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01 リステラ
貴方のソレは愛と呼ばない 1
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思ったよりも冷たい声を紡ぐことができた。
冷笑を浮かべた私を見て、アスランが今まさにこちらに踏み出そうとしていた足を止めて、戸惑った表情をする。
微かに苦しそうに歪められた表情。私の反応に傷ついているのが手に取るように分かる。
けれど、私の心はもう動かなかった。
大丈夫。私はもう動揺なんてしない。これから私が貴方の目を覚まさせてあげる。
貴方の私に対する想いは、私がかつて抱いていたものとは違う。ソレは「愛」ではないのだから。
それを気づかせてあげる。
貴方を私という枷から解き放つために。それが私のためであり、貴方のためなのだから。
「それで、御用とはなんなのでしょうか」
「用件は分かっているんだろう? なんで僕との婚約を破棄したんだ。君はあんなに僕を愛してくれていただろう? それともあれは嘘だったのか?」
「そのことですか。その件は昨日お答えした通りです。私はもう貴方を愛してなどおりません」
「──ッ!!」
目を合わせようともせずにただそう言った私に、アスランは激昂し、朝食が並んだテーブルをバン! と叩いた。
その拍子にハーブの香りが漂う紅茶が注がれていたカップが倒れ、白いテーブルクロスに茶色い紅茶のシミが広がってゆく。
アスランはそれに構うことなく、私に対する言葉を強めていく。
「僕はそんなことが聞きたいんじゃない! 何故婚約を破棄したのかと聞いてるんだ!!」
語気を荒らげ、怒声を響かせるアスラン。
私はそんな彼の様子を冷えた視線で睥睨する。
「少しは落ち着かれたらどうですか、アスラン殿下。それに私が婚約を破棄するのにそれ以外の理由がなければならないのですか? 第一貴方にとってもこの事態は願ってもないことでしょう。貴方が王族として負っていた役目から解放されたのですから」
私が返した言葉に、アスランが虚をつかれたよう固まる。
私はアスランにも話が通じるように返事をしたつもりだった。けれど彼はこちらの言うこと全く理解できないというように困惑した表情を浮かべた。
「リステラ、君は何が言いたいんだ? 僕が王族として負っていた役目? 解放された? 君との婚約が何故そんなことに繋がるんだ? さっぱり理解できない」
眉をひそめたまま首を振って問いかけてくるアスランに、私の心はより一層冷たくなっていく。
何をとぼけているのか。私の言ったことが理解できないはずはないのだ。彼は全て知っているはずなのだから。
私にはアスランが何故そんな態度をとるのかが理解できない。
それとも、敢えてとぼけて知らないふりをすることで私との婚約を続行するつもりなのだろうか。 もしそのつもりなら、そんなことはしなくてもいいのに。
アスランは優しいから、そこまでしても私に尽くそうとするのであろうか。
それが「義務」でなかったのなら、どれだけ嬉しかったか。
真実を知ることがなければ、彼との婚約も素直に喜ぶことが出来たのに。
でもそれは彼を苦しめることになる。
だからやっぱり、これで良かったのだ。
ともすれば再び崩れそうになってしまう決意に、私は早々にこの不毛な会話を終わらせることにした。
やっぱりアスランと二人きりでいるのは駄目だ。折角再び己を律し、彼を拒絶すると固く決意したのに、その決意が揺らぎそうになってしまう。
あくまでとぼけるアスランに私は十年前に知った真実を突きつけた。
「『柱神』に選ばれた者と婚約し、その者が役目を終えたら結婚する。それがこの国の王族の代々の義務である」
なぜなら。
「『柱神』の役目を終えた者は神気をその身に宿す。長年『天蓋』と一体化し、受け止め続けた神気は、やがてその者の身体を蝕む毒となり──その者を殺してしまう」
『柱神』に選ばれた者は代々短命。
役目を終えた『柱神』の中で数十年と生きられた者は存在しない。『柱神』の役目を終えた巫女の余命はせいぜい数年。
「王族はその『柱神』の巫女の最期を看取るまで伴侶とし続けなければならない。それが王族に課せられた義務」
だから。
