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02 アスラン
ずっと君を愛していた 5
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アスランは言葉を失くし、愕然とした。
自分の顔から血の気が引いて蒼白になっていくのが手に取るように分かる。
リステラが言ったことは本当なのか。
信じられなかった。
明かされた衝撃の事実にアスランは呆然とし、思わず後ずさってしまった。
その拍子に後ろにある椅子に座ってしまうが、そんなことにも構っている余裕がなかった。
「は……な、何を言っているんだい、リステラ。王族の……義務? そんな訳ないだろう? 僕は本気で君を愛しているんだよ? 君との婚約はすべて仕組まれたものだとでも言いたいのかい?」
「先程からそのように申し上げているではありませんか」
何を今更、と言いたげなリステラの返答。
明かされた事実を受け入れたくなくて否定の言葉を紡げば、すげなく返される。
リステラはただ淡々と事実だけを述べていた。
当然だ。アスランは王太子。いずれこの国の王となるべき人物なのである。
将来国の頂点に立つべき存在である彼が、王族のしきたりを知らないはずがないからだ。
フローランズ王国は『天蓋』によって魔素を隔てることで繁栄を遂げた国。
フローラが築いた天蓋は魔素に唯一対抗できる神気によって作られた大規模な結界。
しかし魔素も神気も元は同じ素子のひとつ。長く同じ姿を保つことは本来難しいことだった。
けれど天蓋がなければフローランズ王国は滅びてしまう。
それ故に生まれたのが神気に適性を持つ人物を天蓋と一体化させ神気を受け止める『柱神』の存在。
アスランが知らないはずは無いのだ。
『柱神』に選ばれたものがはじめから『天蓋』に身を捧げるための人身御供だということも。そうしてフローランズ王国は魔素の脅威から人々を守ってきたのだということも。
だからこそ天蓋に身を捧げた柱神の巫女の余命を傍で看取り、長年国を支えてくれた感謝を尽くす。それが王族に生まれた者の義務。
リステラが王妃からもたらされたこの情報を、アスランが知らぬはずは無い、そのはずだった。
彼は王族。将来王太子になるものが天蓋に関する事実と王族の義務を知らないなどあってはならないことだった。
「そういうことですので、私は貴方と婚約することも、結婚することも永遠に有り得ません。私は残り少ない自分の余生をただ静かに過ごしたいのです。どうかお察し下さいませ」
リステラはただ情報の擦り合わせを行っただけである。本来柱神にはもたらされることのなかったこの情報は王妃の思惑によってリステラにもたらされ、アスランには与えられていなかった。
話は終わりだ、と言わんばかりに目線を伏せるリステラ。
アスランは衝撃の事実にまだしばし呆然としながらも、一向にこちらを見て話をしようともしないリステラに微かにイラついていた。
確かに柱神と王族のしきたりを知らなかったことは事実。それに驚いたことも事実だ。
だがしかし、それでもアスランがリステラを心から愛していることは紛れもない事実である。
そこにもし王族の義務が介在していたとしても、アスランはリステラを選んだ。
アスランにとって己の伴侶としたいのはリステラだけなのだ。
他に替えなどきかない唯一無二の存在。
柱神となったリステラを待ち続けた十年、焦がれ続けた十年、決して短いとは言えないその年数アスランがリステラを想い続けたのは何よりアスランがリステラを愛しているからなのだ。
その想いまで否定されてこの婚約をなかったことにされるのは耐えられない。
気づけばアスランは怒りに震える肩を必死に抑えながら言葉を絞り出していた。
「……僕のこの気持ちは嘘だとでも言うのか? 君は」
唯一無二の伴侶として望んだ存在。
十年後に結婚しようと約束したあの日。
涙を流しながら微笑んだリステラ。忘れることはできないあの笑顔。
あれは嘘だったとでも言うのか。
あの微笑みは、決死の求婚了承の返事は、嘘だったとでも言うのか。
――ふざけるな。
ガタ、と椅子から立ち上がり、頭を伏せて何かをこらえるように拳を作った手が震える。
これまでにない怒りが湧き上がりそうになのを堪えながらアスランは静かにリステラの返事を待った。
しかし、現実は残酷だった。
「――だからそのように申し上げているではありませんか」
微かに動揺したように震えながら開かれたリステラの唇から零れたのは、否定の言葉。
