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※3 リズベット・フラウは嘲笑う

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「ふふ、ついにこの時が来たのね……」

 隣の部屋にはレンヴォルトもいるのに、笑い声を抑えることができない。

「ふふ、ふふふ……!」

 口元を抑えて小刻みに震えるリズベット・フラウは今、これ以上ないくらいの幸福な気分だった。

「ついに、ついにやったわ……!」

 歓声を上げたいくらいだが、隣室で仕事をしているレンヴォルトにこの姿を見られる訳にはいかない。
 なんとももどかしい思いに包まれながら、それでもリズベットはベッドの中でゴロゴロと転がる。

 ――そう。私はついに手に入れたのよ。彼を。

 長年の想い実り、ついにリズベットはレンヴォルトを手に入れることができたのだ。
 今のリズベットにとってこれ以上の幸福はなかった。

「してやったわ。あの女からレンヴォルトを奪い返したのよ!!」

 リディス・エオリア。
 ここリオース王国で王族に次ぐ最古の家柄であり、歴代の聖女を生み出すという当代のエオリア侯爵家の聖女。

 その中でも歴代最強と言われる力を持ち、『聖女』の名に相応しい美貌と人格を兼ね備えたリディスのことをリズベットは心の底から憎んでいた。

 同じ侯爵家ということでリズベットの生家であるフラウ侯爵家との交流も深く、互いの年齢も同じ。
 それゆえにリズベットとリディスが親友となるのはある意味必然だっただろう。しかし同時にそれがリズベットにとっては苦痛でもあった。

 リディスはエオリア家の聖女となるべく幼い頃から英才教育を受けてきた。所作も振る舞いも、勉学も魔法も彼女にとっては全て完璧であることが求められていたのだ。

 けれど、リディスにはそれを全てこなせる才能と実力があった。厳しい教育にも耐え、己を練磨するリディスを当時のリズベットは純粋に尊敬していた。
 そんな彼女の親友であることに誇りさえあった。

 しかし。周りはリズベットとリディスをあらゆることにおいて比べた。
 同じ侯爵家で同じ歳。近しい間柄であったことで性格も、振る舞いも、魔法の才能すら完璧なリディスと比較され、卑下された。

 リズベットも彼女に少しでも近づこうと努力した。しかし現実は非情で、どれだけ努力しても完璧なリディスに追いつくことなど不可能。それでも周りは彼女と自分を比較してくる。自分の気持ちなど知らずに。

 リズベットに芽生えた暗い気持ちが憎悪へと変わったのは、リディスがある告白をしてきたことだった。

「私、レンヴォルトと結婚するの!」

 忘れもしない五年前。
 学園を卒業するその日、リズベットはリディスからそう聞かされた。

 レンヴォルト・ハンス。
 ハンス伯爵家子息で、将来を期待された騎士として令嬢の間でも人気があった彼。
 リズベットは密かに彼のことを慕っていた。

 そんな彼とリディスが結婚。
 リズベットの知らない間に両家に縁談の話が持ち上がり、学園を卒業したと同時に結婚することが決まっていたのだ。

「彼と結婚できるなんて夢みたい。これ以上の幸せはないわ!」

 そう言って嬉しそうに頬を染めて無邪気に報告してくるリディスに、憎悪の気持ちが芽生えた。
 許さない。美貌も、人格も、才能も。何もかもを持っている彼女リディス想い人レンヴォルトすら奪っていく。

 許せなかった。
 自分から全てを奪っていくリディス。
 自分だけ幸せになって、リズベットの気持ちすら無碍にした彼女のことを憎悪した。

「奪ってやる……」

 いつか必ず。
 レンヴォルトを奪い返して、貴女を嘲笑う。
 リズベットはそう固く決意し、二人の結婚式に参列した。

 そして五年後。その目的は成就された。
 長年慕っていた相手だ。レンヴォルトの好みは熟知している。そうして彼を籠絡し、リディスと離縁させるように仕向けた。

 お腹には最愛の彼の子どもを宿している。そして傍らには誰よりも愛するレンヴォルトがいる。
 これ以上ないくらいの幸せだった。

「ふふ、リディス。どうかしら? 全てを奪われた気分は」

 リディス。少しは絶望してくれているといいのだけれど。貴女が失意にまみれた顔を見られないのが実に残念だわ。
 貴女の不幸と絶望が今の私にとっては最高の復讐となるのだから。
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