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1 捕まりました
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「――ユリア、この方が君の番となるお方だよ」
そう言われて初めて会ったあの日のことを、今でも鮮明に覚えている。
運命の番として紹介された彼は、この国の竜王の息子。
サラサラと流れる金色の髪と、緑の瞳が美しい、まさに絶世の美貌と称されるに相応しいお方。
こんな素敵な人が番だと紹介されたなら、世の女性は殆どがこの光栄な事態を受け入れたかもしれない。
むしろ自ら進んで望んだことだろう。
――けれど、世の全ての女性がそうなる訳ではない。
「こんにちは、ユリア。これからよろしくね?」
涼やかな声音は穏やかで、それだけで紳士的な人柄を表しているかのよう。
驚くほどの美貌に和やかな笑みを浮かべて差し出された手を、私は取ろうとして――。
パチンとその手を叩いてしまった。
「いや、無理……。ごめんなさい、本当に美形だけはムリ……」
背中に寒気が走り、一瞬は応えようとして差し出した手は発疹を起こし始める。
そう考える間に吐き気までしてきた。
「ごめんなさい! いくら番と言われても無理なものは無理ですっ!」
手を差し出したまま固まる彼を置いてけぼりにして、私はその場から脱走した。
そして――あれから十年の歳月が過ぎた。
♢♢
美形嫌い。
美形を目にしただけで寒気が走り、触れたとなれば肌という肌が発疹を起こしてしまう。
一種の拒絶反応と呼ばれるその症状を、私が発してしまったのはいつだったか。
「おかげ様で自分の顔すら見られないのだから、困ったものだわ」
メイドに支度をしてもらっている横で、私はそう一人ごちる。
ユリア・センクレア。
竜王が統べるこのラングレー王国にて、公爵を賜わるセンクレア公爵家に生まれた、いわゆる貴族令嬢である。
国一番の歌い手と言われ、その容貌と目立つ銀の髪から『麗銀の美姫』と呼ばれているらしい。
らしい、というのはそれら全てが今の私にとってはどうでも良いからだ。
「逃げ続けたけれど……それももう今日で終わり、なのね」
一人ごとを呟き続けてもメイドはそれを諌める言葉を一切言おうとしない。
ただ粛々と与えられた役目を遂行するのみ。
「ああ、とうとう初夜が来るなんて」
竜王の名の通り、竜の血脈が代々国を治めるラングレー王国では、王族にのみ受け継がれる性質がある。
それは、宿命の伴侶となる番がいること。
王族であれば男女どちらであろうと必ず番は現れるそうだ。
竜の血を濃く受け継いだラングレー王族はこの番のみを生涯愛し、尽くすのだと言われている。
そしてどうしたことか、そのラングレー王族の血族の一人、ディートルート殿下の番に私が選ばれてしまったという訳だ。
「なんで選ばれちゃったかなぁ……」
番はラングレー王国では成人と見なされる十八歳の夜に王城へ迎えられ、初夜を過ごすのが習わし。
私は先日ついに十八歳を迎えてしまい、逃げる間もなく王城へ連行されてしまった。
逃げ続けた前科があるからか、ディートルート殿下の行動は私の予想より遥かに早かった。
その結果椅子に座らされ、城のメイドに初夜の準備を進められている。
頭を抱える私をよそに、無表情のメイドはやはり粛々と私の髪を整えるだけだった。
そう言われて初めて会ったあの日のことを、今でも鮮明に覚えている。
運命の番として紹介された彼は、この国の竜王の息子。
サラサラと流れる金色の髪と、緑の瞳が美しい、まさに絶世の美貌と称されるに相応しいお方。
こんな素敵な人が番だと紹介されたなら、世の女性は殆どがこの光栄な事態を受け入れたかもしれない。
むしろ自ら進んで望んだことだろう。
――けれど、世の全ての女性がそうなる訳ではない。
「こんにちは、ユリア。これからよろしくね?」
涼やかな声音は穏やかで、それだけで紳士的な人柄を表しているかのよう。
驚くほどの美貌に和やかな笑みを浮かべて差し出された手を、私は取ろうとして――。
パチンとその手を叩いてしまった。
「いや、無理……。ごめんなさい、本当に美形だけはムリ……」
背中に寒気が走り、一瞬は応えようとして差し出した手は発疹を起こし始める。
そう考える間に吐き気までしてきた。
「ごめんなさい! いくら番と言われても無理なものは無理ですっ!」
手を差し出したまま固まる彼を置いてけぼりにして、私はその場から脱走した。
そして――あれから十年の歳月が過ぎた。
♢♢
美形嫌い。
美形を目にしただけで寒気が走り、触れたとなれば肌という肌が発疹を起こしてしまう。
一種の拒絶反応と呼ばれるその症状を、私が発してしまったのはいつだったか。
「おかげ様で自分の顔すら見られないのだから、困ったものだわ」
メイドに支度をしてもらっている横で、私はそう一人ごちる。
ユリア・センクレア。
竜王が統べるこのラングレー王国にて、公爵を賜わるセンクレア公爵家に生まれた、いわゆる貴族令嬢である。
国一番の歌い手と言われ、その容貌と目立つ銀の髪から『麗銀の美姫』と呼ばれているらしい。
らしい、というのはそれら全てが今の私にとってはどうでも良いからだ。
「逃げ続けたけれど……それももう今日で終わり、なのね」
一人ごとを呟き続けてもメイドはそれを諌める言葉を一切言おうとしない。
ただ粛々と与えられた役目を遂行するのみ。
「ああ、とうとう初夜が来るなんて」
竜王の名の通り、竜の血脈が代々国を治めるラングレー王国では、王族にのみ受け継がれる性質がある。
それは、宿命の伴侶となる番がいること。
王族であれば男女どちらであろうと必ず番は現れるそうだ。
竜の血を濃く受け継いだラングレー王族はこの番のみを生涯愛し、尽くすのだと言われている。
そしてどうしたことか、そのラングレー王族の血族の一人、ディートルート殿下の番に私が選ばれてしまったという訳だ。
「なんで選ばれちゃったかなぁ……」
番はラングレー王国では成人と見なされる十八歳の夜に王城へ迎えられ、初夜を過ごすのが習わし。
私は先日ついに十八歳を迎えてしまい、逃げる間もなく王城へ連行されてしまった。
逃げ続けた前科があるからか、ディートルート殿下の行動は私の予想より遥かに早かった。
その結果椅子に座らされ、城のメイドに初夜の準備を進められている。
頭を抱える私をよそに、無表情のメイドはやはり粛々と私の髪を整えるだけだった。
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