第七皇女は早くも人生を諦めたようです。

蓮実 アラタ

文字の大きさ
上 下
7 / 44
仕返し編

1 第七皇女は目撃する

しおりを挟む
 ――15歳の誕生日に、婚約者の浮気現場を目撃してしまった。

 その日は私の誕生パーティが催されていて、王城の大広間に集まる人々の熱気に当てられた私は、少し夜風に当たって落ち着こうとテラスを目指して歩いていた時のことだった。

 廊下の角を曲がろうとして、風に釣られたように微かに聞こえてきた嬌声に思わず足を止めてしまった。

「なぁ、いいだろう……?」
「困ります……公爵様……あっ!」

 廊下の角を曲がったすぐ側にある部屋で、一組の男女が睦みあっていた。見れば扉が少し空いており、そこから声が漏れ聞こえてきたのだろうか。

 私はなんとなく気になって少し空いている扉の隙間から、そっと中の様子を伺った。

「はっ、……公爵様ぁ……」

 女は口では嫌がっているようだが満更でもなさそう。
 男は女を壁の間際に追いやり、手をついていた。
 いわゆる「壁ドン」の構図。二人は服をはだけさせ、半裸状態でキスを交わしていた。時々漏れる女の鼻にかかった甘い声。

 私は知らず詰めていた息をゆっくりと吐き出した。

 嬌声を上げている女には見覚えがある。大広間でやけに大仰な振る舞いをして注目を集めては、貴族の子息たちに色目を使っていたからだ。確か、どこかの地方貴族の男爵令嬢で今年デビュタントを迎えたとか言っていた気がする。記憶力には自信があるから間違ってはいないと思う。

 女の方はさておき、問題は男の方だ。
 部屋に明かりが着いていないが、月明かりに照らされても目立つあのアッシュブラウンの髪は見間違えようがない。

 あの男の名はモース・クロムウェル。貴族としての位は公爵。
 そしてあろうことかこのヘルゼンブール帝国の第七皇女たるこの私、レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツの婚約者だった。
 先程から姿が見えないなと思ってはいたが、成程。婚約者わたしを放ったらかしにして、自分はせっせと浮気していたのか。ふむ。

 何分にも及ぶ長いキスが終わると、女が呟く。

「いけません、こんなこと……皇女様に怒られますわ……」

 男はその言葉に鼻で笑った。

「はっ。何……皇女はまだ十五歳のお子様だ。気づきもしないよ」
「やだ公爵様ったら、いけない人……」

 二人はそのままベッドに倒れ込むと、本格的に情事を開始する。
 ピンク色とでも言うべき生々しい睦みあいが始まり、私はこれ以上見ていられず扉から離れた。

 女の声がより甘くなり、ベッドが激しく軋む音が聞こえる。
 二人はこれから熱い夜を過ごすのだろう。
 婚約者の私を放ったらかして、いいご身分だ。

「まさかその十五歳のお子様に、全部聞かれてるなんて思ってもみないんだろうなぁ……全部聞こえてるんだよ、お馬鹿め」

 憤慨した私は思わずそんな言葉を吐き捨てながら、ドレスのスカート内に付けられた内ポケットを、覗いていた事に気づかれないようにそっと扉を閉めると、その場を後にした。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...