「――!!」
耐えられなかった。
衝動に駆られるまま、リステラに歩みよったアスランはその華奢な両手を捕まえる。
「何をなさるのですか!?」
「君は、そんなにどうしても僕を拒絶したいのか!? 僕のこの気持ちが嘘なわけがないだろう! 僕はこんなにも、君のことを愛しているというのに!!」
アスランはどうしても許せなかった。
全てをなかったことにしようとするリステラが。
憎かった。決して自分を見ようとしないリステラが。
アスランは両手を掴んだままリステラをベッドへと連行し、そのまま押し倒した。
――そうだ。逃げられないようにそのまま馬乗りになり、拒絶の言葉しか紡がないこの唇を塞いでしまおう。
この可憐な唇を封じてしまえば、彼女は何も言うことはできない。
そうすれば、彼女も考えを改めるかもしれない。
そんな考えが浮かんでアスランは抵抗するリステラを組み伏せ、小ぶりの可愛らしい唇を自らのそれで塞いだ。
「アスラン、急に何をす――んんっ!」
リステラが抗議する声が聞こえた気がしたが、構わなかった。
長年焦がれた存在に触れている。その事実がまたアスランの気持ちを高揚させた。
長年恋い焦がれた存在。
――リステラ、これで終わらせはしない。
その可憐な唇も、愛らしい声も、華奢な身体も自分のものだ。
誰にも渡さない。
「ン――っ、アス、ラッ……ふっ……」
呼吸の合間に離れた唇から再度リステラが抗おうとするのが許せなくて、逆に舌を捩じ込んで黙らせる。
漏れ聞こえる今まで聞いたこともないリステラの甘美な声に、アスランはさらに舌をねじ込み、リステラの口腔を蹂躙する。
アスランは本能のままにリステラを手に入れようとしていた。
このままリステラを自分のモノにしてしまおう。そうすれば彼女は――。
――ドン!
次の瞬間、身体がリステラに突き飛ばされていた。
思わぬ反撃にあったアスランがベッドから転がり落ち、尻もちを着く。
その衝撃でアスランはふと我に返った。
「リス、テラ……?」
事態がいまいち飲み込めず呆然としたような声が漏れた。
そしてアスランは飛び込んで来た光景に目を見開いた。
目元に涙を滲ませ、身体を震わせながらリステラはこちらを睨みつけ、言った。
「……大嫌い!」
「!」
そう叫ぶとリステラは素早くベッドから抜け出して部屋を飛び出し、走り去った。
何も言えなかった。
震える肩を抱き寄せて、目に涙を溜め去っていったリステラ。
ただあの瞬間の顔が頭に焼き付いて離れなかった。
――リステラを傷つけてしまった。
誰よりも大事なはずの彼女を、自分が傷つけてしまった。
「何やってるんだ……僕は」
最低じゃないか。
そう呟いて、部屋に一人残されたアスランは脱力しその場にへたりこんだ。
自分の顔から血の気が引いて蒼白になっていくのが手に取るように分かる。
リステラが言ったことは本当なのか。
信じられなかった。
明かされた衝撃の事実にアスランは呆然とし、思わず後ずさってしまった。
その拍子に後ろにある椅子に座ってしまうが、そんなことにも構っている余裕がなかった。
「は……な、何を言っているんだい、リステラ。王族の……義務? そんな訳ないだろう? 僕は本気で君を愛しているんだよ? 君との婚約はすべて仕組まれたものだとでも言いたいのかい?」
「先程からそのように申し上げているではありませんか」
何を今更、と言いたげなリステラの返答。
明かされた事実を受け入れたくなくて否定の言葉を紡げば、すげなく返される。
リステラはただ淡々と事実だけを述べていた。
当然だ。アスランは王太子。いずれこの国の王となるべき人物なのである。
将来国の頂点に立つべき存在である彼が、王族のしきたりを知らないはずがないからだ。
フローランズ王国は『天蓋』によって魔素を隔てることで繁栄を遂げた国。
フローラが築いた天蓋は魔素に唯一対抗できる神気によって作られた大規模な結界。
しかし魔素も神気も元は同じ素子のひとつ。長く同じ姿を保つことは本来難しいことだった。
けれど天蓋がなければフローランズ王国は滅びてしまう。
それ故に生まれたのが神気に適性を持つ人物を天蓋と一体化させ神気を受け止める『柱神』の存在。
アスランが知らないはずは無いのだ。
『柱神』に選ばれたものがはじめから『天蓋』に身を捧げるための人身御供だということも。そうしてフローランズ王国は魔素の脅威から人々を守ってきたのだということも。
だからこそ天蓋に身を捧げた柱神の巫女の余命を傍で看取り、長年国を支えてくれた感謝を尽くす。それが王族に生まれた者の義務。
