10 / 44
仕返し編
4 第七皇女は転んでもただでは起きない。
しおりを挟む
セイルはバサバサと翼をはためかせて私の肩から離れるとくるりとその場で一回転する。
空中で綺麗な弧を描きながらすとんと着地する頃には、セイルの見た目は一人の少女へと変わっていた。
夜闇にも目立つ雪のような真っ白な髪を綺麗に結い上げ、庭園から詰んだ生花の薔薇の髪飾りが一際目を引く。
その髪に包まれるようにしてあらわになる整った顔立ちの少女。すっと通った鼻筋も、小さく可愛らしい唇も人形のように整っている。
月夜に煌めく双眸は銀の光を放ち、凛とした雰囲気を漂わせる。
均整のとれた肢体を包むのは白く透き通った肌に映える薄紅色のドレス。
間違いなく「帝国の白雪姫」と謳われる第七皇女の姿が目の前にあった。
あら、なんとなく自画自賛になってしまったわね、まぁいいわ。
私の姿になったセイルは変化の出来栄えを確かめるように体のあちこちに視線を巡らせると、満足げに頷いた。
「さすがボク。完璧だよ! 身長から服装から胸の大きさまで完璧にレスだよ! この間より大きくなってるね!」
「胸のサイズまでリアリティを追求しなくていいわ!!」
思わず自分の胸を抑えながらセイルを睨みつける。
失礼な。きちんと大きさはあるもの。それなりに。体つきが少し華奢なだけだもの。決して胸が小さい訳では無いわ!!
「ごめんごめん」
全く悪びれもせずに笑うセイルにため息を着いた。
この子はいつもこんな感じだから怒った所で無意味だろう。
しかし良くもまぁここまで完璧に変化できるものだ。
完全に私に瓜二つな姿に化けたセイルをみて毎度の事ながら感心してしまう。
「エレスメイラ」だった私は前世の記憶を持って「レスティーゼ」として転生したが、受け継いだのは記憶だけではなかった。
エレスメイラは強大な魔力を持ち、精霊を使役する力に長けていた。
その力は今世でも受け継がれている。私は幼少時から魔力を扱い、精霊と交流することが出来たのだ。
その時に出会ったのがこのセイルである。
ある日庭を散策していた時に、明らかにこの世のものでは無い美しさを誇る銀色の鳥が怪我をしているのを見つけ介抱したところ、とても懐かれた。
それ以降セイルは私の元に留まり続け、願いを聞いてくれる。
変幻自在でしかも等身大の人間の姿をとれる精霊はそう多くない。明らかに高位の精霊であるはずだし、本来の姿も銀色の鳥では無いはずだ。精霊と多くの関わりを持つ私でも精霊に関しては未だ謎が多く、性別もあるのかどうか不明だ。セイルルートという名前も私が付けたもので本名は知らない。
けれどセイルは『レスに撫でられるのが好きー』と言って通常時はあのような鳥の姿でいるし、それ以外は私と同世代の少年のような姿で従者を演じることもある。
精霊は物好きが多いが特にセイルは異質だ。
本当になんで私の傍から離れないのかしら。
不思議で堪らずじっと見つめると、セイルは少したじろいだように視線を彷徨わせた。
「んで、えーと? 二の姉様ってメルランシアの事だよね?メルの所に行くってのはさっきレスがアイツの部屋の扉を閉める際に仕掛けた記録魔具と関係ある?」
セイルの問いかけに思わずぱちくりと瞬きする。
何だか急に話題を振ってきた気がするな。というか、そこまで見ていたのか。さすがに鋭いわね。
「ええ。さっきあの浮気男の部屋から出る際に仕掛けた罠についてちょっと相談したいことがあって」
先程浮気男の部屋から出る際に私は咄嗟に懐にしまっていた魔具をふたつばかり設置した。
録画と録音の機能を持つ魔具だ。
何故普段からそんなものを持っているのかって?
