2 / 13
2 ティアラ・ラトゥーニの場合
しおりを挟む
「――ティアラ、知ってる? 最近将軍に愛人ができたらしいわよ?」
とあるお茶会に招かれて告げられた一言。
この日、ティアラ・ラトゥーニは一大決心した。
夫と離縁することを。
と言っても、離縁すること自体は元々考えていたことである。
ティアラの夫であるオルドフのアンゼス家はここラジエール王国において公爵の地位を頂く名家である。
貴族ではあるものの、子爵という下級階級出身のティアラが王族とも縁の深いアンゼス公爵家との縁談を組むことができたのはティアラがこの国でも希少な『精霊魔術士』として生まれついたからである。
精霊と交流し、その力を借りて奇跡を成す術士。
王国でもそう数はいない希少な才能を持って生まれたティアラを、王家が見逃すはずもなかった。
他の国や貴族から縁談が持ち込まれる前に王命で公爵家との縁談が組まれ、しがない下級貴族であるラトゥーニ家はただそれに従うことしかできなかった。
言うまでもない政略結婚。愛など存在するはずもない。
その証拠にティアラは結婚して四年間、夫に抱かれたことがなかった。
結婚初夜も勿論なく、夫婦らしい生活もしたことがない。
結婚式は挙げたものの、それ以降ティアラは公爵夫人専用の部屋を与えられはしたが、隣室の夫の私室へと繋がる部屋のドアが開けられたことは一度もなかった。
オルドフは元々この国でも将軍の地位にあり、実に多忙な日々を過ごしていてこの屋敷に帰ってくることも稀だった。
名ばかりの夫婦。まさしく白い結婚だった。
当時は公爵家に嫁げるなんてと夢を見たりもしたが、十六歳でアンゼス公爵家に嫁いで四年、二十歳になったティアラはそろそろ自分の身の振り方について真面目に考えるようになっていた。
四年も夫のお手つきがない以上、ティアラでは妻としての務めを果たすことができない。
自分は夫の好みの女性ではなかったのだろうと彼女は冷静に現実を受け入れ、この先どうするかを考えた時、ティアラは夫と離縁することを思いついた。
王命での政略結婚ではあったが、四年経っても身篭る気配がない公爵夫人を、世間はどう思うだろうか。
貴族というのも一枚岩ではない。
たとえ子爵という下級貴族であっても貴族令嬢であったティアラは知っている。
貴族の女性が果たすべき一番の役目は、子どもを身篭ることだと。
それを果たせないままいつの間にか四年過ぎ、妻として何もしていないのに公爵家の財産で生活していくことはティアラの想像以上に彼女のストレスとなっていた。
お飾りの妻として割り切り、公爵夫人としての豪勢な生活を送れるほど、ティアラは豪胆でもなかった。
幸いティアラには精霊魔術という類稀なる才能があった。この力がある限り、自分は一人でも暮らしていける。
王家にとりはからえば、宮廷専属術士として取り立てて貰えるかもしれない。
もう白い結婚も、お飾りの妻でいることもウンザリだ。
好みでもないのに結婚までさせてしまった公爵にも申し訳ないし、ここは自分から離縁を申し出よう。
そうしてティアラは、夫の帰りを待ち、公爵邸で出迎えた。
美形と称されるオルドフの精悍な容貌を琥珀の双眸で見上げて、一言。
「――旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
まさかこの後、夫がぶっ倒れることになるなど露知らず。
とあるお茶会に招かれて告げられた一言。
この日、ティアラ・ラトゥーニは一大決心した。
夫と離縁することを。
と言っても、離縁すること自体は元々考えていたことである。
ティアラの夫であるオルドフのアンゼス家はここラジエール王国において公爵の地位を頂く名家である。
貴族ではあるものの、子爵という下級階級出身のティアラが王族とも縁の深いアンゼス公爵家との縁談を組むことができたのはティアラがこの国でも希少な『精霊魔術士』として生まれついたからである。
精霊と交流し、その力を借りて奇跡を成す術士。
王国でもそう数はいない希少な才能を持って生まれたティアラを、王家が見逃すはずもなかった。
他の国や貴族から縁談が持ち込まれる前に王命で公爵家との縁談が組まれ、しがない下級貴族であるラトゥーニ家はただそれに従うことしかできなかった。
言うまでもない政略結婚。愛など存在するはずもない。
その証拠にティアラは結婚して四年間、夫に抱かれたことがなかった。
結婚初夜も勿論なく、夫婦らしい生活もしたことがない。
結婚式は挙げたものの、それ以降ティアラは公爵夫人専用の部屋を与えられはしたが、隣室の夫の私室へと繋がる部屋のドアが開けられたことは一度もなかった。
オルドフは元々この国でも将軍の地位にあり、実に多忙な日々を過ごしていてこの屋敷に帰ってくることも稀だった。
名ばかりの夫婦。まさしく白い結婚だった。
当時は公爵家に嫁げるなんてと夢を見たりもしたが、十六歳でアンゼス公爵家に嫁いで四年、二十歳になったティアラはそろそろ自分の身の振り方について真面目に考えるようになっていた。
四年も夫のお手つきがない以上、ティアラでは妻としての務めを果たすことができない。
自分は夫の好みの女性ではなかったのだろうと彼女は冷静に現実を受け入れ、この先どうするかを考えた時、ティアラは夫と離縁することを思いついた。
王命での政略結婚ではあったが、四年経っても身篭る気配がない公爵夫人を、世間はどう思うだろうか。
貴族というのも一枚岩ではない。
たとえ子爵という下級貴族であっても貴族令嬢であったティアラは知っている。
貴族の女性が果たすべき一番の役目は、子どもを身篭ることだと。
それを果たせないままいつの間にか四年過ぎ、妻として何もしていないのに公爵家の財産で生活していくことはティアラの想像以上に彼女のストレスとなっていた。
お飾りの妻として割り切り、公爵夫人としての豪勢な生活を送れるほど、ティアラは豪胆でもなかった。
幸いティアラには精霊魔術という類稀なる才能があった。この力がある限り、自分は一人でも暮らしていける。
王家にとりはからえば、宮廷専属術士として取り立てて貰えるかもしれない。
もう白い結婚も、お飾りの妻でいることもウンザリだ。
好みでもないのに結婚までさせてしまった公爵にも申し訳ないし、ここは自分から離縁を申し出よう。
そうしてティアラは、夫の帰りを待ち、公爵邸で出迎えた。
美形と称されるオルドフの精悍な容貌を琥珀の双眸で見上げて、一言。
「――旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
まさかこの後、夫がぶっ倒れることになるなど露知らず。
74
お気に入りに追加
4,806
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました
おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。
3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。
もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。
喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。
大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる