今世でも一番仲良しな「大親友」だった。
そもそも私たちが協力して手を組むことになったのは何気ないセナの一言から始まったのだ。
セナを私の屋敷に招いて二人でお茶会の真似事をしていた時のこと。
「んー、どうせ聖オトの世界に生まれたのならゲームを楽しみたいんだよねぇ、でも私はセラーイズル王子が推しキャラだし結婚するなら王子がいいなぁ。あーでもこのままいくと王子はアリサと結婚だよねぇー」
その一言に私は運悪く口に含んでいた紅茶を吐きそうになり、ゲホゲホとむせる。
あのナルシスト王子と結婚!? 冗談じゃない!!
考えただけでもおぞましくなり、鳥肌がたつ。
「やめてよセナ! 私が王子好きじゃないの知ってるでしょ!?」
セナはそこでニヤリと笑う。
わかってて言ったなこの野郎。
前世ではセナと聖オトの話をよくしていたので私の王子嫌いを彼女はよく知っていた。
「セナの王子様はヴェガ様だもんねー。じゃあヴェガ様とは結婚したいとは思わないの?」
「確かに私はヴェガ様推しだけど結婚とかはなぁ……恋愛的な好きっていうより憧れって感じだからないかも。それよりか私は旅がしてみたいな。もう前世ではできないし、この世界で旅してみるのも楽しそうじゃない?」
私の言葉にセナが顔を曇らせる。
ん、どうしたんだろう。何か変なこと言ったかな。
「確かにアリサは昔から外国とか好きだったもんねー……。でも旅は無理じゃないかなぁ。だってアリーシャは公爵家だよ。大貴族じゃない」
そこで私はセナが言わんとしていることを理解した。
「あ……」
アリーシャ・ウルズ・オーウェンはこの国の代表とも言える名家の令嬢だった。
オーウェン公爵家はこのアルメニア国きっての名門貴族。
父は宰相旗下の王の信頼厚き外務大臣。
母方の実家であるクローエンシュルツ侯爵家ですら代々近衛騎士を輩出する名家である。
そして何よりアリーシャ自身がこの国の王子であるセラーイズル殿下の婚約者。
アリーシャは未来の王妃として専ら注目を集める存在であった。
そのような存在が気軽に旅になど出られる訳が無い。
王妃、か……。
「王妃とか嫌だなぁ……面倒くさそう……セラーイズル王子と結婚したくない……」
第一セラーイズル王子は私の好みではない。
結婚など願い下げだ。どうしても結婚しなければならないのならそれこそヴェガ様がいい。
あんな隠れナルシストは御免だ。
「えー。私はセラーイズル王子好きだけどなぁ。どことなくイズル君に似てるし。名前もだけど。アリサが嫌なら本気で狙おうかなぁ。私ヒロインだしやろえと思えばできそう」
セナが髪の毛をクルクルと回しながら呟く。
その表情はどこか切なげで。
そこでハッとした。
そうだ。セナは前世で彼氏であったイズル君を失ってしまったんだ。
まだ付き合って間もなかった2人。似ている人がいたら気になるのはある意味当然といえるだろう。
確かにどことなくセラーイズル王子とイズル君は面影が似ている。性格はまるで正反対だが。
私は王子と結婚なんかゴメンだし、むしろセナに全力で婚約者の座を譲りたい。
今すぐにでも。
私は公爵令嬢なんて気質ではないし、淑女でもない。
お淑やかな「深窓の令嬢」みたく家に閉じこもっているのは耐えられないし、せっかくゲームの世界に転生したのだ、外の世界を見て回りたい。
しかし現実はそう簡単にはいかない。
どうしたものか。
それこそ聖オトの断罪イベントみたく私が追放されればセナは王子と結ばれて、私は自由になれるのに──……
そこまで思考して、私はふと我に返る。
──んん?
断罪イベント?
追放? 自由になれる?
「……そうだ、それだ」
なぜ思いつかなかったのだろう。
ここはまさに聖オトの、ゲームの世界じゃないか!そして私は悪役令嬢、セナはヒロイン。
まさしくそのために生まれてきたような配役じゃないか!
私はテーブルに手をつくとセナに向き直る。
その手を取って握った。
「セナ! 断罪イベントだよ、断罪イベント!」
「へ? 断罪イベント? 断罪イベントがどうかしたの?」
セナは訳が分からないと言うふうに首を傾げる。
ああもう、説明しなきゃ分からないかな。
「断罪イベントを利用すれば私は王子との婚約破棄で追放になって自由の身になれるし、セナは王子と婚約者になって結婚できるじゃない!」
断罪イベント。
学園で運命の出会いを果たしたヒロインと王子が互いに惹かれ合い、逢瀬を重ねるようになる。
王子の婚約者であったアリーシャは心が離れていく王子に焦り、王子の心を奪ったセジュナを恨むようになる。
嫉妬に狂ったアリーシャはセジュナに何かにつけて当たるようになり、それは陰湿ないじめへと次第に変貌する。
セジュナは王子に助けを求め、学園の創立記念パーティの日にアリーシャを断罪し、婚約破棄を突きつける。
この後セジュナは王子の婚約者となり、未来の王妃を陥れようとしたアリーシャはその罪で国外追放となる。
そう、これを利用すればセナは王子と結婚できるし、私は国外追放で自由の身となる。
二人の願いも叶ってまさにwin-winではないか。
セナも私の言いたいことを理解したのかその目を次第に輝かせる。
「え、何それ天才じゃん! 何その名案。全然考えつかなかった、盲点だったわ。断罪イベント……最高じゃない。アリサ!」
「セナ!」
私たちは互いに向き直ると互いに熱い握手を交わす。
「よし決めた、私全力で追放される!協力してね『セジュナ』!」
「うん、全力で追放する!協力してね『アリーシャ』!」
こうして私たちは互いに断罪イベント(ハッピーエンド)に向けて行動を開始したのだった。
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