何事も備えあれば憂いなしだからだ。
皇女は何時いかなる時に命を狙われるか分からない。何事も備えておけば臨機応変に対処出来るというものだ。
――例えば浮気の証拠を抑えたりとか。
「あいにくと男を信用しないのは前世からの教えなのよね。それよりそろそろ戻らないと本当にお父様とお母様が心配してしまうわ。セイルお願いね」
「うん、わかったー」
間延びした返事をするセイル。姿は完璧でも皇女らしく振舞って貰わなきゃ困るのよね。
「言葉遣い!」
「う……。分かったわ、レスティーゼ。行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
ニッコリ笑って後ろから圧を送りくれぐれもボロを出さないようにと念を押す。
やがて私に瓜二つなその姿が見えなくなったところで、私もその場を去ることにした。
「さて、作戦会議しなきゃ。メルランシアお姉様の所にいこう」
これから楽しくなるわ。
ウキウキしながら私はお姉様がいる魔術塔へと歩いていった。
*
レスティーゼが去ったテラスへと続く廊下から一人の男が顔を覗かせた。男は静かに気配を悟らせないようにレスティーゼが去った方向を見つめる。
「レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツ第七皇女。『帝国の白雪姫』か。……随分と面白い姫君のようだ」
男は夜闇に紛れたまま黄金の瞳を意味深に細め、実に楽しげな声でそう呟いた。
空中で綺麗な弧を描きながらすとんと着地する頃には、セイルの見た目は一人の少女へと変わっていた。
夜闇にも目立つ雪のような真っ白な髪を綺麗に結い上げ、庭園から詰んだ生花の薔薇の髪飾りが一際目を引く。
その髪に包まれるようにしてあらわになる整った顔立ちの少女。すっと通った鼻筋も、小さく可愛らしい唇も人形のように整っている。
月夜に煌めく双眸は銀の光を放ち、凛とした雰囲気を漂わせる。
均整のとれた肢体を包むのは白く透き通った肌に映える薄紅色のドレス。
間違いなく「帝国の白雪姫」と謳われる第七皇女の姿が目の前にあった。
あら、なんとなく自画自賛になってしまったわね、まぁいいわ。
私の姿になったセイルは変化の出来栄えを確かめるように体のあちこちに視線を巡らせると、満足げに頷いた。
「さすがボク。完璧だよ! 身長から服装から胸の大きさまで完璧にレスだよ! この間より大きくなってるね!」
「胸のサイズまでリアリティを追求しなくていいわ!!」
思わず自分の胸を抑えながらセイルを睨みつける。
失礼な。きちんと大きさはあるもの。それなりに。体つきが少し華奢なだけだもの。決して胸が小さい訳では無いわ!!
「ごめんごめん」
全く悪びれもせずに笑うセイルにため息を着いた。
この子はいつもこんな感じだから怒った所で無意味だろう。
しかし良くもまぁここまで完璧に変化できるものだ。
完全に私に瓜二つな姿に化けたセイルをみて毎度の事ながら感心してしまう。
「エレスメイラ」だった私は前世の記憶を持って「レスティーゼ」として転生したが、受け継いだのは記憶だけではなかった。
エレスメイラは強大な魔力を持ち、精霊を使役する力に長けていた。
その力は今世でも受け継がれている。私は幼少時から魔力を扱い、精霊と交流することが出来たのだ。
その時に出会ったのがこのセイルである。
ある日庭を散策していた時に、明らかにこの世のものでは無い美しさを誇る銀色の鳥が怪我をしているのを見つけ介抱したところ、とても懐かれた。
それ以降セイルは私の元に留まり続け、願いを聞いてくれる。
変幻自在でしかも等身大の人間の姿をとれる精霊はそう多くない。明らかに高位の精霊であるはずだし、本来の姿も銀色の鳥では無いはずだ。精霊と多くの関わりを持つ私でも精霊に関しては未だ謎が多く、性別もあるのかどうか不明だ。セイルルートという名前も私が付けたもので本名は知らない。
けれどセイルは『レスに撫でられるのが好きー』と言って通常時はあのような鳥の姿でいるし、それ以外は私と同世代の少年のような姿で従者を演じることもある。
精霊は物好きが多いが特にセイルは異質だ。
本当になんで私の傍から離れないのかしら。
不思議で堪らずじっと見つめると、セイルは少したじろいだように視線を彷徨わせた。
「んで、えーと? 二の姉様ってメルランシアの事だよね?メルの所に行くってのはさっきレスがアイツの部屋の扉を閉める際に仕掛けた記録魔具と関係ある?」
セイルの問いかけに思わずぱちくりと瞬きする。
何だか急に話題を振ってきた気がするな。というか、そこまで見ていたのか。さすがに鋭いわね。
「ええ。さっきあの浮気男の部屋から出る際に仕掛けた罠についてちょっと相談したいことがあって」
先程浮気男の部屋から出る際に私は咄嗟に懐にしまっていた魔具をふたつばかり設置した。
録画と録音の機能を持つ魔具だ。
何故普段からそんなものを持っているのかって?
何事も備えあれば憂いなしだからだ。
皇女は何時いかなる時に命を狙われるか分からない。何事も備えておけば臨機応変に対処出来るというものだ。
――例えば浮気の証拠を抑えたりとか。
「あいにくと男を信用しないのは前世からの教えなのよね。それよりそろそろ戻らないと本当にお父様とお母様が心配してしまうわ。セイルお願いね」
「うん、わかったー」
間延びした返事をするセイル。姿は完璧でも皇女らしく振舞って貰わなきゃ困るのよね。
「言葉遣い!」
「う……。分かったわ、レスティーゼ。行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
ニッコリ笑って後ろから圧を送りくれぐれもボロを出さないようにと念を押す。
やがて私に瓜二つなその姿が見えなくなったところで、私もその場を去ることにした。
「さて、作戦会議しなきゃ。メルランシアお姉様の所にいこう」
これから楽しくなるわ。
ウキウキしながら私はお姉様がいる魔術塔へと歩いていった。
*
レスティーゼが去ったテラスへと続く廊下から一人の男が顔を覗かせた。男は静かに気配を悟らせないようにレスティーゼが去った方向を見つめる。
「レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツ第七皇女。『帝国の白雪姫』か。……随分と面白い姫君のようだ」
男は夜闇に紛れたまま黄金の瞳を意味深に細め、実に楽しげな声でそう呟いた。
2
お気に入りに追加
4,182
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる