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番外編 そんな大牙の最近の悩み 1
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――俺、支倉大牙には彼女がいる。
隣の家に住んでいる幼馴染、宵月未桜だ。
四人姉妹の末っ子で、つい最近ようやく成熟した夢魔と人間のハーフである彼女の未桜。
夢魔である母親の血を受け継いで妖艶な雰囲気の三人の姉たちとは違い、未桜は赤い目以外の夢魔らしい特徴を受け継がなかった。
出るとこは出て引き締まったところは引き締まったメリハリのある体つきの姉たちに対して、全体的に華奢で小柄。胸も同世代の人達に比べれば非常に控えめで清楚な体つき。
校則に則って着崩すことも無くきっちりと制服のブレザーを着用し、いつも教室の隅っこで大人しく本を読んでいるような地味で目立たない性分。
そんな性格のせいかあまり陽の当たる場所にいないせいで顔色はただでさえ白い上に、目元を覆い隠すように伸ばした前髪。さらに瓶底のような眼鏡をかけているため非常に野暮ったい印象を受ける。
昔は年相応に明るく可愛らしい笑顔を見せていたはずなのに、いつからか未桜は人前で感情を顕にすることがなくなった。
未桜が俺の前で笑わなくなったのはいつからだろうか。
俺は未桜の笑顔を見るのが好きだった。未桜が笑うと周りに花が咲いたように場が明るくなる。無邪気に笑うその姿は誰をも心から幸せにするような笑みだった。
誰しもを魅了する未桜の笑みを俺は独り占めしたくて仕方がなかったものだ。
――けれど。
あの瞬間から未桜は笑わなくなってしまった。
俺が、未桜から笑顔を奪ってしまった。
きっかけはほんの些細なことだった。今となってみては自分勝手なガキの思考だったと理解できる。
あの時の俺は本当に愚かなやつだった。あの時に戻れるのなら自分で自分を殴ってやりたいくらいだ。
あの時いつもように無邪気に笑った未桜を見て、クラスの男共が未桜に見惚れていた。
少し歳の離れた末っ子を可愛がっている宵月姉妹達はたまに未桜を着せ替え人形よろしく色々な服を着せたり変わった髪型をさせて遊ぶことがある。
その日も未桜は三人の姉につかまってお人形のように遊ばれていた。
おかげでいつもより可愛らしさが増した未桜に周囲の人間が群がっているのを俺は敏感に感じとっていた。
クォーターとはいえ俺も狼人間の血を引いている。自分の『お気に入り』という名の縄張りに他の人間が干渉してくることが非常に面白くなかった。
……そうだ。
俺はあの時未桜を自分の所有物であるかのように錯覚していたんだ。
幼馴染でいつも一緒にいた。誰よりも長くそばにいて付き合ってきた。未桜のことは誰よりも一番俺が知っている。
――そんな奢りが、そんな思い上がりが、未桜を間接的に傷つけていたとは知らずに。
普段はどちらかといえば地味な印象の未桜。
注意してみれば実に可愛らしい顔立ちの彼女が着飾れば当然可愛くなるに決まっている。
普段は目もくれていなかったくせにこんな時だけもてはやしてくる男共に無性に腹が立った。
そしてそんな男どもに無邪気に笑顔を振りまく未桜にも腹が立った。
このままでは未桜をとられてしまう。コイツは俺の物だ。
未桜も俺のそばでだけ笑っていればいい。その存在も笑顔も俺の物だ。俺だけのものだ。
手は出させはしない。未桜は俺のものだ。
そう思うと我慢が出来なくなった。非常に不愉快で、一刻も早く未桜から男共を引き剥がしたくて。だから思ってもみなかったことを言ってしまったのだ。
「コイツのどこが可愛いんだよ! 痩せこけている上に目だけ大きいとか化け物みたいだろ!!」
怒りと焦りから発したこの言葉は彼女を傷つけた。
誰よりも大事にしていたはずの最愛の彼女を俺が傷つけてしまった。
それ以来、未桜は目を前髪で隠し、眼鏡をするようになった。感情らしい感情を表すこともなく、ひたすら地味に生きるようになった。
