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8 アレクシス・ティアンの困惑
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いつになく上機嫌のアレクシスが馬車に揺られること数十分。ようやく窓からいつもの見慣れた学園の校舎が姿を現し始めた。
朝の陽射しを浴びて、白で統一された壁が光を反射し、輝きを増す。
「全く。いつ見てもこの校舎は美しいものだな。伝統と格式高く、歴史も感じる。まさにこの学園は僕に相応しい!」
アレクシスが通うアレトラス学園は、貴族が主に通う三つの学園の中で一番歴史が古い。
白壁が特徴の伝統ある建物と、生徒の自主性を第一とすることを掲げ、独自の制度を用いることで、生徒の勉学の多様性を広げ、育んでいる。
生徒は様々な授業うから自分で受けたいものを選んで、好きに組むことができる。学年末にはそれぞれの学科に応じた学年末試験が行われ、それに合格できれば進級できる、という仕組みだ。
生徒を重んじる校風と、教室内だけでの授業でなく定期的な課外授業、自分が興味のある分野へのフィールドワークなども行っており、その授業の幅の広さで非常に人気が高い。
それだけに入学も狭き門で、毎年作られる入学試験は特に難題として新聞にも取り上げられたほどだ。
セシルウィアはもちろんその優秀さから首位で合格したが、アレクシスはスレスレのギリギリでの合格。
決して胸を張れることでは無いが、それでも合格は合格であるとして、アレクシスはそれはもう周りに自慢して回ったものだ。
「そろそろ学期末試験が近いが、僕にはセシルウィアがいる。彼女に教えさせればなんとか卒業はできるだろう。むしろこの僕が教えを乞うてあげるんだ。セシルウィアは泣いて喜ぶはずさ!」
セシルウィアが未だ自分に執心していると信じて疑っていない彼は、いつものように彼女に勉強を教えさせることで試験を乗り切ろうとしていた。
今回は進級をかけた試験ではなく、卒業がかかった大切な学期末試験。これで合格できなければ卒業は認められず、もう一度同じ学年をやり直すことになるのである。
何よりも外面と外聞を気にするアレクシスにとっては大事な場面。早めにセシルウィアに準備をするよう言っておこう、と考え呑気に欠伸をした。
そんなことを考えながら進んで行く間に馬車は校門前に到着すると、外の御者から声をかけられた。
「――坊っちゃま。着きました」
「ああ、ご苦労」
馬車に揺られる間に崩れた衣服を直し、馬車の扉に備え付けてある鏡に目を向ける。
アレクシスは社交界を賑わせる選ばれた存在。
この後校門に控えているであろうファンのためにも、身だしなみは常に完璧である必要がある。一部の隙もあってはならない。
たっぷり三分はかけて髪を整え直し、首のクラヴァットを緩く締め直してから、ゆっくりと扉を開く。
あえてゆっくりとした動作で開くことで、ファンの自分に対する期待を最高潮にさせるのが狙いだ。
そして焦れったいほどの時間をかけて扉を動かし――最期の一瞬で素早く扉を開けて颯爽と登場する。
「やぁみんな、今日は爽やかな朝だね。僕は今日この良き日に朝から皆に会えることがとても嬉しいよ!」
爽やかな笑顔を浮かべ、手を挙げて登場したアレクシスを黄色い悲鳴をあげ、色とりどりのドレスを来た令嬢が我先にと近づいてくる……はずが、今日はいつもと様子が違った。
「あ、来たぞ!」
「アレクシス様だわ! 真実を確かめなきゃ」
「アレクシス様、嘘だと仰って下さい。あの婚約者が仕組んだデマなど私は信じておりません。私はアレクシス様の味方ですわ!」
「僕の婚約者とも関係を持っていたとはどういうことだ、説明してもらおう!」
押し寄せる人だかり。校門前には今まで見たことがないほどの人が集まっていた。
皆それぞれアレクシスに向かって叫んでいるが、あまりにも人が多すぎて個々を聞き取ることができない。
当然アレクシスは困惑した。
「これは何の騒ぎだ?」
と問いかけるも、誰もアレクシスの言うことが聞こえないのかそれぞれの主張を繰り返すのみ。
――一体これはどう言うことなんだ?