「貴方は私を愛しているのではなく、王族としての義務で私と婚約をしただけなのだから。それを人は愛とは呼びません。貴方は私を愛してはいない。王族としての義務を果たしていただけに過ぎないのです。私はそれを十年前から知っています。だから私は貴方との婚約を破棄したのです」
貴方が私を愛していないと知ったあの日から。
私は貴方を愛することをやめたのだ。
冷笑を浮かべた私を見て、アスランが今まさにこちらに踏み出そうとしていた足を止めて、戸惑った表情をする。
微かに苦しそうに歪められた表情。私の反応に傷ついているのが手に取るように分かる。
けれど、私の心はもう動かなかった。
大丈夫。私はもう動揺なんてしない。これから私が貴方の目を覚まさせてあげる。
貴方の私に対する想いは、私がかつて抱いていたものとは違う。ソレは「愛」ではないのだから。
それを気づかせてあげる。
貴方を私という枷から解き放つために。それが私のためであり、貴方のためなのだから。
「それで、御用とはなんなのでしょうか」
「用件は分かっているんだろう? なんで僕との婚約を破棄したんだ。君はあんなに僕を愛してくれていただろう? それともあれは嘘だったのか?」
「そのことですか。その件は昨日お答えした通りです。私はもう貴方を愛してなどおりません」
「──ッ!!」
目を合わせようともせずにただそう言った私に、アスランは激昂し、朝食が並んだテーブルをバン! と叩いた。
その拍子にハーブの香りが漂う紅茶が注がれていたカップが倒れ、白いテーブルクロスに茶色い紅茶のシミが広がってゆく。
アスランはそれに構うことなく、私に対する言葉を強めていく。
「僕はそんなことが聞きたいんじゃない! 何故婚約を破棄したのかと聞いてるんだ!!」
語気を荒らげ、怒声を響かせるアスラン。
私はそんな彼の様子を冷えた視線で睥睨する。
「少しは落ち着かれたらどうですか、アスラン殿下。それに私が婚約を破棄するのにそれ以外の理由がなければならないのですか? 第一貴方にとってもこの事態は願ってもないことでしょう。貴方が王族として負っていた役目から解放されたのですから」
私が返した言葉に、アスランが虚をつかれたよう固まる。
私はアスランにも話が通じるように返事をしたつもりだった。けれど彼はこちらの言うこと全く理解できないというように困惑した表情を浮かべた。
「リステラ、君は何が言いたいんだ? 僕が王族として負っていた役目? 解放された? 君との婚約が何故そんなことに繋がるんだ? さっぱり理解できない」
眉をひそめたまま首を振って問いかけてくるアスランに、私の心はより一層冷たくなっていく。
何をとぼけているのか。私の言ったことが理解できないはずはないのだ。彼は全て知っているはずなのだから。
私にはアスランが何故そんな態度をとるのかが理解できない。
それとも、敢えてとぼけて知らないふりをすることで私との婚約を続行するつもりなのだろうか。 もしそのつもりなら、そんなことはしなくてもいいのに。
アスランは優しいから、そこまでしても私に尽くそうとするのであろうか。
それが「義務」でなかったのなら、どれだけ嬉しかったか。
真実を知ることがなければ、彼との婚約も素直に喜ぶことが出来たのに。
でもそれは彼を苦しめることになる。
だからやっぱり、これで良かったのだ。
ともすれば再び崩れそうになってしまう決意に、私は早々にこの不毛な会話を終わらせることにした。
やっぱりアスランと二人きりでいるのは駄目だ。折角再び己を律し、彼を拒絶すると固く決意したのに、その決意が揺らぎそうになってしまう。
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なぜなら。
「『柱神』の役目を終えた者は神気をその身に宿す。長年『天蓋』と一体化し、受け止め続けた神気は、やがてその者の身体を蝕む毒となり──その者を殺してしまう」
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だから。
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私は貴方を愛することをやめたのだ。
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