やってはならないことをしたのだと、後になって気づいた俺はさらに最低なことにこれでよかったんだと思ってしまった。
これで未桜が注目されることはなくなった。
彼女を気にするものはいない。俺だけが未桜を見ていられる。
未桜を永遠に独り占めできると、ほの暗い感情に優越感すら覚えた。
本当に最低なヤツだ。
自分の都合で彼女を傷つけたくせに、それでよかったのだとむしろこれで彼女を自分だけのものにできると喜んでいたのだ。
なんて愚かなんだろうか。
未桜の気持ちを無視して自分の都合だけを考えて。
俺は本当にどうしようもないやつだ。自分で自分が嫌になる。
彼女はものではない。意志を持った人間だ。生きている人間だ。
俺は何も分かっていなかった。彼女を独り占めしたいあまり、やってはいけないことをした。
だからもう間違いは侵さない。
こんな最低な俺を好きだと言ってくれた未桜のために。こんな俺を許してくれた未桜のために。
彼女だってしたかったことはあるはずだ。本だけを友達として生きてきた彼女にもやりたかったことがあるはずだ。
だから俺はもう彼女を縛ったりはしない。同じ過ちは繰り返さない。
未桜を傷つけるようなことはもう二度としないと固く誓った。
――そう、誓ったのだ。俺は。
未桜の幸せを絶対に邪魔しないのだと……。
*
「ねえねえ、こっちのほうがいいんじゃない?」
「あー、確かに。可愛いわ~」
「いやーでもこっちも捨て難いよ??」
「んー、迷うなー。ねえ大牙、どっちがいい?」
くるりと振り向いた未桜がふたつの服を手に問いかけてくる。
俺はつとめて平静を装い、裏返りそうな声を無理やり押さえつけて答えた。
「右のほうがいいと思うぞ」
俺の返答に未桜は数秒迷うような素振りを見せたあと、ぱあっと嬉しそうに顔を輝かせてにっこりと頷いた。
「そっか! 大牙がそういうならこっちにするね!」
「……! お、おう……」
不意打ちの笑顔にドクンと胸が高鳴り顔が赤くなる。
赤くなった顔がばれないように目を逸らしてぶっきらぼうな声で答えると、未桜は特に気にした様子もなく、「じゃあ買ってくるね!」と弾むような足取りでレジへと歩いていった。
ホッと一息着いた途端、横からぬっと声が割り込んできた。
「おーっと大牙君顔が赤いようだねえ。これは未桜の笑顔にやられたとみましたよ奥さん」
「そうですねえ、心無しか体温と心拍数が上昇している模様。可愛すぎる彼女にドキドキするとはさすが思春期真っ只中の少年よ!」
「格好はちゃらけてるのに心は純朴少年。ギャップがいいねえ!」
三者三様に突っ込まれる声にげんなりとしながら俺は一応ツッコミを入れる。
「頼みますから俺で遊ぶのはやめてくださいませんかね。花蓮さん柚葉さん杏珠さん……」
宵月四姉妹の姉三人組に一斉に茶々をいれられて脱力する。
昔からの付き合いでこの姉ズに勝てないのは分かっているのでいちいち反抗する気は起きない。
そもそも今日は未桜と二人でデートのはずだったのになぜこの人たちがいるのか……。
俺は今日何度目かしれないため息をつきながら、宵月の姉三人組に目をやる。
「なーにをいってるんだね。こーんな美人三人も連れてるんだぞぉ? そこは喜ぶとこじゃないか!」
「本当だよ。こんなチャンス二度とないぞー夢のハーレムじゃないか」
「美女三人を引き連れるとか男なら光栄の極みだろ? 泣いて喜べよ?」
「俺は未桜と二人で来たかったんですが……」
自分で自分を美人と言うこの自意識過剰ぶり。とても自分に自信を持てなかった未桜の姉とは思えない。
まあ、この人たちの場合は滅多にお目にかかれないレベルの美女なので全く嘘ではないのだが……。
現に遠巻きに美貌の姉三人組は注目を浴びていて、俺はそんな周りの野郎共からの羨望の眼差しを集めつつあり、すごく居心地が悪い。
おかしい。今日は連休の初日で未桜とデートに行く約束をしていたはずなのに、なぜ俺は野郎共からの妬みの視線を浴びせられなければならないのか。
