第七皇女は早くも人生を諦めたようです。

蓮実 アラタ

文字の大きさ
35 / 44
領地復興編 転章-緑の巫女-

とある王女の追憶

しおりを挟む
「……ん」


 闇に呑まれた意識を取り戻すと、私は不思議な空間に降り立っていた。
 無限の彼方に広がるという海のような、果ての見えない地平線のような場所にただ一人、私はぽつんと佇んでいる。

 辺りを見渡せば周りは全て白一色で覆われ、この世に一人だけ取り残されてしまったような感覚に陥ってしまいそう。
 しかしどうしてかこの不思議な空間はとても居心地がよく、懐かしさと安心感をもたらしてくれた。

 見渡す限りどこまでも白く、純白と言えるこの空間はどこかの見事なに似ていて親近感を覚えた。それが何故かおかしくて堪らずまるでの髪の色のようだわ、と私はクスリと笑った。

 そうしてこの不思議な空間を見回っていると、不意に声が聞こえてきた。


『……ラ!   ……エレ――ラ!!』

 声は途切れ途切れで上手く聞こえない。
 微かに聞こえるその声音は低く、辛うじてそれが男性のものだと分かる。
 中途半端にしか聞こえてこないその声。けれど私はそれが何故か自分のことを呼んでいるような気がした。
 そんな気がしてならなかった。

「ここよ!   ここに居るわ!!」

 だからその予感の通りに私は返事をした。
 そして声のする方向へ向かって歩き始める。
 戻らなければならない、そんな気がしたのだ。

 この全体が白一色で覆われた空間には何も無く、目印となるものも、指標となるべきものもない。
 自分を呼ぶあの声が、唯一の指針。
 けれど私の歩みに迷いはなかった。自然とどう進むべきか分かったのだ。

『エ――ッラ!   エレ――……!!』


 絶え間なく聞こえてくる声。何度も聞いているうちにその声音はこちらを心配している様子が伝わってくる。まるで必死に私を探しているような……。いや、これは間違いなくを探している声だ!

 そう気づいた途端、私は駆け出した。
 声の主が誰か分かったのだ。早く会いたい。その一心でひたすら足を動かす。
 身にまとっている白いドレスは無駄にスカートがヒラヒラ靡いて走りにくい。

 けれど悪い気はしなかった。
 なぜならこれは、あの人がくれたものだから。
 私の一番信頼できる人。一番愛しているひと。狭かった私の世界を、広げてくれた人。

 早く。早く!

 はやる心とは裏腹に走り慣れていない足は思う通りに動いてはくれない。
 私はそれが歯がゆくなった。『あの人』のようにスラリとした手足があれば、馬のように早く駈けることができただろうに。

 あの人が来るまでろくな食生活を送れなかった私の体は今では随分成長したように思うけれど、それでも同年代の女性に比べれば一際華奢だった。

 もっと大きくなりたい。あの人に相応しい女性になりたい。そんな思いにかられながら、それでも必死に走って、そしてついに――。

!!」

 私は白い空間から抜け出し、『あの人』の元へ飛び込んだ。
 私を見つけた途端、パッと顔を輝かせてエメラルドの瞳を潤ませながら両手を広げた『彼』に遠慮も容赦もなく飛びつく。

 愛しいその人が絶対に私を落としたりはしないと、わかっているからこその行動だった。
 その通りに彼はしっかりと私を抱きとめ、その勢いを利用して私を横抱きに抱える。

「探しましたよ……もう。心配させないでください」


 彼はこちらを覗き込むと優しく私を下ろし、その手を私の頬に添えた。
 そのどこまでも優しい手つきがくすぐったくてにこりと微笑むと、反対の手で肩にかかっていた私の髪を一房持ち上げる。
 陽の光を受けて、私のはキラキラと輝いた。

 彼は片足立ちになりながら私の髪の毛を自分の口元へ持っていくと、優しく口付けした。
 その瞬間私の体を光が覆い、一生懸命走ってきたことで疲労困憊だった私の体が一瞬で回復する。
 彼が魔術を使ったのだ。

「本当に貴女はお転婆な姫君だ。ご無事で良かった。あれだけ一人で『精霊界』へ行っては駄目だと申し上げましたのに……」
「だって、セーレが連れてってくれるって言ったんだもの!    そしたら途中ではぐれちゃったのよ。仕方ないでしょ?」
「全く貴女という人は……」
「文句ならセーレに言って頂戴。私は悪くないもの!」

 眉を下げて困った表情をする彼を見上げぷくっと頬を膨らませる。
 我ながら子どもっぽいとは思う。彼の前だとどうしてもそうなってしまうのだ。これもまた仕方がない。

 彼はそんな私の様子に苦笑すると私に向かって手を差し出してくる。頬をふくらませていた私はその手に気づくと、途端に嬉しくなって上機嫌になり、笑顔でその手に自分の手を重ねた。

「さあ、王宮に戻りましょうか。エレスメイラ殿下」
「そうね、ラキウス」

 こうして私とラキウスは手を繋ぐと、仲良く寄り添いながら王宮の方へと歩き始めた。


しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...