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プロローグ
そんな二人の結論は
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「……………………は?」
長い長い沈黙の末に硬直からようやく解けたクラウスが発した言葉はその一言だった。
突然の事態に頭がついていかない。未知の事態に遭遇した時、人間は上手く物事を受け入れられなくなるのだと、クラウスは初めて知った。
――あの可憐なアイリスが、男? いやいやそんな訳がない。そうだ。だってアイリスはあんなに女らしくて完璧な令嬢じゃないか。
胸は確かに思ったより無かったが……世には貧乳な女性だって沢山いる! きっとアイリスはそういう女性の一人なんだ!
世の貧乳の女性が聞いたら目の色を変えそうなことを思いつつ、クラウスは未だ事実を受け入れられなかった。
「そんな訳がない! アイリスは可憐な女性じゃないか!」
ふるふると首を降って、自分で想定したのとは別の意味で現実逃避をはじめたクラウスに、アイリスはさらに追い打ちをかけるべくにこやかに畳みかける。
「そんなに信じられないのなら下の方も確認されますか?」
そのまま掴んでいたクラウスの左手を下の方へと持っていき、ドレスの上から男の象徴たるモノへ導かんとして――
「うわああ!! いい!! いいから!!」
「そうですか……」
我に返ってアイリスの言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にしたクラウスが慌てて左手をアイリスから奪取する。
アイリスは至極残念そうに呟いたのを聞き、クラウスは密かに戦慄した。
「納得されましたか? 殿下?」
「……納得した。アイリスは……男なんだな」
「はい。そうです」
そう言って嬉しそうに頷くアイリスを見て、クラウスは今まで己が信じていた何かが崩れ去るのを感じた。
「それで、殿下は私が女だと思っていたから婚約破棄しようと思っていらしたんですよね?」
「あ、あぁ。そうだな……」
確かにそうだ。
今となってはあんまり認めたくはないが、クラウスはアイリスを女と信じて疑っていなかった。
だからこそ彼女の幸せを願って身を引こうとしたのだ。
――まぁ、彼女は彼だった訳だが。
「では私が男であると分かった以上、この婚約破棄は意味がありませんわね。私は婚約を解消致しませんわ。……殿下のことを愛しておりますから」
いつもの慈愛を湛えた笑みを浮かべ、翡翠の瞳を細めて告げられた一言にクラウスの心は震えた。
先程は色々混乱してしまったが、よく良く考えればこれは幸運なことなのではないか。
自分は女で、アイリスは男。
第二王子……もとい、第一王子が生まれたことで継承権は弟にうつり、自分は女として男であるアイリスと結ばれる。
それはクラウスにとってこの上ない理想の将来像であるように思えた。
男であると告げられた今も、アイリスへの思いは変わってはいない。そもそもクラウスにとって「アイリス」は「アイリス」であり、自分には持ち得ない女らしさを持つ彼女に憧憬の念は抱いていても、それは恋愛感情とは別物である。
色々想定外の出来事はあったが、もう悲観する必要はないのである。何を悩む必要があろうか。
このままアイリスと共に居られる。
その結論が、何よりもクラウスには嬉しかった。
「そうだな。婚約は破棄しない。先程の言葉は撤回だ。今後ともよろしく頼む。……アイリス、私はあなたを愛している」
「ええ、私も愛していますわ。殿下」
二人はそのまま自然に近づくと、見えない糸で引かれあったように互いを抱きしめる。
――良かった。アイリスを失わずにすんだ。
感動で涙ぐむクラウス。愛する婚約者を失わずにすんだという安堵で満たされている彼女は気づかなかった。
――背に回されたアイリスの手が、ガッツポーズを作っていたことに。
そしてクラウスを抱きしめた姿勢のまま、小さく「もう絶対逃がさない」と呟いて、その決意を顕にするように翡翠の瞳を爛々と輝かせていたことに。
長い長い沈黙の末に硬直からようやく解けたクラウスが発した言葉はその一言だった。
突然の事態に頭がついていかない。未知の事態に遭遇した時、人間は上手く物事を受け入れられなくなるのだと、クラウスは初めて知った。
――あの可憐なアイリスが、男? いやいやそんな訳がない。そうだ。だってアイリスはあんなに女らしくて完璧な令嬢じゃないか。
胸は確かに思ったより無かったが……世には貧乳な女性だって沢山いる! きっとアイリスはそういう女性の一人なんだ!
世の貧乳の女性が聞いたら目の色を変えそうなことを思いつつ、クラウスは未だ事実を受け入れられなかった。
「そんな訳がない! アイリスは可憐な女性じゃないか!」
ふるふると首を降って、自分で想定したのとは別の意味で現実逃避をはじめたクラウスに、アイリスはさらに追い打ちをかけるべくにこやかに畳みかける。
「そんなに信じられないのなら下の方も確認されますか?」
そのまま掴んでいたクラウスの左手を下の方へと持っていき、ドレスの上から男の象徴たるモノへ導かんとして――
「うわああ!! いい!! いいから!!」
「そうですか……」
我に返ってアイリスの言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にしたクラウスが慌てて左手をアイリスから奪取する。
アイリスは至極残念そうに呟いたのを聞き、クラウスは密かに戦慄した。
「納得されましたか? 殿下?」
「……納得した。アイリスは……男なんだな」
「はい。そうです」
そう言って嬉しそうに頷くアイリスを見て、クラウスは今まで己が信じていた何かが崩れ去るのを感じた。
「それで、殿下は私が女だと思っていたから婚約破棄しようと思っていらしたんですよね?」
「あ、あぁ。そうだな……」
確かにそうだ。
今となってはあんまり認めたくはないが、クラウスはアイリスを女と信じて疑っていなかった。
だからこそ彼女の幸せを願って身を引こうとしたのだ。
――まぁ、彼女は彼だった訳だが。
「では私が男であると分かった以上、この婚約破棄は意味がありませんわね。私は婚約を解消致しませんわ。……殿下のことを愛しておりますから」
いつもの慈愛を湛えた笑みを浮かべ、翡翠の瞳を細めて告げられた一言にクラウスの心は震えた。
先程は色々混乱してしまったが、よく良く考えればこれは幸運なことなのではないか。
自分は女で、アイリスは男。
第二王子……もとい、第一王子が生まれたことで継承権は弟にうつり、自分は女として男であるアイリスと結ばれる。
それはクラウスにとってこの上ない理想の将来像であるように思えた。
男であると告げられた今も、アイリスへの思いは変わってはいない。そもそもクラウスにとって「アイリス」は「アイリス」であり、自分には持ち得ない女らしさを持つ彼女に憧憬の念は抱いていても、それは恋愛感情とは別物である。
色々想定外の出来事はあったが、もう悲観する必要はないのである。何を悩む必要があろうか。
このままアイリスと共に居られる。
その結論が、何よりもクラウスには嬉しかった。
「そうだな。婚約は破棄しない。先程の言葉は撤回だ。今後ともよろしく頼む。……アイリス、私はあなたを愛している」
「ええ、私も愛していますわ。殿下」
二人はそのまま自然に近づくと、見えない糸で引かれあったように互いを抱きしめる。
――良かった。アイリスを失わずにすんだ。
感動で涙ぐむクラウス。愛する婚約者を失わずにすんだという安堵で満たされている彼女は気づかなかった。
――背に回されたアイリスの手が、ガッツポーズを作っていたことに。
そしてクラウスを抱きしめた姿勢のまま、小さく「もう絶対逃がさない」と呟いて、その決意を顕にするように翡翠の瞳を爛々と輝かせていたことに。
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