楽しみにしていたデートが早くも散々な一日になりつつあることに意気消沈しながら俺はとりあえず未桜の帰りを待つことにする。
目に見えてテンションが下がり黙ってしまった俺に姉三人組の一人、長女の花蓮さんが苦笑しながら話しかけてくる。
「そんなに落ち込まないで少年。私も邪魔する気はなかったんだよ。ただ未桜に頼まれてさぁ。可愛い末っ子の頼みとあれば応じない訳にも行かなかったんだよ」
「未桜の頼み……?」
「そうそう。不安だから着いてきてって言われてさ。だから気が引けたけど着いてきたんだよ」
「不安……?」
不安とは……未桜が何を不安に思っているということだろうか。
デートにわざわざ姉に着いてきてもらうということはよっぽど困ったことに違いない。俺に対するなにかの不安だろうか。どうしよう、思い当たることしかなさすぎる。
なにかしただろうか。いやそれとも知らない間になにかしてしまって、また未桜を傷つけてしまったのだろうか。
何たることだ。
未桜を傷つけるようなことはしないと固く誓ったというのに。また俺は知らず知らずのうちに彼女に不安を感じさせるようなことをしていたというのか。
俺は一気に焦りが募り、顔色が悪くなる。
「ん? なにか誤解してる? ……あ、いや大牙君に対しての不安じゃないよ!? 違うからね?」
俺が目に見えて焦っているのが丸わかりだったのか、花蓮さんが何故か慌てている。
慌ててフォローする当たりが怪しい。やはり未桜は俺に対してなにか不安に思っていることがあるんじゃないだろうか……。
さらに顔色が悪くなった俺に、花蓮さんが困ったように頬をポロポリとかく。
「あー完全に誤解してる……。だから違うんだよぉー。んー……あっ、ちょうどいい所に! ほら、大牙君。不安に思ってるのは大牙君じゃないんだよ。ほら、ちょっと後ろ振り向いてみて!!」
「後ろ……?」
何かに気づいたのかぐいぐいと袖を引いて後ろを向くよう促してくる花蓮さんを訝しみながらも言われた通りに後ろを振り向き――
「――……!!」
そして飛び込んできた光景に俺は言葉を失った。
隣の家に住んでいる幼馴染、宵月未桜だ。
四人姉妹の末っ子で、つい最近ようやく成熟した夢魔と人間のハーフである彼女の未桜。
夢魔である母親の血を受け継いで妖艶な雰囲気の三人の姉たちとは違い、未桜は赤い目以外の夢魔らしい特徴を受け継がなかった。
出るとこは出て引き締まったところは引き締まったメリハリのある体つきの姉たちに対して、全体的に華奢で小柄。胸も同世代の人達に比べれば非常に控えめで清楚な体つき。
校則に則って着崩すことも無くきっちりと制服のブレザーを着用し、いつも教室の隅っこで大人しく本を読んでいるような地味で目立たない性分。
そんな性格のせいかあまり陽の当たる場所にいないせいで顔色はただでさえ白い上に、目元を覆い隠すように伸ばした前髪。さらに瓶底のような眼鏡をかけているため非常に野暮ったい印象を受ける。
昔は年相応に明るく可愛らしい笑顔を見せていたはずなのに、いつからか未桜は人前で感情を顕にすることがなくなった。
未桜が俺の前で笑わなくなったのはいつからだろうか。
俺は未桜の笑顔を見るのが好きだった。未桜が笑うと周りに花が咲いたように場が明るくなる。無邪気に笑うその姿は誰をも心から幸せにするような笑みだった。
誰しもを魅了する未桜の笑みを俺は独り占めしたくて仕方がなかったものだ。
――けれど。
あの瞬間から未桜は笑わなくなってしまった。
俺が、未桜から笑顔を奪ってしまった。
きっかけはほんの些細なことだった。今となってみては自分勝手なガキの思考だったと理解できる。
あの時の俺は本当に愚かなやつだった。あの時に戻れるのなら自分で自分を殴ってやりたいくらいだ。
あの時いつもように無邪気に笑った未桜を見て、クラスの男共が未桜に見惚れていた。
少し歳の離れた末っ子を可愛がっている宵月姉妹達はたまに未桜を着せ替え人形よろしく色々な服を着せたり変わった髪型をさせて遊ぶことがある。