さらに困惑するアレクシスの前を、不意に一陣の風が通り過ぎる。
その風に乗って一枚の記事が彼の目の前に落ちた。
誰かが落としたものだろうか。普段なら気にもしないが、何となく気になったアレクシスはそれを手に取る。
そして、彼は驚愕した。
「な、何だこれは!?」
それは学園の定期新聞で、とある話題を一面に扱っていたものだった。それだけならまだよかったが、その記事に書かれているのは自分のことであり――。
「なんなんだ、この絵は――!?」
自分が昨夜クリスティアナと浮気していた、まさにその場面が描かれていたのである。
朝の陽射しを浴びて、白で統一された壁が光を反射し、輝きを増す。
「全く。いつ見てもこの校舎は美しいものだな。伝統と格式高く、歴史も感じる。まさにこの学園は僕に相応しい!」
アレクシスが通うアレトラス学園は、貴族が主に通う三つの学園の中で一番歴史が古い。
白壁が特徴の伝統ある建物と、生徒の自主性を第一とすることを掲げ、独自の制度を用いることで、生徒の勉学の多様性を広げ、育んでいる。
生徒は様々な授業うから自分で受けたいものを選んで、好きに組むことができる。学年末にはそれぞれの学科に応じた学年末試験が行われ、それに合格できれば進級できる、という仕組みだ。
生徒を重んじる校風と、教室内だけでの授業でなく定期的な課外授業、自分が興味のある分野へのフィールドワークなども行っており、その授業の幅の広さで非常に人気が高い。
それだけに入学も狭き門で、毎年作られる入学試験は特に難題として新聞にも取り上げられたほどだ。
セシルウィアはもちろんその優秀さから首位で合格したが、アレクシスはスレスレのギリギリでの合格。
決して胸を張れることでは無いが、それでも合格は合格であるとして、アレクシスはそれはもう周りに自慢して回ったものだ。
「そろそろ学期末試験が近いが、僕にはセシルウィアがいる。彼女に教えさせればなんとか卒業はできるだろう。むしろこの僕が教えを乞うてあげるんだ。セシルウィアは泣いて喜ぶはずさ!」
セシルウィアが未だ自分に執心していると信じて疑っていない彼は、いつものように彼女に勉強を教えさせることで試験を乗り切ろうとしていた。
今回は進級をかけた試験ではなく、卒業がかかった大切な学期末試験。これで合格できなければ卒業は認められず、もう一度同じ学年をやり直すことになるのである。
何よりも外面と外聞を気にするアレクシスにとっては大事な場面。早めにセシルウィアに準備をするよう言っておこう、と考え呑気に欠伸をした。
そんなことを考えながら進んで行く間に馬車は校門前に到着すると、外の御者から声をかけられた。
「――坊っちゃま。着きました」
「ああ、ご苦労」
馬車に揺られる間に崩れた衣服を直し、馬車の扉に備え付けてある鏡に目を向ける。
アレクシスは社交界を賑わせる選ばれた存在。
この後校門に控えているであろうファンのためにも、身だしなみは常に完璧である必要がある。一部の隙もあってはならない。
たっぷり三分はかけて髪を整え直し、首のクラヴァットを緩く締め直してから、ゆっくりと扉を開く。
あえてゆっくりとした動作で開くことで、ファンの自分に対する期待を最高潮にさせるのが狙いだ。
そして焦れったいほどの時間をかけて扉を動かし――最期の一瞬で素早く扉を開けて颯爽と登場する。
「やぁみんな、今日は爽やかな朝だね。僕は今日この良き日に朝から皆に会えることがとても嬉しいよ!」
爽やかな笑顔を浮かべ、手を挙げて登場したアレクシスを黄色い悲鳴をあげ、色とりどりのドレスを来た令嬢が我先にと近づいてくる……はずが、今日はいつもと様子が違った。
「あ、来たぞ!」
「アレクシス様だわ! 真実を確かめなきゃ」
「アレクシス様、嘘だと仰って下さい。あの婚約者が仕組んだデマなど私は信じておりません。私はアレクシス様の味方ですわ!」
「僕の婚約者とも関係を持っていたとはどういうことだ、説明してもらおう!」
押し寄せる人だかり。校門前には今まで見たことがないほどの人が集まっていた。
皆それぞれアレクシスに向かって叫んでいるが、あまりにも人が多すぎて個々を聞き取ることができない。
当然アレクシスは困惑した。
「これは何の騒ぎだ?」
と問いかけるも、誰もアレクシスの言うことが聞こえないのかそれぞれの主張を繰り返すのみ。
――一体これはどう言うことなんだ?
さらに困惑するアレクシスの前を、不意に一陣の風が通り過ぎる。
その風に乗って一枚の記事が彼の目の前に落ちた。
誰かが落としたものだろうか。普段なら気にもしないが、何となく気になったアレクシスはそれを手に取る。
そして、彼は驚愕した。
「な、何だこれは!?」
それは学園の定期新聞で、とある話題を一面に扱っていたものだった。それだけならまだよかったが、その記事に書かれているのは自分のことであり――。
「なんなんだ、この絵は――!?」
自分が昨夜クリスティアナと浮気していた、まさにその場面が描かれていたのである。
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