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13 舞台の幕はこうして上がる

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 グレンフォード様との図書館での特訓から、さらに二週間後。
 ついにこの日が来てしまった。

 ロアンヌ侯爵邸の私室にて、本を読んでいた私は、机の横に掲げた時報せの機械からくり時計を見て、読んでいた本をパタリと閉じた。

「さて、そろそろ出かけなければ行けない頃合いね」

 アレクシスが居なくなって二週間。警戒しつつ普段の日常生活を送っていたが、彼が私の目の前に現れたことは今の所まだない。

 じっくりと時間をかけて計画でも練っているのだろうか。いずれにせよ、あちらの出方次第。私からは何もしないと決めているので、いつもの日常を過ごすだけである。

「それにいくら授業を免除されていても、今日から三日間は私も必ず学園に出なければならないことだし」

 今日から三日間、ついに始まるのだ。
 アレトラス学園に入学したならば、生徒が必ず通らなければならない卒業への最終関門。
 卒業をかけた学期末試験である。

 アレトラス学園の筆記試験は全部で十三科目。必修科目が五科目、あとは生徒がそれぞれの自分で取った授業の科目次第で、個々に試験内容も変わる。
 三日間の科目ごとの試験日程は決まっていて、生徒たちはその中で該当する試験を受けに行くのがしきたりだ。

 実技試験に関しては学期末試験の一週間前には教師たちによって事前に行われ、筆記試験と合わせて結果が発表される仕組みとなっている。

 勿論生徒は学期末試験に合格できなければ卒業は許されず、留年確定となる。
 卒業か留年か。まさに今日から三日間が、アレトラス学園の生徒にとっての運命の分かれ道。

 入学以来、首席を取り続けた私は勿論準備は完璧。授業を免除され、アレクシスから解放されたのをいいことに図書館で悠々自適に過ごしていたため、気力共に充実している。

 自身に関しては全く問題ない。そうなると、気になるのは「彼」のことである。

「グレンフォード様は大丈夫かしらね……」

 二週間、できることはやった。グレンフォードは座学が苦手なだけで、頭が悪い訳ではない。一度教えれば飲み込みは早く、アレクシスに勉強を教えていた時ほど苦労しなかった。

『魔法学』は必修科目のひとつ。いくら他の試験結果がよくとも、必修科目が平均さえ上回らなかった場合、留年もありえると噂に聞いたことがある。尚これに関しては真偽は定かではない。

 しかしあれだけ特訓したのだから、せめて平均以上は取って欲しいところだ。
 そう思いながら私は私室を出て、馬車に乗り込みアレトラス学園へと向かう。








 ――筈、だった。

 ***

「――って、呑気に考えていた時期が私にもあったわね。懐かしいわ」

 ガタゴトと揺れる馬車の中。
 車内がやけに揺れるのは舗装されていない道を進んでいるからだろうか。それとも急ぎの道中のせいだろうか。
 どちらにしろ、板張りの床に座らされ、身体の自由を奪われている今の私にはいささか辛いものがある。

「どうせならもっと丁寧に扱ってくれないかしら。私、これでも侯爵令嬢なのだけれど」
「命が惜しければ黙ってることだな。。お前さんを丁重におもてなしするのは、依頼主の屋敷に着いてからだ」

 目隠しをされ、視界を塞がれたまま苦情を申し立てれば、いかにもという感じの柄の悪そうな男の声が帰ってくる。

 彼の他に、あと五人ほど仲間がいたはずだが、彼らは一様に何も言葉を発することはなく、このリーダーらしき男以外は全て見張りとして傍に立っているのだろう。

 統率された動き。連携が取れていて、荒事に慣れている。裏稼業の者だろう。私を誘拐する手つきによどみがなかったということは、それほど手馴れているということか。

 学園へ向かう道中で突然出現した彼らは、ロアンヌ家の家紋を掲げた馬車をぐるりと囲むと、御者の首に刃物を突きつけて、中にいた私へ警告した。

『今から言うことに従わなければこいつの首は飛ぶ。悲鳴を上げたり、逃げるような素振りを見せても同様だ。我らに従えるならこの者の命だけは保障しよう。さてどうする?』

 青ざめた御者の顔を押さえつけ、そう問いかけた彼らは私が従うと応えると、すぐにこちらの身体の自由を奪った。そして用意していたらしい馬車へと乗り換え、どこかへ向かっているという訳だ。

 この者たちは一体誰で、私は今から何処に連れていかれるのか。
 そして私はこれからどのような扱いを受けるのか。

「そう。じゃあせいぜい楽しみにしておくとしましょう」

 全くもって楽しいことになりそうだ。私は密かに笑むと、ガタゴトと揺れる車内で身体を打ち付けないように受け身の姿勢をとった。

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