その日も未桜は三人の姉につかまってお人形のように遊ばれていた。
おかげでいつもより可愛らしさが増した未桜に周囲の人間が群がっているのを俺は敏感に感じとっていた。
クォーターとはいえ俺も狼人間の血を引いている。自分の『お気に入り』という名の縄張りに他の人間が干渉してくることが非常に面白くなかった。
……そうだ。
俺はあの時未桜を自分の所有物であるかのように錯覚していたんだ。
幼馴染でいつも一緒にいた。誰よりも長くそばにいて付き合ってきた。未桜のことは誰よりも一番俺が知っている。
――そんな奢りが、そんな思い上がりが、未桜を間接的に傷つけていたとは知らずに。
普段はどちらかといえば地味な印象の未桜。
注意してみれば実に可愛らしい顔立ちの彼女が着飾れば当然可愛くなるに決まっている。
普段は目もくれていなかったくせにこんな時だけもてはやしてくる男共に無性に腹が立った。
そしてそんな男どもに無邪気に笑顔を振りまく未桜にも腹が立った。
このままでは未桜をとられてしまう。コイツは俺の物だ。
未桜も俺のそばでだけ笑っていればいい。その存在も笑顔も俺の物だ。俺だけのものだ。
手は出させはしない。未桜は俺のものだ。
そう思うと我慢が出来なくなった。非常に不愉快で、一刻も早く未桜から男共を引き剥がしたくて。だから思ってもみなかったことを言ってしまったのだ。
「コイツのどこが可愛いんだよ! 痩せこけている上に目だけ大きいとか化け物みたいだろ!!」
怒りと焦りから発したこの言葉は彼女を傷つけた。
誰よりも大事にしていたはずの最愛の彼女を俺が傷つけてしまった。
それ以来、未桜は目を前髪で隠し、眼鏡をするようになった。感情らしい感情を表すこともなく、ひたすら地味に生きるようになった。
やってはならないことをしたのだと、後になって気づいた俺はさらに最低なことにこれでよかったんだと思ってしまった。
これで未桜が注目されることはなくなった。
彼女を気にするものはいない。俺だけが未桜を見ていられる。
未桜を永遠に独り占めできると、ほの暗い感情に優越感すら覚えた。
本当に最低なヤツだ。
自分の都合で彼女を傷つけたくせに、それでよかったのだとむしろこれで彼女を自分だけのものにできると喜んでいたのだ。
なんて愚かなんだろうか。
未桜の気持ちを無視して自分の都合だけを考えて。
俺は本当にどうしようもないやつだ。自分で自分が嫌になる。
彼女はものではない。意志を持った人間だ。生きている人間だ。
俺は何も分かっていなかった。彼女を独り占めしたいあまり、やってはいけないことをした。
だからもう間違いは侵さない。
こんな最低な俺を好きだと言ってくれた未桜のために。こんな俺を許してくれた未桜のために。
彼女だってしたかったことはあるはずだ。本だけを友達として生きてきた彼女にもやりたかったことがあるはずだ。
だから俺はもう彼女を縛ったりはしない。同じ過ちは繰り返さない。
未桜を傷つけるようなことはもう二度としないと固く誓った。
――そう、誓ったのだ。俺は。
未桜の幸せを絶対に邪魔しないのだと……。
*
「ねえねえ、こっちのほうがいいんじゃない?」
「あー、確かに。可愛いわ~」
「いやーでもこっちも捨て難いよ??」
「んー、迷うなー。ねえ大牙、どっちがいい?」
くるりと振り向いた未桜がふたつの服を手に問いかけてくる。
俺はつとめて平静を装い、裏返りそうな声を無理やり押さえつけて答えた。
「右のほうがいいと思うぞ」
俺の返答に未桜は数秒迷うような素振りを見せたあと、ぱあっと嬉しそうに顔を輝かせてにっこりと頷いた。
「そっか! 大牙がそういうならこっちにするね!」
「……! お、おう……」
不意打ちの笑顔にドクンと胸が高鳴り顔が赤くなる。
赤くなった顔がばれないように目を逸らしてぶっきらぼうな声で答えると、未桜は特に気にした様子もなく、「じゃあ買ってくるね!」と弾むような足取りでレジへと歩いていった。