リステラが王妃からもたらされたこの情報を、アスランが知らぬはずは無い、そのはずだった。
彼は王族。将来王太子になるものが天蓋に関する事実と王族の義務を知らないなどあってはならないことだった。
「そういうことですので、私は貴方と婚約することも、結婚することも永遠に有り得ません。私は残り少ない自分の余生をただ静かに過ごしたいのです。どうかお察し下さいませ」
リステラはただ情報の擦り合わせを行っただけである。本来柱神にはもたらされることのなかったこの情報は王妃の思惑によってリステラにもたらされ、アスランには与えられていなかった。
話は終わりだ、と言わんばかりに目線を伏せるリステラ。
アスランは衝撃の事実にまだしばし呆然としながらも、一向にこちらを見て話をしようともしないリステラに微かにイラついていた。
確かに柱神と王族のしきたりを知らなかったことは事実。それに驚いたことも事実だ。
だがしかし、それでもアスランがリステラを心から愛していることは紛れもない事実である。
そこにもし王族の義務が介在していたとしても、アスランはリステラを選んだ。
アスランにとって己の伴侶としたいのはリステラだけなのだ。
他に替えなどきかない唯一無二の存在。
柱神となったリステラを待ち続けた十年、焦がれ続けた十年、決して短いとは言えないその年数アスランがリステラを想い続けたのは何よりアスランがリステラを愛しているからなのだ。
その想いまで否定されてこの婚約をなかったことにされるのは耐えられない。
気づけばアスランは怒りに震える肩を必死に抑えながら言葉を絞り出していた。
「……僕のこの気持ちは嘘だとでも言うのか? 君は」
唯一無二の伴侶として望んだ存在。
十年後に結婚しようと約束したあの日。
涙を流しながら微笑んだリステラ。忘れることはできないあの笑顔。
あれは嘘だったとでも言うのか。
あの微笑みは、決死の求婚了承の返事は、嘘だったとでも言うのか。
――ふざけるな。
ガタ、と椅子から立ち上がり、頭を伏せて何かをこらえるように拳を作った手が震える。
これまでにない怒りが湧き上がりそうになのを堪えながらアスランは静かにリステラの返事を待った。
しかし、現実は残酷だった。
「――だからそのように申し上げているではありませんか」
微かに動揺したように震えながら開かれたリステラの唇から零れたのは、否定の言葉。
「――!!」
耐えられなかった。
衝動に駆られるまま、リステラに歩みよったアスランはその華奢な両手を捕まえる。
「何をなさるのですか!?」
「君は、そんなにどうしても僕を拒絶したいのか!? 僕のこの気持ちが嘘なわけがないだろう! 僕はこんなにも、君のことを愛しているというのに!!」
アスランはどうしても許せなかった。
全てをなかったことにしようとするリステラが。
憎かった。決して自分を見ようとしないリステラが。
アスランは両手を掴んだままリステラをベッドへと連行し、そのまま押し倒した。
――そうだ。逃げられないようにそのまま馬乗りになり、拒絶の言葉しか紡がないこの唇を塞いでしまおう。
この可憐な唇を封じてしまえば、彼女は何も言うことはできない。
そうすれば、彼女も考えを改めるかもしれない。
そんな考えが浮かんでアスランは抵抗するリステラを組み伏せ、小ぶりの可愛らしい唇を自らのそれで塞いだ。
「アスラン、急に何をす――んんっ!」
リステラが抗議する声が聞こえた気がしたが、構わなかった。
長年焦がれた存在に触れている。その事実がまたアスランの気持ちを高揚させた。
長年恋い焦がれた存在。
――リステラ、これで終わらせはしない。
その可憐な唇も、愛らしい声も、華奢な身体も自分のものだ。
誰にも渡さない。
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呼吸の合間に離れた唇から再度リステラが抗おうとするのが許せなくて、逆に舌を捩じ込んで黙らせる。
漏れ聞こえる今まで聞いたこともないリステラの甘美な声に、アスランはさらに舌をねじ込み、リステラの口腔を蹂躙する。
アスランは本能のままにリステラを手に入れようとしていた。
このままリステラを自分のモノにしてしまおう。そうすれば彼女は――。
――ドン!
次の瞬間、身体がリステラに突き飛ばされていた。
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