ホッと一息着いた途端、横からぬっと声が割り込んできた。
「おーっと大牙君顔が赤いようだねえ。これは未桜の笑顔にやられたとみましたよ奥さん」
「そうですねえ、心無しか体温と心拍数が上昇している模様。可愛すぎる彼女にドキドキするとはさすが思春期真っ只中の少年よ!」
「格好はちゃらけてるのに心は純朴少年。ギャップがいいねえ!」
三者三様に突っ込まれる声にげんなりとしながら俺は一応ツッコミを入れる。
「頼みますから俺で遊ぶのはやめてくださいませんかね。花蓮さん柚葉さん杏珠さん……」
宵月四姉妹の姉三人組に一斉に茶々をいれられて脱力する。
昔からの付き合いでこの姉ズに勝てないのは分かっているのでいちいち反抗する気は起きない。
そもそも今日は未桜と二人でデートのはずだったのになぜこの人たちがいるのか……。
俺は今日何度目かしれないため息をつきながら、宵月の姉三人組に目をやる。
「なーにをいってるんだね。こーんな美人三人も連れてるんだぞぉ? そこは喜ぶとこじゃないか!」
「本当だよ。こんなチャンス二度とないぞー夢のハーレムじゃないか」
「美女三人を引き連れるとか男なら光栄の極みだろ? 泣いて喜べよ?」
「俺は未桜と二人で来たかったんですが……」
自分で自分を美人と言うこの自意識過剰ぶり。とても自分に自信を持てなかった未桜の姉とは思えない。
まあ、この人たちの場合は滅多にお目にかかれないレベルの美女なので全く嘘ではないのだが……。
現に遠巻きに美貌の姉三人組は注目を浴びていて、俺はそんな周りの野郎共からの羨望の眼差しを集めつつあり、すごく居心地が悪い。
おかしい。今日は連休の初日で未桜とデートに行く約束をしていたはずなのに、なぜ俺は野郎共からの妬みの視線を浴びせられなければならないのか。
楽しみにしていたデートが早くも散々な一日になりつつあることに意気消沈しながら俺はとりあえず未桜の帰りを待つことにする。
目に見えてテンションが下がり黙ってしまった俺に姉三人組の一人、長女の花蓮さんが苦笑しながら話しかけてくる。
「そんなに落ち込まないで少年。私も邪魔する気はなかったんだよ。ただ未桜に頼まれてさぁ。可愛い末っ子の頼みとあれば応じない訳にも行かなかったんだよ」
「未桜の頼み……?」
「そうそう。不安だから着いてきてって言われてさ。だから気が引けたけど着いてきたんだよ」
「不安……?」
不安とは……未桜が何を不安に思っているということだろうか。
デートにわざわざ姉に着いてきてもらうということはよっぽど困ったことに違いない。俺に対するなにかの不安だろうか。どうしよう、思い当たることしかなさすぎる。
なにかしただろうか。いやそれとも知らない間になにかしてしまって、また未桜を傷つけてしまったのだろうか。
何たることだ。
未桜を傷つけるようなことはしないと固く誓ったというのに。また俺は知らず知らずのうちに彼女に不安を感じさせるようなことをしていたというのか。
俺は一気に焦りが募り、顔色が悪くなる。
「ん? なにか誤解してる? ……あ、いや大牙君に対しての不安じゃないよ!? 違うからね?」
俺が目に見えて焦っているのが丸わかりだったのか、花蓮さんが何故か慌てている。
慌ててフォローする当たりが怪しい。やはり未桜は俺に対してなにか不安に思っていることがあるんじゃないだろうか……。
さらに顔色が悪くなった俺に、花蓮さんが困ったように頬をポロポリとかく。
「あー完全に誤解してる……。だから違うんだよぉー。んー……あっ、ちょうどいい所に! ほら、大牙君。不安に思ってるのは大牙君じゃないんだよ。ほら、ちょっと後ろ振り向いてみて!!」
「後ろ……?」
何かに気づいたのかぐいぐいと袖を引いて後ろを向くよう促してくる花蓮さんを訝しみながらも言われた通りに後ろを振り向き――
「――……!!」
そして飛び込んできた光景に俺は言葉を失った。
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